その手に矛と盾
 


※四聖獣対戦後、ヒロインの目が覚める少し前のお話。








「そう言えばさぁ、蔵馬となまえって何で知り合ったんだ?」


前回の借りを返すと、蔵馬と桑原は幽助のおごりでとあるラーメン屋に来ていた。
そこで幽助は冒頭の質問を蔵馬に投げかける。


それと同時に、桑原の箸が止まった。


「偶然ですよ。偶然。
危うく殺されるところだったけど。」

と、ズズズっと蔵馬はラーメンをすする。



そういや何も考えずにラーメン屋にきたけど、蔵馬もラーメン食うんだな

と、ラーメンをすする蔵馬の姿を見て幽助は思った。



「殺されるって...何したんだ?」

「何もしてませんよ。たまたまなまえが妖怪を始末していたのに居合わせて
その妖怪の仲間だと勘違いされただけです。」

「...良く生きていられたな...。」

「なまえが自分の勘違いだって気づいてくれましたからね。」

あのまま勘違いされたままだったら、今ここにいないかもしれませんね。


なんて他人事のように蔵馬は言い、再びラーメンをすする。

ここのラーメン美味しいね、なんて言いながら。



「それが何だって姫さん抱っこする仲になったんだよ。」

お前のおふくろさんの件にだってあいつ関わってたし。


そんな幽助の言葉に、再び桑原の箸が止まる。


(え、親公認なのか?いやいやいや、いくらなんでもそれは...)

「桑原君、さっきから箸が進んでないけど...。」

調子悪いの?と蔵馬が桑原の顔を覗き込む。



「...いや、大丈夫だ。ここのラーメンがうますぎて食べるのが勿体ないだけだ。」

確かに美味しいよね。今度なまえも連れてこようかな。


なんて蔵馬の言葉にまた頭が痛くなったが、今はうまい言い訳が出来たことをよしとしよう。



「で、何でそんな仲良くなったんだよ。」

と幽助が再び話しを戻す。



「やけにこだわるんですね。」

「だってあいつの弱み一個くらい握っておきたいじゃねーか。」

修行していた時のことを思い出したんだろう、幽助の目が据わりだした。









「弱みね...。」

ドクダミの臭いに弱いだなんて言ったら、この辺りからドクダミが消えそうだな

そんなことを考えて、クスリと蔵馬から笑みがこぼれた。


「で?」

「...これもたまたまですよ。
図書館で偶然再会して、それから仲良くなりました。」

「あいつ、図書館なんか行くのか。」

「幻海さんから薬草についての知識を身につけることを課題として出されてたみたいで...」

俺が先生してました。

そう言いラーメンのスープを飲む。



「なるほど...生徒と教師の禁断の恋ってわけか...。」

その言葉と同時に、幽助の隣に座っていた桑原君がゴホゴホとむせだす。







あはは、幽助も面白いことを言うね。
桑原君が笑ってむせちゃったじゃないか。

と無邪気に笑う蔵馬。


そんな蔵馬を見て、桑原は考える。


(...そうだよな、恋に性別もなんも関係ないもんな。今まで受け入れられなかったのは、俺の器が小さかっただけだ。

浦飯を見てみろ。何事もないように受け入れてるじゃねーか。)


フッと桑原は笑みをこぼし、蔵馬をまっすぐ見つめる。


「蔵馬...俺は今まで器が小さい男だった...。でも変わるぜ。

恋にどんな隔たりがあろうと関係ないもんな。」

俺は全力でお前たちを応援するぜ。


その言葉に、一瞬蔵馬の顔が強張る。







まさか、桑原君はなまえが合成獣であることを知っている...?


「...桑原君、君はなまえのことをどこまで知っている?」

「え?どこまでって...知ってるっつっても、お前ほど知ってるってわけじゃねーけど。」

飛影だってなまえのこと知ってるだろ?

と、きょとんとした表情で答える。



「...いつ、彼女のことを知ったんです?」





















「......彼女?」






ぷっ




わははははははははははっ





幽助の大きな笑い声がラーメン屋に響く。



「桑原おめぇ!あいつのこと男と勘違いしてただろ!!」

蔵馬となまえの話しを出した時のおめぇの顔、超面白かったぜ!

そう言いながら幽助はヒーヒー言いながら笑っている。



「え、あ、だっておめぇ、一人称"俺"とか言うから!!」

てめぇ浦飯全部わざと勘違いさせるようにしゃべってたな!!


ぎゃいぎゃいと二人は騒ぐ。


つまりは桑原君は俺となまえが男同士でそういう関係だと思ってたわけで...


「全く...」

そう言いながら口元が緩む。
どうやら取り越し苦労だったらしい。



「でさ、本当のところはどうなのよ。」

「え?」

「なまえと。付き合ってんの?」

幽助が興味心身に、でも真剣な眼差しで問う。


「...ただの友達ですよ。
または妹みたいなものですね。」

「ふーん…」

納得がいかないといったような幽助の眼差し。



もう知りたいと思っていた彼女の
謎はほとんど知れた。
これ以上踏み込むこともない。


つかず離れずの距離感。
長年生きてきてこの距離感が一番心地いいことを知っている。


カランとグラスの氷が音をならす。


「浦飯、おめぇは人の恋路の心配よりも自分のことを心配しろ。」

良い加減怒らせてばかりじゃ飽きられるぞ。
と桑原君が釘を刺す。


それに、うるせー。と答え、そろそろ出るか。という幽助の言葉に、今日はこれにて解散となった。




外はほとんど日が落ちていた。

あれから5日。
そろそろまたあの真紅色の瞳を拝めるかな。

そんなことを思いながら、今日もあの深い山を目指す。







その手に矛と盾 fin.2013.8.1



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