一期一振と五虎退
 


※Twitterお題 リプきたキャラで戦闘シーンを書く





太陽の光が、徐々に影を創り出す朝。
そうして呼吸音すらない、静寂を纏う道場。

そこにひとり、背を正して腰を据えていた。
まだ誰も触れていないその空気で静かに呼吸をしながら、刻が来るのを瞼を下ろして待つ。

そうして過ごしていれば、不意に空気が動く。
それに瞼を上げれば入り口に、白い光を背にした待ち人がいた。

「お待たせ、しました。」

おずおずと話すその声色はいつもと変わらない。
だが、いつもは柔いその瞳の色は明らかな意志を滲ませていた。

「私も先程来たところだ。謝る必要はないよ。」

そう言えば、安心したようにふにゃりと笑うのは
自分のよく知る弟の顔だった。
だがしかし、それもすぐに引き
その手にはしっかりと自身を握っている。

「お喋りは、これくらいにしようか。」

「はい、よろしくお願いします!」

互いに鞘から刃を引き出す。
独特の静寂、その瞳は朝に似合わぬ剣を帯びる。

とん、と軽い音からは想像できぬ速さで一気に間合いを詰められる。

それに対し、間合いに入られぬよう膝を落とし迎え撃てば
キン、と短な金属音と共に五虎退は後ろに飛び退く。

自分の弟は短刀が多い。
稽古相手によくなっていたため、間合いの感覚はよくわかる。

だが、稽古の時とは違う真剣同士の組合だ。
予想以上の動きに、内心ヒヤリとすると同時に気持ちが昂る。
が、それを悟られないよう刀を構える。

五虎退は、一度で仕掛けられなかったため
距離を置いたまま、次の攻め方を思考する。

後ろを狙うのか。
機動を活かして重心を崩させるか。
それとももう一度真正面からいくのか。

いくつもの攻め口を頭に巡らせ、そのタイミングを伺う。
それでいい、いくら練度が高いと言っても
強引な戦略では力の弱い短刀は押し負けてしまうのだから。

だが…


「…っ!!」

腱に込めた力で地を蹴り、グンと距離を縮める。
機動の問題で自分の体は五虎退の間合いまで入りきらない。
いつもより腕と腰を伸ばし、刀を振り切ればその切っ先が五虎退の前髪を掠めた。

それに対し五虎退は、飛び退いた反動で私の背後へと回る。
ここまでは読み済み。
飛んできた刃を弾き、五虎退の体勢を崩す。

このまま制すれば私の勝ちだ。
だが、

「っ…まだまだ、です!!」

体躯を柔らかく捻り、私の太刀筋を避ける。
そして体勢を立て直し、鋭い呼吸が左下から向けられる。

五虎退の切っ先が私の脇腹に
私の刃が五虎退の顔の真横に
互いの呼吸が止まる。


「…はい、よくできました。」

そう言うと、五虎退は大きく空気を吐き、そのままと床に座り込む。
その頬からは涙ではなく、汗が滴り落ちる。

「はぁ…はぁっ、やっぱり、一兄には届きません。
でも、僕は強くなります。」

その目に不安は浮かばず、一切の迷いのない強い意志が根付く。


修行に旅立つ朝。
一足早く、弟の成長した姿を感じたのは気のせいではないのでしょう。



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