君は知らなくていい
 



とある日の夕暮れ。
鈴虫か、コオロギか、秋の音色が優しく耳をさわる。

空の色を映す小麦色の湖畔。
そこにくっきりと黒い小粒が目にはいる。




…サスケか。


ぽつんと小さな背中がそこに佇んでいる光景は、なんとも言えない。


「サスケ、こんなところでどうしたんだ。」

そう思わず声をかけると、ビクリと肩が揺れる。


「…なまえ。」

振り向いたサスケの顔はやっぱり浮かない表情をしていた。

そっと隣に座る。
するとさっきまで合っていた視線は外れ、サスケの視線はやや下に向く。

湖畔の光を反射する漆黒の瞳は素直に小麦色に輝いていた。


「なまえは、任務終わったの?」

「あぁ。」

「…兄さんは?」

そう言いサスケは少しの期待を込めてこちらを見る。
そんな様子に言葉を選ぼうとするも、何も出てこない。


「イタチさんは、別の任務らしい。」

そう返すと出てくる言葉を押し込むようにサスケはぎゅっと口を結ぶ。
きっとまた、約束でもしていたのだろう。
以前は口を尖らせてちょっとした愚痴を言っていたが、最近は言わなくなってしまった。


「約束、してたのか?」

「別に…兄さんとの約束はあって無いようなものだし…。」

そう言いながら、湖畔の向こうを睨む。

サスケなりの強がりなんだろう。
こうして聞いてやらなければ不満を口に出さない。
まだ7歳なのだからもっと我儘を言ってもいいのにと思うが、フガクさんの教育じゃあそんなことは許されないんだろうなと、一人で納得する。


「もう日も暮れる。
ミコトさんが心配するだろう?」

「家には誰も居ないよ。」

ぴしゃりと返ってくる言葉に返事するように、魚が跳ねた。
湖畔が揺らめく。


「最近はいつもそうだ。
母さんも、夕飯の準備をしたら何処かに行くんだ。

俺が家に居ても居なくても、誰も気付かないよ。
どうせ皆帰ってくるの夜中だし。」


うちは一族の会合か。
サスケの言葉ですぐにピンとくる。

シスイさんが死んでからはその会合もあまり開かれなくなっていたはずだが、また動き始めたのか。


そこまで考えてハッとする。
こんな寂しい思いをしているサスケの言葉に情報分析するとは、忍なんて嫌な生き物だ。


「…ミコトさんも、任務に行ってるんじゃないか?」

「え?母さんが…?」

そう言うと目を丸くする。
まさか、自分の母親が忍じゃないとでも思ってるのか。


「ミコトさんも上忍だろう?
任務があってもおかしくないじゃないか。」

「そう…なの?」


やっぱり知らなかったのか。
確かにいつも朝は見送ってくれて、帰れば出迎えてくれるのだからいつも家にいると思っても不思議じゃないか。


「手裏剣術だって、ミコトさんも教えてくれるんだろう?」

「そう言われれば、そうだけど…。」


やはり納得いかないのか、怪訝な顔を崩さない。


「別に、サスケがどうでもいい訳じゃないよ。
忍には、忍の事情があるんだ。」

「俺だって、忍の子どもなのに…。」


そう言いそのまま下を向いて押し黙ってしまったサスケ。
イタチさんがサスケを可愛がる気持ちが少しわかった。


「サスケも、任務に出るようになればわかるよ。
例え仲間内でも、任務に関わる秘密は守らなければならないんだ。

私だってきっと、知らされてない事なんて沢山あるさ。」


ぽんぽんとツンツン頭を撫でる。
納得しそうで納得していない、猫目の上目遣いでジッと見てくる。


「…なまえも子どもの癖に、なんか生意気だ。」

「サスケの方が歳下だろう。」


みゅっとホッペを摘めば、ひゃめろぉ〜。と何言ってるかわからない声が湖畔に木霊した。




サスケ、お前は何も知らなくていいんだ。
お前の父さんも母さんも、兄さんも、
木の葉の立派な忍なんだよ。


それだけ知っていれば、それでいい。



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