2月14日とイタチさん
 


とある繁華街。
物資調達のため、イタチさん…ではなく小南さんと来ていた。

イタチさんに今日はアジトにいて欲しいと、置いてけぼりをくらい暇を持て余していた私に声を掛けてくれたのが小南さんだった。

イタチさんがそう言うときは、決まって汚れ仕事だというのは知っているし、何故連れて行ってくれないのかもよくわかっているから、素直に聞くようにはしている。

しているのだけど…


「気持ちは晴れない?」


隣を歩く小南さんの声に、その顔を見上げる。
彼女は変わらず前を見て歩いていた。


「いえ、特に沈んでる訳では…」


同性だとは言え、話したことはそこまでない。
ましてや任務以外のことなんて。

私の返答に、特に反応することなく小南さんは変わらず前を向いて歩いている。
よもや、私が一人でアジトにいることを気にかけて外に連れ出してくれたわけではないだろう。

いや、そうであって欲しい。
ただ人手が足りないから、そういう単純な理由であって欲しい。
でないと、暁という集団は最後には…


そんなことを考えていると、ふわっと鼻に香った甘いもの。
その匂いの元を視線で辿ると、洋菓子屋があった。
そこには、沢山のチョコレートが店先に並んでいる。


「2月14日、もうすぐバレンタインデーね。」


思っていたことを口に出してしまったのかと思ったが、それは小南さんの声だった。
小南さんが立ち止まったので、自分も立ち止まる。

何も言わず、小南さんは色取り取りの包装に包まれた菓子を見ている。


誰か、渡す予定の人がいるのだろうか?

気にはなるが、問う必要はない。
だから黙って私も同じく店先の物を見ていた。


「買って行かなくていいの?」

「…、特に、必要ないものなので。」


よもや問いかけられると思わなくて反応が遅れる。
敢えてなのか、主語のない問いだったが
聞き返す必要もないと判断し、そして問いかけには否定の言葉を返す。


「…そう、貴女がいいのなら、いいのだけど。」


そうして再び歩き出す。
私もその歩みを追う。


バレンタインの存在などここ数年完全に忘れていた。
それ故に、引っかかる。


バレンタインは、女性が意中の人にチョコレートを贈る習わし。

木の葉にいた頃は、そんなことを知らずに渡してしまったこともあるけど、義理チョコか友チョコと勘違いされていたのか、イタチさんは特段反応することはなかった。

それに今の私とイタチさんは所謂恋仲だ。
こんなイベントに乗っかって、わざわざ意思表示する必要はない。

ないのだけど…


アジトの自分の部屋のベッドで気付けば考えてしまう。

イタチさんは甘いものが好きだし、送ったところで別段問題はないだろう。
だけど、こんな俗世のイベントに乗っかるなんて浮かれ過ぎてる気がする。


「…。」

バレンタインであることを、意識しなければいいのか。


イタチさんが帰ってくるのは確か3日後、時間はまだある。
あくまで、任務の労いのためだ。

そう自分に言い聞かせて、近くの繁華街に影分身を向かわせた。


















「ええ〜ナニナニなまえちゃん、イタチ君にバレンタインのチョコ渡すの〜?」


にやにやと、卑しい笑みを隠しもせず目の前に立ち塞がるチャラ男もとい飛段。
イタチさんの部屋に行く途中、何故、このタイミングで出会ってしまったのか。


「そういうのじゃないです。」

「じゃあ、偶々ぁ?2月14日にぃ?チョコレート準備してたんだぁ?」


…ビックリするくらい煽りがうざい。

どうしてこの男は、私とイタチさんのことに関して茶々を入れてくるのか。

流血沙汰もやぶさかではない。
でも、ここで戦闘になればチョコレートが穢れてしまう。


「任務のことで用があるので。」

「つれないねぇ。あ、俺には?」


あるわけねぇだろ。
という言葉を飲み込んだ代わりに、鳩尾に右ストレートをお見舞いしたのは我ながら大人の対応だと思った。

それからも、部屋に行ったらイタチさんがおらず
アジト内を探していればデイダラに絡まれてるイタチさんを見つけて、デイダラには丁重に(重要)お引き取り願い、何とかイタチさんの部屋に二人で帰還できた。

その間も浮き足立ってるのを悟られないように気をつけていたのだが



「あぁそうか、今日はバレンタインか。」


あれだけ気取られないよう色々考えていたと言うのに、イタチさんにチョコを渡せば瞬殺だった。

包装もあからさまじゃないのを選んだし、普通に、ごく普通に、買い出しの時にたまたま見つけた甘味だと、特別感を出さないように渡したのに。


というより、イタチさんがこの日を認識してることにも驚いた。



「えぇと…その…」

「…?
違うのか?」


冷静に考えたら、知らない方がおかしい。
木の葉にいた時も普通にめちゃくちゃ貰ってたから。


「違わ、ないです。」


穴があったら入りたい。
今、とてつもなく恥ずかしい。
これならいっそ、思いっきりバレンタイン感を出して渡した方がよかった。


開けて良いかと律儀に尋ね、私の承諾を受けてから包装を解くイタチさん。
この沈黙の間、流れる独特の緊張感。

中身を見ると、イタチさんの目が輝く。
ほんとに、甘いものが好きだなぁ。


「食べていいか?」

「もちろん、イタチさんの為に買ってきたのですから。」


そうしてパクリと口に運べば、頬が綻ぶ。
口にあったようで良かった。


「すごく、美味しい。」

「それは良かった。」

「なまえも。」


イタチさんの顔を見て頬を緩めていた時に、ずいっと箱を差し出される。

イタチさんの為に買ってきたのだし、イタチさんが食べてる姿を見たい(とは本人には言わなかったけど)のだからと断れば、イタチさんの手元に箱は戻される。


「…。」

「ほら。」


戻されたと思ったが、今度はイタチさん手ずから私の口にチョコが押し付けられる。
この人、案外強引だな。


「美味しいか?」

「…はい、とても。」


チョコを食べる時に、ほんの少しイタチさんの指に唇が触れてしまったのだけど、イタチさんは気にする様子もなく、再びチョコを食べ始める。

私はと言えば、たったそれだけの偶然に心臓が煩いというのに。


イタチさんは最後の一粒に手を伸ばすが、その手が止まる。
不思議に思い見ていれば、イタチさんはそっと箱を包む。


「食べないんですか?」

「せっかくだから、勿体無くてな。」

「そんなに気に入ったのなら、また買って来ますよ。」


そう言えば、イタチさんはじっと私の顔を見る。


「今日、お前から貰えたこのチョコレートが、特別に美味しいんだ。」

まぁお前から貰えるものは、いつでもなんでも美味しいのだけど。


と、何ともないように箱を丁寧に片しながらそんなことを言うものだから、私は益々ちゃんと贈れば良かったと、後悔したのは言うまでもない。




























あとがき

めっっっちゃくちゃ遅くなってごめんなさい!!!!!
今まで書いてたつもりで全く書いてなかったバレンタインイベント!!小っ恥ずかしいです!←
しかし、小南さんと主人公本編でもっと絡ませたいと思ってたのですが全然絡ませられなかったので機会頂き感謝です(*‘ω‘ *)
手作りに奮闘して悪戦苦闘する主人公も書いてみたかったのですが、暁のアジトじゃ難しそうだな?と妙に現実的に考えてしまい、こうなりました。
ご期待添えてないかもですが、私は楽しく書かせていただきました(*´ω`*)
次はホワイトデーのお話ですね!絶賛妄想中なので、気長にお待ちいただければ幸いです(*´ω`*)
では、リクエストありがとうございました!!!



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