全てを呑み込む朝
 


サー…っと、細かい雨音。
雨はまだ、止みそうにない。







まどろみの中、突然嗚咽が耳に入る。
そっとソファから立ち上がり、隣の部屋に行く。
朝方の薄暗い灰色の光が窓からこぼれ出ている。

ベッドを見れば、黒いツンツン頭が小刻みに震えている。



あの日以来、彼は朝がくるたび苦しんでいる。



「うっ…ひぐっ…っ。」

「…サスケ。」


声を掛けると、ひっと嗚咽を呑み込む。
相変わらず布団から見える手は、シーツを握りしめながら震えている。



「今日は…アカデミー休んだら?」

「…嫌だ。」


ゴシゴシと乱暴に目をこすりながら、ぎこちなく布団から出る。
あんなことがあったのだから、休んだって誰も怒らないのに、サスケは全く休もうとしない。


「あんまり無理すると、体によくないぞ。」

「…休みたくない。」

「どうして…。」


心身共にボロボロなのに、何故そんな風に自分の体に鞭を打ち込むのか。
私には理解できなかった。



「…休んだって、何もよくならない。」

くぐもった声で、ポツリと零す。



「…なんで、皆死んだの。
なんで、父さんと母さん死んだの。」


ドクドクと、自分の心音だけが鼓膜に響く。



「…っなんで、なんで…兄さんが…っ!
こんなの、嘘だ!
なんで俺はここにいるんだよ!!

こんなの…っ」


泣き叫ぶことをせず、何かを呑み込むように涙を流す。
震える体は今にも壊れそうだった。



私には、サスケの気持ちを理解することは到底できなかった。
奪う側になっても、奪われる側になったことがないから。
大切な人を亡くしたことがないから。


ただ、その背中を包むことしか出来なくて。




「ねぇなまえ…教えてよ。
なんで…兄さんが、父さんと母さんを殺したの。」




里を守るための任務だった。



素朴な疑問に答えるための
そんな短い言葉を形にすることは出来なかった。


代わりに出てきたのは、長い長い嘘の答えだった。



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