思うが故、すれ違う
イタチさんと喧嘩した。
原因は、きっと任務の時だ。
イタチさん曰く、私はしなくていい無茶を度々するらしく小言をよく言われる(ついでにテンゾウさんにも同じ様なことを言われる)。
でもそれは私からすればイタチさんも同じなのだ。
むしろイタチさんの方が深刻だと思う。
そして今回も同じような感じだった。
任務中、何となくイタチさんの視線が何か言いたげなのは感じていた。
でも任務は任務。
イタチさんも忍なわけで任務が終わるまでは決して何も言わない。
カカシ兄さんに報告を終え、二人で暗部の待機室まで戻る道。
いつもならサスケのことや、忍術のことなど取り止めのない話しをするも案の定無言だった。
静かな足音が無性に耳に触る。
そんな時に、数人の酔っ払いが前を横切る…はずだった。
「あ?おめぇ…うちはのガキじゃねぇか。
てめぇらお巡りさんよぉ、最近調子乗ってんじゃねぇか?!」
「んぁ?こいつ…警備隊隊長の息子じゃねぇのか!
おめぇんとこの親父のせいで一昨日酷い目にあったんだぞこら!!」
うちは一族が任されている警備隊の任務。
里の治安の為の仕事なのに、いや、それ故にこういう輩は忌み嫌う。
イタチさんは慣れているのか、悟っているのか別段相手をせずに横を通り過ぎる。
「んだぁこのガキ!
うちは一族だからって舐めてんのかこら!」
呂律の回らない舌に、覚束ない足元。
何の相手にもならないのはわかっているが、佛々とイライラは募る。
自分も酔っ払いを無視してイタチさんの横を歩く。
「おい知ってんぞ!
あのエリートのうちは一族様で自殺した奴がいるんだってなぁ!」
「瞬身のシスイだっけかぁ?
通り名のとおり、川飛び込んで一瞬で死んだらしいなぁ!」
そう言いゲラゲラと笑う酔っ払い共。
酔っ払いの言う事だ、放っておけばいい。
「…やめろ。」
隣から聞こえるイタチさんの静かな声。
しかし相も変わらず後ろでゲラゲラ笑っている酔っ払いには聞こえない。
「てめぇも同じさぁ!
一族の名前の重圧に耐えきれなくてどうせ死ぬんだろ?!」
「…っやめろと言っている!」
ガッと、酔っ払いの足元の地面にヒビが入る。
酔っ払いはへたりと尻餅をつく。
「なんだぁてめぇその目はよぉ…」
「おいこれ…写輪眼じゃねぇのか。」
真っ赤な瞳に畏怖する酔っ払い。
静かだった夜風が荒れ始める。
「まだ…酔いは醒めていないようだな。」
「なまえ、もういいやめろ。」
チャクラを込め振り上げた拳は、イタチさんの手によって制されている。
「何故、止めるんです。
どうせ酔っ払いだ。いくらでも誤魔化せます。」
「ただの酔っ払いに何をムキになっている。
放っておけばいい、事を荒立てるな。」
そう言うイタチさんの目は赤色へと変わっていた。
どうやら全力で私を止めるつもりらしい。
それに仕方なく、拳をおさめる。
「怪我はないですか。」
「あ、あぁ…」
半ば放心状態で答える酔っ払い。
しかしその目は酔いとはまた違った朧げなものになっていた。
そして私とイタチさんは何事もなかったように再び待機室へと向かう。
が、ふつふつと湧き出る感情はおさまってくれない。
ガリガリと、無意識に刀の下げ緒を爪で引っ掻いていた。
「…なまえ、いい加減落ち着け。刀が傷むぞ。」
「イタチさんだって、写輪眼しまったらどうですか。
ただでさえ酷使してるんです。
これじゃシスイさんの行動が無駄になりますよ。」
そう言うと、隣の気配がガラリと変わる。
見ればやはりその目は真っ赤なままだった。
「…お前にこの目の何がわかる。」
「いずれその目は失明することだけは知っています。
貴方はそれを早めているだけだ。」
人に無茶をするなと言う癖に、自分はそれ以上に無理をしている。
目だけじゃない、精神的にもだ。
「…さっきもそうだ。
いつもいつも黙って耐えて、何でもかんでも一人でやろうとする。
少しは人に頼ったらどうです。
シスイさんは貴方一人に全てを背負わせたかったわけじゃ…」
「俺がどうしようと…どうなろうとお前には関係ない。」
しーん…と辺りは再び静寂に包まれる。
それからは、いつの間にかイタチさんと別れて道を歩いていた。
そんなことがあって二日。
それ以来イタチさんと口をきいていない。
最初は二日前のやりとりに、常日頃から積もった不満にイライラしていたが、徐々にそれは別の物に変わっていた。
適当に里内をふらふらしていると、見知った黒髪が目に入る。
普段なら声をかけたに違いない。
でも、当然のようにそれはできなかった。
一人の少女がイタチさんに声をかける。
するとここ最近は見なかった笑みを、イタチさんは浮かべる。
…何でだろう。
絶対に私の方がイタチさんのことを知っているのに、あんな風に笑わせてあげられない。
シスイさん亡き後、誰よりもイタチさんの苦しみを感じることが出来るのに
何も…できない。
来た道を戻る。
何故こんなにも心が乱れるのか。
完璧な忍になるために、あれだけ修錬をしてきたのに。
…強く、なったのに。
(信頼…してもらえてないんだろうな。)
隣にいるのに頼ってくれない。
むしろ負担をかけているかもしれない。
藍色に染まりゆく向こうの空。
そろそろ任務か。
深く息を吐き、思い切り地面を蹴り上げた。
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