「あ。」
和菓子屋に入って目当ての物を探していたら、横からそんな声が聞こえて思わず顔を上げた。
そうして目があったのは、黒髪を長く伸ばした少女だった。
勿論、面識はない。
数秒、沈黙のまま視線が交わる。
次第にその少女は、おたおたと目を泳がせる。
「あ、ご、ゴメンね!
私が一方的に知ってるというか、あの…」
あたふたとしている少女が着ているのは、うちは一族の装束と良く似ている。
少女…と言っても私より年上そうだけど、その人が落ち着くのを待つ。
「ええと…なまえちゃん、だよね?」
「どうして、私の名前を知ってるんですか。」
身の上の問題で、木の葉の知り合いといえば上層部と暗部の人間と…それからサスケとシスイさんくらいで、他の人間との接触はほぼ皆無に近い。
なのに、どうしてこの少女は暗部の人間でもないのに私の名前と顔を知ってるのか。
その素朴な疑問を投げかけると、少女は一瞬身を引きかけたが深呼吸して落ち着いた。
「うん、そうだよね。突然こんなの怪しいよね。
私はうちはイズミ。
貴女のことは、イタチ君から聞いてて…」
一緒にいるのもよく見かけてたし、それで貴女のことを知ってたの。
うちはの性で全て合点した。
この人がうちは一族で、イタチさんと接点があるのなら知っててもおかしくない。
「そうでしたか。
貴女も、うちはの人なんですね。」
「うん。イタチ君とはね、アカデミーで一緒で…イタチ君は一年で卒業しちゃったんだけど…凄いよねぇイタチ君は。」
イタチ君、イタチ君、と彼女…イズミさんが口を開けばそれが溢れ出ていた。
とりあえずイタチさんの話がしたいのはわかったが、自分にどうして声をかけてきたのか(というより声が漏れただけだけど)要点が掴めない。
「あの…何か私に用事があったのでしょうか。」
そう問えば、イズミさんはハッとして、そうして頬と耳を赤く染める。
感情が忙しない人だ。
「いや、用事はなかったんだけど…お話ししたいなぁと思ってて…」
と、また目を泳がせる。
話し…私と話なんて何がしたいのだろう。
頭の中で解を探すために思考を巡らせる。
「嬢ちゃんたち、お話しするなら茶でも飲んでったらどうかね。」
店主のお爺さんが奥の座敷を指差す。
ここは店先だけでなく、飲食もできる店だった。
「なまえちゃんが、時間があればどうかな?」
おずおずと、そう問うてくるイズミさんを見ながら今日の予定を思い返す。
任務は夕方からで、特にこの時間帯は用事はない。
「はい、大丈夫です。」
そう返せば、イズミさんはパッと笑顔を咲かせる。
席に着き、品書きを見れば黒蜜きな粉餅があったので自分はそれにしようと決める。
イズミさんはあれやこれやと迷ってるようだった。
「あ、ごめんね私ばっかり見てて。
なまえちゃんはどれがいい?」
「大丈夫です、もう決まってるので。」
「早いね!何にしたの?」
「黒蜜きな粉餅に。」
「なまえちゃん、黒蜜きな粉が好きなんだ。」
改めて、そう言われると好きかと言われるとどちらでもない。
初めて食べたのがこれだった。
そもそも甘味自体、"一人であれば"食べようとは思わない。
嫌いではない、だけだ。
今日もこの店に来たのは、イタチさんに差し入れをと思ってのこと。
最近の彼は、"忙しい"から。
「あのさ…なまえちゃん、イタチ君と一緒の任務なんだよね。
その…元気かな、イタチ君。」
湯呑みを手で包み、そこに視線を落とすイズミさん。
それで、ようやっと彼女が私と話したい理由がわかった。
「ここ最近、立て込んでるので。
怪我はしてないです、忙しくしてるだけで。」
「そっかぁ…暗部のお仕事は、大変だもんね。
でも怪我がなくて良かった。」
「イズミさんは、イタチさんと家が近いんですか?」
同じ一族だから、こうして気にするのは当たり前なのだろうけど。
何か違う気がして、何でこんなにイズミさんがイタチさんを気にするのか知りたくて聞いた。
「同じ集落だけど、そこまでかな。
族長様のお家だし…まともに話したのなんてイタチ君がアカデミーに入学してからかな。」
それでも、1年でイタチ君は卒業しちゃったけど。
ポツリ、と零した。
私はアカデミーに行ってないから、よくわからないけど。
今までの彼女の話ぶりから、アカデミーの頃より疎遠になってしまったのだろう。
「イタチ君、アカデミーの頃から凄かったんだよ。
上級生から同級生を守ったり、実は影分身で授業抜け出してたり…あとお団子がすっごく好きなの!」
そう、屈託無くイズミさんはイタチさんのことを話す。
イズミさんはアカデミーの時みたいに、イタチさんと一緒に居たいんだなと、幼かった私はそう漠然と理解した。
それからというものの
縁が浅かったからか、はたまた私が本能的に避けていたのかはわからないが
イズミさんと会うことはなかった。
でも今ならわかる。
イズミさんがどんな気持ちで話していたのか。
もう少し、イタチさんの話を聞いておけば良かった。
イズミさんは、私の知らないイタチさんを見てきたのだから。
夜の眠りとは異なる静寂に包まれた家々。
風が吹けばむせ上がってくる鉄のにおい。
彼女は、最期に会えたのだろうか。
−−−−あとがき
かなり遅くなり申し訳ありません(*_*)
もし、君あり主人公がイズミちゃんと会ってればどうだったか、妄想してみました!
君あり書き終わった後に、真伝が発売されたので作中イズミちゃん登場させられず凄く悔しかったので、リクエストしていただき大変嬉しいです!
本当なら無自覚だった主人公が、段々恋心に気付いてイズミちゃんの存在を無視できなくなって色々葛藤していくんだろうなぁと思いつつ、それはまた別の作品で書ければなぁと目論んでます。
しかし、イズミちゃんとイタチさん、幸せになって欲しかったなぁ…
ではでは、リクエストありがとうございました(*´˘`*)