比翼の鳥
 


火の国の東部、国境付近。

少し離れた距離に、同じタイミングで木々を蹴る音を聞きながら走る。


チカリ、と日が差し開けた場所に飛び出る。
そこには自分とイタチさんしかいない。


「追えるか。」

「…。」


イタチさんの言葉に耳と鼻にチャクラを集中させる。

仄かに残るターゲットのにおい。
そして地をかける足音。


「…!見つけた。」

その痕跡を追うように走り出せば、背後に着いてくるイタチさんの足音。


「あと5キロ、これ以上南下されると国境を越える。」

「大丈夫です、そう離れてない。
先に行きます。」


脚に風の性質のチャクラを練り上げる。
ぐっ、と力を溜めて地面を押せば見る見るうちに景色は変わる。


そして、


「っく!!」


ターゲットがこちらに気付きクナイを投げてくる。
それを体を捻って自分の軌道を変えて避ける。


足が着いたタイミングで武器寄せの術を発動し、五月雨に無数の手裏剣を放つ。
相手も手練れ、それは全て弾かれる。

敵の丁度斜め後ろ、そこに運悪く退路が出来てしまう。
それを見過ごす相手でもない。


でも…


「!!もう追いつかれ…」


面越しに赤く灯る瞳。
見てはならぬものを見た忍は、そのまま膝から崩れ落ちる。


「相変わらず、お見事ですね。」

「お前がうまく誘導してくれたお陰だ。」


現れたイタチさんは呼吸一つ乱すこともなく、手際よく倒れた敵の忍を拘束する。

対する私は、ほんの少し肺が痛い。
もう少し、うまくチャクラを練らないと…そんな反省をしていれば耳に捉えた物音。


「…。」


私の様子に気付いたイタチさんに、ハンドサインでまだ1人いることを伝える。
まだ、相手にはこちらが気付いたことを気付かれていない。

その合図をイタチさんは理解し、変わらず話を続ける。


「まぁ、強いて言うなら…もう少しチャクラを温存できるように調整すべきだ。
もう、術は使えないだろう。」

「気をつけてはいるのですが…ちょっと張り切り過ぎました。」


ヘタリ、と地に尻をつけて座り込む。
その瞬間、地面が盛り上がり瞬く間に体が縛り上げられる。

これは…


「封印術…解けそうか?」

「これは無理ですね。」


手も縛られてるから印も結べない。

どうしたものか、と思考しようとしたその時
グンと突然首を後ろから羽交い締めにされる。


「仲間を解放しろ。さもなくばコイツを殺す。」

ギリギリと気管が締まり切る瀬戸際まで締め上げられる。
流石に体格差がある。結構苦しい。


「わかった、同時に解放する。」


イタチさんが縄を解き、捕獲した忍から距離を取る。
相手の忍は私を突き放すように解放する。


が、


「馬鹿が、忍に約束などあるわけないだろう!」


容赦なく背中に刺されるクナイ。
その場に崩れる私の体。


流れるはずの血の代わりに無数の鴉がその場を黒に染め上げる。

相手はそれに動揺する。
その好機を逃さず待機していた木の幹を蹴り、忍の頭上高くから踵落としを見舞う。


「チィ!!」

「あ。」


うっかり殺してはいけない。
そう思い肩を狙うが、それゆえに浅かった。

忍は仲間を奪還するのを諦め再び森へと走り出す。


走って追いかけるより、相手の進行も妨げられる風遁の術を使うのがいい。

風遁・大突破の術の印を結ぶ。
でもまだ術の精度が低く、手加減や細かな狙いを定められない。

迷いが生じる。


「そのままチャクラを練り上げろ。
要領は俺に任せろ。」


後ろから掛けられた言葉。
それに迷いはすぐさま消える。


「チャクラ量はもう半呼吸落とせ。
あと一歩右に、左足を一足分後方に。」


イタチさんの言葉に体を従わせる。
そうするとカチリ、と何かが合わさる感覚。


今だ、というイタチさんの掛け声と同時に放つ術。
それは逃げるターゲットの丁度右側に当たり、周りの木々も薙ぎ倒す。

まさかやってしまったか、と思い急いで息を確認する。


相手は気絶し、右肩を骨折していたものの生きている。


「うまくいったな。」

「イタチさんのお陰です。
私一人じゃ、できなかった。」


全部、イタチさんが写輪眼で見切って
状況に応じて作戦を練ってくれたから。

私はそれに従っただけ。


「それは当たり前だ。そのためのツーマンセルだ。」


そう言いイタチさんが、拳を差し出す。


「俺も、お前がいないと任務を達成できなかった。
…これから、よろしく頼むよ。」


その拳に己の拳を合わせて、あぁこの人と一緒にやっていくのだ。
この人となら一緒にやっていけると、そう思えた。


それからも
時には背中合わせに敵陣を切り抜け、時には互いの肩を支えながら帰路に着き、暇さえあれば共に修練を積んだ。

互いの呼吸感覚、体の癖、動作の律動…
それらが自分の一部になった。

だから…










「お久しぶりですね…イタチさん。」


だから、わかる。
イタチさんがどういう覚悟で今この場に立っているのかも。



「5年ぶり…か。」


だからこそ、私もそれに応えなければならない。


5年…きっとイタチさんはあの頃よりさらに強くなったのだろう。
でも、私も強くなった。


強くなったんだよ、イタチさん。



互いの間で飛び散る火花。
互いを突き刺す視線。


貴方に抱いた淡い感情は
貴方の糧にはならないのだろう。

私一人じゃ、その想いは捨てられないから
"暁のうちはイタチ"として、私を殺しに来てください。

私も"木の葉のはたけなまえ"として
本気であなたを殺しにいくから。


本気の殺意。
躊躇なく体に刺さる刃。
消えぬ傷跡。
全てを呑み込む冷たい水音。



どんな結果になったって、
あなたは振り返らずに前に進んでください。


私と貴方は同じ未来にはいられないけど

きっとまたいつか
一緒に飛べる日が、来るはずだから。



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