「そこ、立入禁止だよ?」


優しくて柔らかい声が頭の上から降ってくる。見上げると、さっき私が引っこ抜いた「立入禁止」の看板を持って困った顔をしているトランクスがいた。


「今日の仕事は早く終わったんだね」
「ちょっと違うかな?」
「ちょっと?」
「早く切り上げたんだ。お転婆な女の子が心配だから。切り上げて正解だったよ」
「ふーん」
「ここはまだ作業も進んでないし危険な場所なんだ。勝手に入っちゃいけない」


そう言ってトランクスは、はあ、と大きな溜息を一つ吐きながら呆れたように看板を立て直す。そして「母さんがアップルパイを焼いたんだ。名前、早く帰ろう」と言って手を差し伸べた。


「平和」
「ん?」
「今日も平和だね」


言葉に出したその瞬間、たちまち全てを思い出す。悪夢が始まったその時から悪夢が終わったその時までの全てを。
埃を被ったベッドで寝て起きて、目が覚めるとそこには絶望しか無くて、それでも私達は生きていかなきゃならなくて。
恐怖心を日々携えながら生にしがみつく毎日の中、その永遠に続くであろう絶望の日々を、断ち切ってくれたのが目の前にあるこの温かい手で。


「もしもトランクスが居なかったら、当たり前に思える日常は金輪際やってこなかったかもしれないね」
「名前、」
「きっとみんなトランクスに感謝してる。勿論、私も。…トランクス、ありがとう」


私は言い、トランクスの手を握る。にっこり笑ったつもりだったけれど上手くいかなくて、逆にトランクスに笑われた。


「俺も感謝してるよ。名前にも母さんにも悟飯さんにも。…そして父さんや悟空さん達にもね。失ったものはあるけれど、少なくとも俺は大切なものは守れたと思う。…感謝してるよ、本当に。……ありがとう」


久しぶりに聞いたとても穏やかな声。私に言ったのか自分に言ったのか、トランクスの口調はとてもひたむきで誠実だった。


「お腹すいたね」
「そうだね」
「私、トランクスのお母さんの手料理美味しいから大好き!」
「ははっ!それは俺じゃなく母さんに直接言ってあげてよ。きっと喜ぶからさ。……ほら、名前、行こう?」


私達は手を繋いで歩く。空を見上げるとまばらな雲が一面に広がっていた。

(嘘のない世界)


りこちゃんから頂いたお話ふたつめです!未来のトランクスは大好物なのでどうしてもこちらにお持ち帰りさせてもらいたくて、恐れ多くもこっそり頂いてきてしまいました。未来の彼は誰よりも頑張っていた気がします。サイヤ人の中でも比較的穏やかだし、その雰囲気がとっても出てるお話でしたねうふふ…!ではでは、20万打突破おめでとうございました〜!