人は無意識に他人の幸せを奪う生き物だ
 




その時の私は、相当な馬鹿面だったに違いない。






今日の任務は夜中からで、お天道様が出ているこの時間はサスケとともに過ごしていた。

丁度良い陽だまりに、眠気が襲ってくる。
コツンコツンと手裏剣が木に当たる音を聞きながら、少し仮眠しようと寝る体制になったその時だった。




「…兄さん、結婚するんだって。」



へー…と、他人事のように聞き流した。
ん?兄さん?兄さんってどの兄さんだ。



「…どの兄さん?」

「何言ってるのなまえ、俺の兄さんに決まってるだろ?」


俺の兄さん…わかってはいるのだけども、どうにかして私の知ってるその人に該当しないよう、脳みそが勝手に逃げ道を探す。

結婚?何で急にそんな…だってまだ12歳じゃないのか。
そんな歳で結婚なんて普通はありえない、と勝手に言い訳してその人を候補から何とか外す。



「前々から話しは出てたらしいんだけど、向こうがすっかりその気で…
どうせ結婚するなら、早いうちがいいって。」


知らなかった、そんな話し。
結婚の"け"の字もあの人から聞いたことがない。
…いやいや、あの人をこの話の中心人物から除外したんだった。
というか、どうせ結婚するならってどういうことだ。



知らない間にサスケをガン見してたらしい。
何故かサスケが慌てて口を開く。



「俺も昨日の夜知ったんだ。
家に遠い親戚の人が来ててさ…その人が兄さんの許嫁ってのは知ってたんだけど、まさか本当にするなんて思ってなくて。」

「…いいなずけ?」

そう呟くと、サスケがキョトンとした顔をする。
いやいや、こっちがキョトンなんだけども。


「もしかしてなまえ、許嫁知らない?」

「…初耳。」

そう言うと、マジか…。とこぼすサスケ。
そんなに常識的な言葉なのか。


「許嫁ってのは、子どもの結婚相手を親同士が先に決めてる相手のことだよ。」

「…なんで?」

なんだそれ、なんで結婚相手を自分じゃなく親が決めるんだ。
結婚は、好きなもの同士でするんじゃないのか。(カカシ兄さんに何故結婚しないのか聞いたら好きな人がいないからと言っていた)


そう言うと、サスケは眉をハの字にして困る。



「うちは一族の血を守るためだって、じい様が言ってた。」

そう言って、サスケは地面を見つめる。
その言葉で、さっきまでぐちゃぐちゃだった回路がすっと真っ直ぐになった。


写輪眼…うちは一族でも開眼するのは稀だというその特異な目。
その血筋を守るための結婚。
親戚が許嫁なのも、きっとその人が写輪眼を同じく開眼しているからか、はたまた別の能力を持っているのだろう。



これじゃあ本当に、一族を守るためだけの便利なただの駒じゃないか。

里に利用され、一族にも利用され、イタチさんという人格を誰も尊重しない。
こんなものたちを守るためにイタチさんは…


カッカと頭が燃える。
落ち着け、ここで私が怒るのはお門違いだ。
大きく一つ深呼吸して頭の熱を逃がす。


「…俺も、なんか、嫌だ。」

そう言うサスケを見ると、相変わらず地面を見ていて、石ころで土を削っている。


「親戚の姉さんのことは良い人だと思うけど、兄さんと結婚されるのは何か…嫌だ。」

その言葉に頭の熱はどんどん逃げて行く。
そうか、サスケもそう思っているのか。


「いつ、結婚するんだ?」

「…わかんないけど、近々って言ってた。
他所の里の人だから、色々準備があるとかなんとかって。」


他所の里の人…一体どこの里の人なのか。
気になる事はあるが、これ以上こんな話を本人が居ないところでするのもなぁ。

そんなこんなで時間は過ぎていき任務の為サスケと別れた。



それから数日、やっぱりその話しが頭から離れずイタチさんに聞こうと何度も思ったが、そんな話しを私が踏み込んでいいものでもない。
それに、イタチさんから結婚なんてものが微塵にも感じられなかった。

サスケの勘違いだったんだろうか。


そんなことに頭を悩ませていると、ダンゾウ様から極秘任務を言い渡される。

木の葉とうちは一族の戦いを阻止する為の任務。
その為に里を3つも壊滅させた。


幼い兄弟を手にかけた。
母と赤子を手にかけた。
老夫婦を手にかけた。


ただただ、平凡に、普通に暮らしている人たちの人生を奪った。


嫁ぐ準備だろうか、花嫁衣装を前にした女の人の綺麗な肌に刀を突き刺した。
穢れない白無垢に、赤茶色の染みを作った。


訳がわからなくなった。
大変な罪を犯した自分に怖くなった。

でも、自分は忍だから
木の葉の平和を守りたいから

他の人と結ばれてもいい、イタチさんが幸せであれるならその未来を守りたかった。













今日の任務は夜中からで、お天道様が出ているこの時間はサスケとともに過ごしていた。

丁度良い陽だまりに、眠気が襲ってくる。
コツンコツンと手裏剣が木に当たる音を聞きながら、少し仮眠しようと寝る体制になったその時だった。




「…兄さん、結婚なくなったんだって。」

へー…、と他人事のように聞き流した。







「婚約者の人…一族皆死んじゃったんだって。」





その時の私は、相当な馬鹿面だったに違いない。



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