思いの綴り方
 


*木の葉時代のお話し



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最初は重要任務の言伝だと思っていた。




緊張で強張った声。
手だって震えてる。


同じ人からだったり、違う人からだったり。
とある人宛、ちょくちょく渡される封筒。


誰からの遣いだろう。
余程切羽詰まった内容に違いない。



"絶対に、渡してね"



不安の裏に隠れている期待。
震える手に一心に込められている強い意志。


任務だなんて、そうじゃないことなんて
誰に教えられずともいつかはわかる。





今日も渡された封筒。
この人は確か三度目だ。
すっかり顔は覚えられてしまった。



「イタチ君にこれ、よろしくね。」

最初の緊張なんてなんのその。
にっこり笑う様は紛れもなく女子で、その声は恋する乙女で。

可愛い笑顔で断らせる空気なんて圧してしまうのだから、女子は強い生き物なんだよ。と
いつかのカカシ兄さんの言葉が体験となり、その言葉の意味を正確に理解する。


ていうか、なんでここの里の女子たちは
私がイタチさんと面識あるのかなんて知ってるのか。



…あぁ、甘味屋かぁ。と自己解決し、
その可愛らしい、何となく甘い匂いのしそうな封筒を片手に、特段急ぎもせず目的の人物がいるであろう場所に向かう。


コレだってわざとだ。
別にイタチさんに愛の詰まった言伝を渡したくないとかそんな可愛らしい理由じゃない。

私の後を着いてこれば憧れの"イタチ君"と直接話ができるのだ。
面と向かって話せばいいだろうに。


そんなことを通算七度目のプロの伝達者に言ってみれば
"隊の掟だから駄目"なのだそう。
なんだ隊って。
他にも部隊があるのだから不思議だ。


そんな厳格な掟によりその部隊の彼女達はイタチさんと一人で直接話すことは許されないらしい。
私も誘われたが、それだと手紙渡せなくなるよと言えば大人しく引いてくれた。



「というわけで受け取ってください。」


イタチさんに一応丁重に渡す。

イタチさんはいつものように表情を一欠片も変えずに受け取る。
本物の言伝の方が表情動くのだからおかしな人だ。


「毎度毎度ご苦労だな。」

「そう思うならイタチさんが直接回収するなり、お便り箱でも作ってくださいよ。
いつ敵襲があって、大事な言伝を渡せなくなるか不安で仕方ないんですから。」

そうイタチさんに意味のない嫌味を言えば、隣でピリリと丁寧に封を切り、内容を読み始める。
敵襲=イタチファン同士の潰しあい
がいつあってもおかしくないのは、本当なのだが。



「イタチさん、そういうのって人のいないとこで読むものだと私でもわかりますよ。」

「読んだ事実を知る証人が必要だろう。」


証人もとい、何かあった時に盾に使われるのは私か。
悪びれもなくこんな事を言うのだから、つくづく食えない人だ。

淡々と、その黒い目が文字を追う。
任務時のミミズの這ったような墨色の淡白な文字とは違い、愛らしい丸みのある文字。
その便箋のせいか、遠目にも色が多い気がする。

ものの数十秒。
イタチさんは手紙を畳んで封筒に入れなおし、懐にしまう。

あぁ、これでこの文はもう読まれることはないのだろうと、彼女達もよく懲りもせずに届かぬ言葉を毎度毎度飽きもせず綴るなと思っているとイタチさんがこちらを見る。


「返事は書かないんですか。」

「差出人の顔がわからないからな。」


何となく、理由をつけて逃げてるんだなと直感的に思った。
面倒なら受け取らなければいいのにと、前に言ったことがあるが、ミコトさんがうるさいのだと言っていた。

どうにも目敏いらしい。
流石はイタチさんの産みの親だ。


「私知ってますよ。
直接的会わせてあげましょうか。」

「そんなことしたら、お前の身が危険なんじゃないのか。」


なんだ、部隊があるのを知ってたのか。
この話題は何となく飽きたので、私はそれ以上話すことをやめた。

今日の任務はなんだっけかなと、木の幹に思い切りもたれて葉っぱの隙間から空を見る。


「迷惑なら、俺に脅されて渡せないとでも言っておけばいい。」

「仮に本当だとして、彼女達が信じるとでも思いますか。」


あ、話が戻ったなんて思いつつ
イタチさん信者隊の屈強な戦士達の前に、都合の悪い言葉なんて、私の嘘屁理屈だと取られるに決まっている。

余計に面倒になるだけだ。


「一人くらい、気になる人いないんですか。」

「気になるか…一人いるな。」



まさかの言葉に思わず視線をイタチさんに向ける。
今度はイタチさんが空を見ていた。




「かなり巧みに表現する人がいてな。
こういう風に思いを言葉として、形として表現できるのかと、勉強になる。」


心配して損した。
なんだ結局この人の知識の肥やしになってるだけか。
その人が、少し憐れに思えたけどそれさえも喜びそうだなあの信者達は。


「イタチさんが彼女達のお手紙をただの教科書としてしか見てないのはよくわかりましたが、
そんなに知識を蓄えて、言葉を贈りたい誰かでもいるんですか。」

好奇心、とほんの少しの嫌味。
何だか最近性格が曲がってきてる気がするが、伝書鳩役に疲れてきたからに違いない。

タダ働きだ。
これなら暗部の任務の方が割に合う。


暫く返ってこない返事。
まずいことでも聞いたかと、イタチさんを見る。


「そういうことは、考えたことはなかった。
…思いを形にできる彼女らは、すごいな。」

イタチさんは先程しまった封筒を見ていた。



やっぱりいるのか。
気付かなきゃよかった、なんだかつまらない。


心にモクモクと沸く妙な感情。
どうやって言葉に出せばいいかわからない。
彼女達なら知ってるのだろうか。


私も彼女達に教えてもらおうかな。と口に出せば
イタチさんが真顔で何故だと聞いてきたが当然言えるわけでも無く、


その後数日間、二人の間におかしな空気が漂っていたのはまた別の話になる。



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