Please wait!
 



学校帰り、ふらりと幻海邸を訪ねる。
都心と違って自然豊かなここは、やっぱり心が落ち着く。何より空気が綺麗だ。
門をくぐれば立派な日本式の屋敷が見える。

裏庭に行けば、道着を着たなまえが木刀を振るっていた。
その動きに合わせて、長い赤い髪が揺れる。
最近霊力に頼ってばかりで筋力が落ちたなんて言っていたが、俺から言わせてもらえれば、もう十分だと思う。
一心に木刀を振るなまえを縁側に座って見学する。



暫くすると、なまえが息を整え構えていた木刀を下げる。
そしてこちらに近づいて来て、木刀を柱に立て掛ける。
顔を見れば、透明な汗が滴っていた。


「毎日精がでるな。」

「鍛える以外にやることもないからな。」

そう言い、真っ白なタオルで汗をふく。
襟元は少しはだけ、サラシが見えていた。
そのまま俺の隣にストンと座る。



「...襟元、崩れてる。」

「え?あぁ...。」


そう言いなまえは襟元を正すが、じっと俺の顔を見てくる。


「...何か?」

「え、いや。蔵馬もそんなこと気にするんだなと。」



どういう意味だ。
言葉にはしなかったが、表情に出ていたんだろう、なまえはどこかバツの悪そうな顔をする。



「いや、その、俺のことは男として接してると思って...」

そう言いなまえは目を泳がす。
まだ何かあるな。
そんな思いを込めて、なまえの顔をこちらに向かせる。


「...!
な、なんていうか、悪い意味じゃない。
決して悪い意味じゃないんだが、その...

女の体なんて見慣れてると思って...。」



...確かに否定はできない。
が、人の良心をそんな風に思われるのも心外だ。
そのままトンっと軽く肩を押せば、いとも簡単になまえは背中から倒れる。


「え...。」

「なまえ、君は自分が"女"だって自覚がなさすぎる。
そして、"男"がどういう生き物かもわかっちゃいない。」


深紅色の瞳をめいっぱい広げて俺を見る。
今までならそんなこと気にせずに生きてこれたかもしれないが、今は違う。
油断してれば"こんな"状況にいつ陥るかわからない。


「胸元肌蹴させたまま男に近寄るなんて、男に犯してくれって言ってるようなもんですよ。」


そう言いぐっと顔を近付けると、なまえは慌てだす。
傍から見れば、俺がなまえに覆いかぶさって襲っているようにしか見えないだろう。











「...何してる。」


頭の中が底冷えするような低い声が静かに響く。
...迂闊だった。
そういえば最近たまに来るのだと、なまえが言っていた。
気配の消し方は流石としか言いようがない。
全く気付かなかった。


「...どうもお久しぶりです。」

上体を起こし、そう挨拶した瞬間、自分となまえの間を裂くように短刀が飛んでくる。
それを合図になまえの兄である龍は、再び自分に向かって短刀を飛ばしてくる。


話しは聞いてくれそうにないな。
いや、話したところで納得してくれそうにない。


短刀を避けるが、今度は足技が飛んでくる。
それをガードするも、骨の芯にその衝撃がビリビリと響く。
なまえがいる手前、流石に本気で戦うわけにもいかないが、本気を出さないとこのままじゃ殺されかねないな...

そう思い、隠してある薔薇に手を伸ばそうとするが、そうはさせまいと腕を押さえこまれ、その隙に足を払われ背中から地面に倒れ込む。
その衝動で思わず咳き込む。
そして有無を言わさずもう片方の腕も足で踏まれ押さえつけられる。


その早技に流石だなぁと感心するも、この状況からどう切り抜けるか頭を回転させる。
サラリとなまえとおなじいろの髪が流れ、頬にかかる。
そして切れ長の目がスッと細められる。



「このザマで千年先も守るなんざ、笑わせるな。」


剣を帯びた琥珀色の瞳にヒヤリとする。
白昼堂々と妹を襲い、挙句の果てに片腕しかない自分にいとも簡単に組み伏せられる軟弱な男。
龍の目に映る俺は大方そんなところなんだろう。
これじゃあ、あまりにも不名誉過ぎる。


少し本気を出そうと妖気を放出しようとしたその時






「...そういう関係だったのか。」



龍もその声に驚き声の方を見れば、そこにはタオルを首からかけているなまえの姿と犬神の姿があった。

しばしの沈黙。

先ほどまでなまえのいた縁側を見れば、そこにはなまえの姿はなかった。


龍と思わず目を合わせる。


「あー、その...2人がそういう仲だって知らなくて...だから最近、兄さんよくここにきてたんだ。」


その言葉にサーっと血の気が引く。



「ここじゃ風邪引くから...中に入った方がいいと思う...。」

邪魔してすまない。

そう言いなまえはタッと駆けだす。




「「...っちょっと待てなまえ!」」



龍と言葉が見事にハモる。
焦っているのは龍も同じらしい。
いや、なんでこうなった。

ハッとして残っている犬神を見れば、によによと笑いを浮かべている。



嵌められた...!!



くそっ!と内心舌打ちするも犬神に構ってる場合じゃない。
とにかく、なまえを捕まえて誤解を解かなければ...!









数時間もの壮絶な鬼ごっこの後、俺たちの必死な形相に引いたのか、何も言わずともなまえはその誤解を解いてくれた。







Please wait! fin.2014.2.16



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