雛と君
 


「なまえ…?」

俺の家の玄関前でよく知った赤髪がぽつんと座り込んでいた。
呼べば何とも神妙な面持ちで顔を上げる。

何があったのかと、その足元を覗き見る。



「あぁ…落ちちゃったのか…。」

そう言うと、なまえは首を傾げる。
同じようにしゃがみ込み、目線と共に指を上にさせば素直になまえも上を見上げる。


「燕がね、あそこに巣を作ってるんだよ。
で、卵を産んで雛が孵ったみたいなんだけど…巣から落ちちゃったみたいだね。」

「なんで?」

「ここからじゃ見えないか…ちょっと肩に乗って。」


そう言うと肩に少しばかりの重みを感じ、そのまま重心を変えずに立ち上がる。
まぁ軽い軽い、これじゃ筋トレにもなりはしないだろう。


「見えるか?」

「六匹雛がいる。」

鳥は匹じゃなくて羽で数えるんだよ。
そう教えると、六羽と言い直す。


「燕が一度に産む卵は大体五個なんだ。
ここの巣では落ちた雛も合わせて卵は七個。

恐らく、七羽入るには巣が狭くて押されて落ちたんだろうね。」

屈む為に少し大勢を変えようとすると、それに気付いたなまえはぴょいと自分で地面に着地した。


「親は助けないの?」

「鳥だからね、すくう為の手がないしね。
それに、動物の世界じゃ強い者だけしか生き残れないんだ。」


とりあえず、埋めてやろうと落ちて死んでしまった雛を手ですくい上げる。
人間であれば、こんなに簡単に手のひらに乗せて巣に戻すこともできるのに。



「忍も、同じだね。」

そうポツリと呟いたなまえを見れば、俺の手の中の雛を見ている筈なのに、何処か別の場所を見ているようだった。


「確かに…生死を伴う職業上、力がなければ死んでしまう。
でも、それだけじゃないよ。」

真っ赤な瞳と目が合う。


「忍は…人は、こうして落ちてしまったものをすくう為の手がある。
どんなにか弱い子どもでも、生きていける為に忍里はあるんだ。

まぁこれも突き詰めれば、動物界では弱い立場にある人間が、種族を守る為の本能なのかもしれないけどね。」

「なのに、人間同士で殺しあうんだ。」

「…そうだね。
今や人間は多種多様な種族がいて、文化や思想もそれぞれ異なる。
自分たちの種族を守ろうとした結果が、今の状況を作ってしまっている。」


そう言うと、ふぅーんと生返事が返って来る。
なまえは、一体どんな答えが欲しかったのか。


巣に親鳥が帰ってくれば、さっきまで身動き一つしなかった雛たちが、一斉に鳴き出す。
餌を貰う為、生き残る為に必死で鳴き続ける。

それをなまえは、何も言わずただじっとその瞳で見つめていた。




雛を埋める為に、近くの山の麓に足を運ぶ。
そして木の根の付近に雛を埋めてやる。


「もう少し、早く見つけていれば助けてあげられたかな。」

「あの高さから落ちれば、どっちにしろダメだったんじゃないかな。
落ちる瞬間に見つけられればまた別だけど。」

そっか。と、なまえはじっと盛り上がった土を見つめる。


ぽん、と形の良い丸い頭に手を乗せる。
まだ子どものそれは、少しの衝撃で崩れそうな気がしたが
任務中のなまえを思い出せば、やっぱり普通の子どもじゃないそれ。

きっと俺が殺気を少しでも出そうものなら、土から風から全てを刃に変えるんだろう。


「もう戻ろうか。
そろそろ任務の準備をしないとな。」

なまえはこくりと頷き立ち上がる。
既にその身を纏う空気は完全な忍と化していた。





…やっぱり、優秀過ぎるのは不憫だなぁ。


名も無き命を憂いたこの小さな手は
今度は見ず知らずの命を奪うのだから。



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