いつか気付くその時は
閑静な民家の間の道を何の迷いも歩く朝。
久し振りの休日に心はいつもよりも軽い。
そうして歩いていけば、見慣れた門が見えてくる。
誇り高きうちは一族を束ねる族長、うちはフガク邸。
勿論、その族長様に用がある訳でもなく…
「おはようございまーす…と
流石、もう準備万端か。」
玄関をカラリと開ければ案の定一番の友人であり、弟分のうちはイタチが丁度靴を履いたところに出くわす。
「此処まで来なくとも、外門で良いと言ったのに。」
「なに、ちょっと道逸れりゃお前ん家なんだ。
待ち合わせすることもねぇだろ。それに…」
バタバタと、階段を降りてくる小さな足音。
それが誰のものかは考えるまでもなくわかり、イタチを見れば案の定ほんの少し飽き飽きした顔をしていた。
「兄さんどこ行くの俺も連れてって!!
あ!シスイさんおはよう!」
「よぉサスケ、おはよう。」
バタバタと現れたサスケはいつもの常套句を口にする。
口を開けば兄さん兄さんと囀るサスケはまさに雛鳥そのものだ。
イタチがサスケにバレないようにこっそり家をいつも出ようとしてるのは知っているが、それも虚しく大抵こうして見つかり、自分も連れて行けとせがまれる。
10才で暗部入りを果たし、天才と持て囃されるこのうちはイタチの行動に目敏く気付くのだ。
将来はかなり有望なのは間違いない。
とは言え、イタチが本気でバレないように家を出れば絶対に気付かれないのだろうが…
「サスケ、今日はダメだ。遊びに行くんじゃない。」
「嘘だね!また二人で修行するんだろ?
俺も連れてってよ!」
サスケのいつもの駄々に、イタチはサスケからは見えないようにため息をつく。
おいおい、あれだけ溺愛してる可愛い弟のお願いにそりゃないだろ。
「修行なら母さんに見てもらえ。」
「やだ!この前もその前の約束も守ってくれてないだろ!」
そんな子どものやりとりに、噴き出しそうになるも何とか抑える。
このやり取りを見たいがためにわざわざ家に寄ってるだなんて言えない。
そしてチラリとイタチを見れば、サスケを宥めながらも、今日はどのルートでサスケを撒くか考えている様だった。
そんなイタチとサスケのやり取りに、俺は火種を投下することにした。
「そういやぁ、なまえも休みだったんじゃなかったか?
サスケ、今日は俺たち別件入ってるから修行はなまえに見てもらったらどうだ。」
ピタリと止まるサスケの口。
そうしてイタチの呆気にとられた表情。
そこで俺の堪えていたものは、とうとう噴き出してしまった。
あの後サスケが思案顔になった隙に、俺とイタチは速やかに外に出た。
だがそんなことで諦めるサスケではない。
急いで背中を追いかけてくるのが気配でわかる。(というか、サスケの声が追いかけてくる)
"兄さん待ってよ!"そんな声が近所中に響くものだから、イタチは更に足を速める。
そうしてキッと俺を睨みつける。
「シスイ…」
「悪りぃ悪りぃ、あんまり一生懸命食いついてくるから、ついからかいたくなってなぁ。」
なんて、俺の一番の目的はサスケではなくイタチをからかうことだ。
いつも大人顔負けの鉄仮面のこいつが、唯一子どもらしい表情になるのはサスケが関与したとき。
そして…
「何故なまえをダシに使った。」
なまえのことでも、それらしい顔を見せることが最近わかった。
「ダシだなんて人聞きの悪い。
別にいいじゃねーか、なまえだって歳の近いサスケと遊ばせた方がいいだろう?」
「昨日まで遠征だったんだ。休ませないと駄目だ。」
いやいや、そしたらお前だって俺と修行するよか休めよ。と言いたいのをグッと我慢する。
何かわからんが正論そうで、屁理屈言ってるイタチが面白すぎる。
トン、と二人揃って軽く地を蹴り、大きな樹の太い枝に飛び乗る。
立派につけた葉が俺たちの存在を隠してくれる。
そして視線を少し遠くにやれば、木の葉で一番大きな通りが見えるのだ。
「…撒いたか。」
「別にいいんじゃないか?一緒に修行くらいしてやったって。」
と、言っては見たもののきっとイタチだって本当はサスケに構ってやりたいはずだ。
それが出来ない理由は、うんざりする程わかっている。
視線を里に戻す。
「…お、早速見つけたみたいだ。」
遠くからでもわかる真っ赤な髪。
武器の調達か、店先のクナイを熱心に見ている。(本当はもっと年相応らしいものを見た方が良いんじゃないかとかは別の話に取っておく)
そこにサスケが一直線に駈け寄る。
本当に目敏い。
そうして見事なまえと合流する。
あ、あの感じ絶対に今朝の仕打ちを愚痴ってるな。
「まぁこれで俺たちも心置きなく…」
行けるよな。という残りの言葉は急いで呑み込む。
感情を一切感じさせない完全に無の表情なイタチ。
こういう時は何かを隠そうとしているときだ。
その何かというのが最近何となく分かってきたから、込み上げてくる笑いを必死に喉元に留める。
サスケがなまえの手を引く。
その何気ない子供らしさに安堵する自分がいる。
約一名、子供らしくないのが隣に居るのだが。
「イタチもあれくらい積極的になればなぁ。」
「何の話だ。」
「…いずれわかるさ。」
洞察力抜群なこいつが、自分の心の変化に気付かないのだから世の中不思議だ。
不思議と言えば、なまえもだ。
この人見知り兄弟の懐に、こうもすんなり入れるなんて、中々珍しい人材だ。
こいつらが他人とつるむなんて、悲しい事に俺以外見たことない。(ミコトさんも言ってるからそうなのだろう)
なまえ自体、他人を寄せ付けぬイメージがあるが、これが意外とそうでもない。
笑ったりお喋りしたりなど基本しないので、決して友好的ではないが、何故だか接しやすいものがある。
「で、どうするんだ?」
「二人で何があるかわからん。着いて行く。」
なまえが来て間も無く、里の端で雲隠れの忍にサスケと襲われ、重傷を負ったことがあった。
それがイタチの中で一種のトラウマになってるのだろう。
あの二人に対して少々心配症なところがある。
(…と最初は純粋に二人の心配だけだったんだろうけどな。)
先に出たイタチの背中を、やはりどうしても真顔で見ることはできなかった。
そして、孤独な戦いに迷いなく身を投じる
この優し過ぎる親友が、暗闇の淡い灯りに気付くことを
ただ願うことしか出来ない自分に不甲斐なさを感じるのもこの頃だった。
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