「………」

「どうしたの名前、そんな不細工な顔して」

「一言余計だよ美人さん」

「あの人のことでしょ、特に今みたいな状況が気に入らないとみた」

「分かってて聞いたの?ブルマも人が悪いんだから」


本日最後の6時間目はホームルーム。丁度この時期に相応しいといえる、体育祭の種目決めだ。
因みに私とブルマは無難に「棒引き」を選んだ。走れないし体力無いから…という女子が沢山いた中、じゃんけんで無事に勝ち早々に決まってしまった私達は特にすることもなく、前後の空席で雑談していた。


「彼の事になるとピリピリするもんね〜あんた」

「別に…そんなことないけど」

「女の子に注目されてるからでしょ?それは仕方ないんじゃない、体育委員なんだし」

「絶対それだけじゃないでしょ。もしただの普通の生徒でも人気には変わりないよ」


黒板に種目別に決まった者順に名前を書いていくバーダックの後ろ姿を眺める。意外と字が綺麗なことはずっと前から知ってたことだったけれど、他の女の子にもそれを知られてしまったことが嫌だ。
けれどそれよりももっと嫌なことは――その程度のことでもやもやと悩んでいる自分の小ささである。そんな自分に溜め息をつきたくなった。


「ま、いいんじゃない?確かに、名前に女子体育委員が務まる訳ないのは分かり切ってることだから仕方ないけどさ。文化祭の時には会計係でもやってみれば?バーダックは多分立候補するわよ」


皆が嫌がったり面倒臭がってやりたがらないような仕事を、バーダックはいつも引き受けている。
失礼かもしれないがとてもそういうタイプには見えないのに、数秒経っても誰も挙手しなかった場合、ほぼ必ずと言っていいほど彼が引き受けてしまうのだ。最初の頃は、見た目と行動のギャップに本当に驚かされた。


「だろうね。昔からそうだったから」

「でも生徒会長とかやってそうには見えないのよねぇ」

「あぁ、中学は体育委員長だったよ。推薦されたんだったかな、面倒臭そうにしながらもしっかり皆を纏めてたよ」
 
バーダックには不思議な力がある。いかにも“学級委員長”という、先頭に立ってクラスメートをぐいぐい引っ張っていくというような典型的なタイプではなく、一言発すると自然とバラバラになっていた皆の心が一つになる…陰から皆を纏めるといった感じだ。それも、「皆を纏めよう」という気持ちもなく、ただ一言彼が意見を述べただけで。


「いや…気づいたら皆が纏まってた、って感じかなぁ」

「え?」

「天性の才能なのかもね」


私の言葉に、ブルマは頭上に疑問符でも浮かびそうな顔をして首を傾げた。
前に座るブルマからバーダックの背中に視線を移して小さく笑った時、ポケットの中の携帯が震えた。幸い、今日は担任が出張に出ていて教師がいないから、堂々と画面を見られる。


「…あれ、バーダックいつの間にメール打ったんだろ」

「この距離で?直の方が早いでしょ」

「別に聞かれたら不味いような用件でもないんだけどなぁ」

「なんて着たの?」

「“帰りちょっと時間かかるかもしれねぇから教室で待ってろ”って」

「ふーん…」


了承の返信をして携帯を仕舞い顔を上げると、蒼い目を細めてほくそ笑むブルマと目が合った。


「何よ…?」

「別に?仲良しだな〜って思っただけよ」

「ブルマだってベジータくんと仲良しじゃん。これ以上ないくらいに」

「…羨ましいの?」

「全然?」

「何で疑問形なのよ」


気づいた時には既に彼女の左手の薬指で光っていたそれは、もしかしなくてもベジータくんから貰ったものなのだろう。
校内なのにも関わらず、隠すこともせずに堂々と常に肌身離さず指輪を填めているブルマは、私にとって羨ましい気持ちは勿論、憧れの気持ちもあった。いつか自分も彼女のようになりたいと、こっそり思っていたりする。


「式には呼んでね」

「気が早すぎよ」


その時、丁度六時間目終了のチャイムが鳴り、クラスメート達は各々帰宅の準備を始めた。中にはチャイムが鳴る前から準備をしていた生徒もいたようで、チャイムが鳴ると同時に教室を出ていった子も数人いた。


「じゃあ、私は帰るね」

「うん、また月曜日にね」


時間内に種目決めを済ませたバーダックは流石だ。いや、バーダックだからこそ出来たのであり、彼でなければ来週に引き続くところだったかもしれない。
廊下で待つベジータくんを待たせないよう、早々に出ていったブルマに手を振りながらそう思った。




「ねぇ、どの位かかりそうなの?」

「そんな長くはねぇ筈だがな」


教卓に自分の鞄を持っていき、書類の整理をしつつ荷物を纏めているバーダックに問い掛けると、腕時計に目を落とし、すぐ戻るから、とだけ言い残して足早に教室を出ていってしまった。


……今、なんとなくバーダックの様子がおかしかったような気がする。今のは急かすような感じがして不快だっただろうか。
悶々と考えていた私の元に、一人の男の子が話しかけてきた。


「あのさ、苗字さん」

「ん、なに?」

「バーダックとはどういう関係なんだ?」

「え…どういうって、」

「もしかして、彼氏…?」


この子は確か同じクラスの男子だ。顔は覚えられても名前を覚えるのが苦手な私は、この場を曖昧にやり過ごそうとした…のだが。


「……余計な詮索してごめん。あの、俺の気持ちだけでも、聞いてもらえないか?」

「え……え?」

「四月からずっと、いいなって思ってたんだ。明るくて親切で、綺麗な笑顔の苗字さんが」

「名前」


その時、男子の言葉を遮るように、教室内の空気を壊すように、少し大きめの私を呼ぶ声が響いた。教室の中が静かだったから大きく聞こえたのかもしれない。
その声が聞こえた瞬間、体がぎくりと固まってしまった。単なる驚きではなく「不味い」という思いから。


「…ば、バーダック」

「何してんだ、帰るぞ」

「う、うん」


開け放していた扉の枠に凭れながら、肩に鞄を引っ掛けてだるそうに立って呼びかけたバーダックは、男子生徒と一切目を合わせようとしない。無関心なのか、単に早く帰路につきたいだけなのか、それとも今の一部始終を見ていたのか。表情の存在しない今のバーダックの表情からは、彼の感情は窺い知れなかった。

ごめんね、と駆け寄ればバーダックも待たせて悪かったな、と普通に返してくれた。至っていつも通りの様子に自分の考え過ぎだったかと考え直し、一人教室に残された男子生徒にぺこりと会釈をしてから、先を歩くバーダックの背中を追いかけた。


「…、……」

「……」


話そうと思っても何を話せば良いのか分からず、階段を降りた後も結局沈黙が続いてしまっていたが、それを先に破ったのはバーダックの方だった。


「…何だよ、さっきの」
 
「わ、分かんない。本当に急だったから、私もついてけなかった…」

「…どう思ってんだ?」

「何とも思ってないよ、名前も知らないし、話したこともなかったしね」


やっぱりバーダックはさっきの一部始終を見ていたのだという事を知り、てっきり怒っているのかと思っていたので、ぼそりと呟いたバーダックの言葉に驚いた。


「…あんなことなら一緒に連れて行きゃよかったぜ」

「え?」

「最近、俺が委員会とかで色々忙しかったせいで、こうして二人で帰ったりとかずっと出来なかったろ?だからたまにはって思ったのによ…」


告られてやがるし…という言葉で、怒ってたんじゃなく妬いてくれてたんだと判った途端、緊張で張り詰めていた心がふっと緩んだ。


「……良かった、怒ってるんじゃないんだね」

「何にも良くねぇだろ。少なくとも俺にとって良い事なんか何一つねーよ」

「私にとっては良い事があったってことだよ」

「ああ?んだよそれ、不公平だな」


階段の踊り場にたどり着いたところで、掴まれていた手首を強く引き寄せられた。また力が強くなったなぁ、と頭の隅で思いながら、バランスを崩したことで咄嗟に体を強張らせ、ぎゅっと目を瞑る。

けれど次に来るのは痛みを伴う衝撃ではなく、バーダックの匂いと体温に包まれることは私の予想範囲内だった。力任せに私を引っ張る時は、大抵ご機嫌ななめになりながらも甘えたい時だと分かっているからだ。


「せめて学校出てからにしようよ」

「何でだよ」

「そりゃ恥ずかしいからに決まってるじゃんか」

「別にいいだろ。虫除けにもなるしな」

「虫除けって…」

「俺何か間違った事言ったか?」

「虫呼ばわりは可哀想かなって」

「そこかよ」

「続きは後で。早く門潜ろうよ」


バーダックも疲れているだろうと思って下校を促したのだが、ちょっと待て、と手で制された。


「その前に職員室行かねぇと」

「え、用事終わったんじゃないの?」

「嫌な予感がしたから引き返してきた」

「どうりで、すぐ戻るって言ってたけど早すぎるって思ってたんだ〜」


心配し過ぎなんだよバーダックは、と笑いながら、私の手首を掴んでいた大きな手を一旦開かせ互いの手を繋ぎ直すと、残りの階段を降りていく。

最後の一段に達する直前、肩を掴んで振り向かせられバーダックに突然キスされた。 
その時に丁度さっきの男子生徒が横を通り掛かり、此方を凝視されてしまった。バーダックがわざとタイミングを合わせてやったんだと理解し、私はバシンと頭を叩いてやった。








(何すんのよこんなとこで!)
(ってーな、虫除けだっての)


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うきゃー!萌えポイント突きまくりのバダゆめありがとうございますうううう!!やっばいです。えーとですね、まずはあの…意外に字が綺麗な男子って物凄くタイプなんですね。だから読んだ瞬間、第一回鼻血警報発令!しかしティッシュが間に合わなかった。(ブバッ)
からのお互いに妬かれてる事に気付かないっていうのが完璧俺得な設定でした(´^ω^`)更にはベジブル!指輪!最後に告白されるの見られてからの見せつけキッス!かなさんのバーダックは最初から最後まで心臓を鷲掴みにしてくださって心も体もほっこりでした!!それでは長々とすみません、相互して下さってありがとうございました、これからもよろしくお願いします☆