太陽と月
 


※短編「思うが故、すれ違う」の続編



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轟々と谷間に轟く川の流れ。

その音を、振動を肌で感じ、
今日も無事に任務を終えて生きているのだと何処か虚しく思う。

山と山の隙間から眩く差すオレンジの光。
それに思わず目を細める。


(シスイさん…貴方はイタチさんにとって太陽のような人だったんだと思うよ。)

さながらイタチさんは月の様な人だ。


月を照らす太陽。
太陽がいなくなってしまった月は、夜空に浮かぶことはできない。


シスイさんが居なくなってから、イタチさんは笑わなくなってしまった。

まるで能面でもつけてるかのように、悲しい顔もしなくなってしまった(元より感情を表に出さない人だけども)。


(私じゃ駄目なんですよ、シスイさん。
イタチさんと共に、木の葉を…うちはを守ることはできない。

だって私は…)


甲高い雲雀の声。
私を呼ぶ声。


あぁ、今日もまた
私は貴方達を裏切らなければならない。











うちは一族の住居に静かに侵入する。
もう何度もこうして忍び込んでいるので、何がどこにあるかなんて嫌でも覚えてしまう。

イタチさんのことを信頼しているダンゾウ様であったが、念には念を、万が一の事を危惧していた。
そのため私にイタチさんを監視させ、イタチさんの報告に嘘偽りがないか確かめていた。

良すぎるこの耳は、情報収集にはうってつけなのだから。



「…だよ!
隊長も隊長だ!いくら自分の息子とはいえ甘すぎじゃねぇか?!」

「仕方ないとはいえ、今回ばかりは解せないな…。
あのシスイが自殺なんてありえない。」

「イタチが…イタチがやったに決まってる!
最近は暗部の仕事だかなんだか知らないが、会合にも来ない…きっと俺たちを裏切って、木の葉に寝返るつもりさ!」


ガシリと心臓を鷲掴みにされたようだった。

どうして、なんで。
イタチさんがどんな思いで木の葉とうちは一族を必死で繋ぎとめようとしているのか。
シスイさんの死を誰よりも悲しんでいるのは他でもない、イタチさんなのに…。


なんでこんなことを言われなければならない?


「?!何者だ!」

思わず噛み締めていた唇。
無意識に、殺気が漏れていたらしい。

荒ぶる心を無理に落ち着かせ、その場から即座に退却する。



仮面もローブも外し、普段通りに里を歩く。
チラチラと、警務部隊が忙しなく人を探しているのが目に映る。

正体がばれていないことをいいことに、そのまま家に帰ろうと歩みを進める。

が、



「何の用ですか。」

あえてひと気のない場所に入り、隠れているであろう人物に声を掛ける。


現れた赤い瞳をもつ二人の男と女。
その目には僅かな怒気が含まれている。


「お前、よくイタチと居るな。」

「はぁ…まぁ、同じ部隊なので。」

男の言葉に当たり障りのない返答をする。
それでも二人の目は和らぐことはない。


「最近イタチの様子がおかしい…。
お前が何か吹き込んでいるのだろう?!」

そう女が怒鳴る。
普通なら何のことかわからず慌てるのだろうが、心当たりがあり過ぎて心はすっかり落ち着いている。


「何のことです?
イタチさんがおかしいって…どういうことですか?」

気圧されたのを装いそう尋ねる。


「しらばっくれるな!
お前が来てから色々とおかしくなってるんだ!」

「写輪眼欲しさにシスイを殺したのもお前なんだろう?!」

そうして女の怒気が殺気に変わり、その手にクナイを取り出した。


「おい…っ。」

「許さない…っよくもシスイを…!!」


男の静止の声も虚しく一直線に向かってくるクナイ。

そうだ、それでいい。
貴方達が怒りを向ける相手はイタチさんではなく、この私だ。

しかし、ここでまだ死ぬわけにもいかない。
ここで私が死ねば、ダンゾウ様はうちは一族を殲滅する口実に使うだろう。


刀の柄に手を掛ける。
キーン!と、金属と金属のぶつかる特有の音が耳に響く。


が、それと同時に視界を遮る黒。

うちはを背負う、まだ少し小さな背。
一瞬、肩越しに写輪眼と目が合う。


「何事ですか。
貴方達がなまえに一体何の用です?」

「何故そいつを庇う?!
シスイを殺したのはそいつなんだぞ!!」

怒りのために、女は肩で息をする。


「イタチ…もうそいつと関わるな。
そいつと居るようになってから、お前は変わってしまった。

そいつは他里のスパイに違いない。
火影もお前も騙されているんだ。」

ギッと男は私を睨みつけるも、それを隠すようにイタチさんが前を遮る。


「シスイは自殺です。
火影様直轄の部隊が捜査した結果です。
それにもし…なまえが俺を騙しているなら、とっくにこの目は奪われています。

これ以上貴方達がなまえに危害を加えるなら、火影様の命令で警務部隊は貴方達を拘束する羽目になりますよ。」


イタチさんの言葉に男はぐっと言葉を堪え、女を引っ張りその場から消えてしまった。



しーんと、静寂がこの場を支配する。
イタチさんは変わらず背を向けたままだった。


「あの…」

「いつからだ。」

イタチさんの唐突な言葉にはてなマークが頭に浮かぶ。


「いつからこうしてうちはの者に絡まれていた。」

「いつからって…ついさっきですけど…。」

そう返すとイタチさんは静かに息を吐いた。
そしてゆっくりとこちらを向く。


「俺が聞きたいのはそういうことじゃない。
今みたいなことが、過去にもあったのかと聞いている。」

「いえ…ないです。」

そう返すと無言で疑心の篭った赤い目で私を見る。


「本当だな?」

「本当ですよ。」

そう言うと、赤い瞳は黒色に戻るもどこか刺々しいイタチさんの雰囲気。
あぁもうどうしてこう…私はイタチさんを追い詰めることしかできないのか。


「すまない。」


絞り出したようなその声に顔をあげる。
するとやっぱりどこか悲しそうな顔をしているイタチさん。
そして紡がれる次の言葉に私の心は乱された。


「もう…必要最低限、俺に関わるな。」


どうしてだろう。
普通に考えればそうする方が一番面倒なく、自分の任務を遂行できるのに。


でも、
イタチさんと一緒に甘味処に行くことも
イタチさんと一緒に修行することも
イタチさんと他愛ない話をすることも

どれ一つ出来なくなると思うとツキリと胸が痛む。


そして何より、このままイタチさんを"ひとり"にしていい気がしない。
いや、したくない。
あの日見たイタチさんの涙。
そして"あの時"聞いたイタチさんの夢。


イタチさんの背が、一歩遠くなる。
向かう先は闇夜が広がってくる空。

気付けばイタチさんの腕を掴んでいた。


「なまえ…」

咎めるようなイタチさんの声。
それでも、掴んだ腕を離したくはなかった。


「私は、こんなことに傷つく程弱くはありません。」

私は大丈夫なのだと。
何があっても消えたりしないのだと、そう伝えたかった。


「私は誰よりも強くなります。
…この世から、争いをなくすために。」

その言葉に、少し驚いたようにイタチさんは振り向いた。


「だから…これからも修行、一緒にしてくれませんか?」

どうしてだか、ドキンドキンと心臓が脈打つ。
あぁそうか、きっとイタチさんに拒絶されるのが怖いんだ。

なかなか来ない返事。
次第に掴んでいた手の力が緩くなってゆく。



「…そうだな。」

その言葉に顔を上げ、イタチさんを見る。
相変わらずその顔には感情はない。


「お前は強い。
俺にとっても、いい修行相手になる。」


すっと差し伸べられる手。
その意図がわからずイタチさんの表情を伺う。


「明日からまた…よろしく頼むよ。」

その言葉に、自分の口元が上がっていくのがわかった。

そして差し出された手を握る。





いつの間にか広がった夜。
そこには煌々と輝く月があった。



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