「トランクスとボクサーどっち派ですか?」

昼時。太陽の穏やかな光を頭から浴びながら俺たちは芝生の上に肩を並べ座っていた。お互いなにをするでもなく、ただこの安寧の流れる空気を楽しんでいた。はずだった。


俺は突然隣から投げ掛けられた言葉に瞬きした。



「…は?」

「私としてはブリーフだけは頂けなかったんですが、そうか残念です」

「まだ何も言ってねーぞ」



そんな会話をするような雰囲気ではなかったはずだ。しかし、名前はいつになく真剣な目差しで俺を見据えていた。



「じゃあなんですか」

「なんで言わなきゃいけねーんだよ」

「私としてはブリーフだけは頂けなかったんで すが、そうか残念です」

「それさっきも聞いた」

「じゃあちなみに、女物の下着は何柄が好きですか?」



俺は口を閉ざした。



「言いにくいんですか?分かりましたよ。じゃあ女物の下着は何柄だと興奮しますか?」

「なお答えにくい内容になってんじゃねーか」

「無難に白…、と」

「だから何も言ってねーけど。つーか何書き込んでんだよ」

「実は私"世の男どものパンツに対する事色々知り隊"に所属しておりまして」

「なんだその頭悪そうな組織」

「フリッピーさんの好みが知りたいんです」

「知ってどうすんだよ」

「着てきます」

「なんでお前が着てくんだよ」

「もしも何か起きた時のために」

「何も起こらねーよ!」



俺は声を張り上げた。そして、それに呆れた表情を浮かべる名前。 やがて、名前は目差しを鋭くさせて、体ごと俺に向けた。そのただならぬ様子に、俺は少しばかり身構えた。



「ねえフリッピーさん」

「?」

「私達付き合いだしてもう1年ですよね」

「嘘つくなまだ4ヶ月しか経ってねーよ」



俺は内心穏やかではなかったが、涼し気な態度を装って名前を見返した。名前の顔は至って真面目だ。


ここで特筆すべきは、やはり俺達は男女という 関わりの意味で付き合っているということだろう。しかしそれらしい事もせず、変化といえば 以前よりお互いの時間を共有することが多くなったということぐらいだった。俺はそれでも満足だったし、それ以上の事を要求するのはま だ先でもいいだろうと考えていた。何より2人で過ごす穏やかな気分が柄にもなく気に入っていたのが一番の理由だった。


というか早い話、まだ手が出せていなかった。



「4ヶ月……、

それなのにまるで小坊のエロ参議会のような会話」

「小坊は酷いんじゃねーか」

「むしろ付き合う前の方が恋人らしかったって野田総理も言ってましたよ」

「お前何者だよ野田総理と他愛ない話できる間柄なのかよ」

「とにかく!そろそろちゅーぐらいしてくれないと私スプレンディドさんに走っちゃいますよ!」



俺は眉間にしわを寄せた。



「なんっでよりによってアイツなんだよ!」

「この間告白されたんでキープ君です」

「最低だなお前!」

「フリッピーさん」

「な、なんだよ」

「さようなら」



真意からそう言ったのかは分からないが、(名前はよく、突拍子のないことを前触れもなく言ったりするので)音もなく立ち上がった名前の腕を俺は咄嗟に掴んだ。つーか告白されたとか聞いてねーぞ。どういうことだよ。と、問いただしたい気持ちをぐっと押さえ、彼女が振り返るのを待った。


すぐに、細められた瞳が、俺を咎めるように見つめてきた。この状況を打破するには……名前を納得させるにはつまり、俺がキスをすればいいのか?そうか。 俺は奥歯をぎゅっと噛んで決心した。



「あーーもう分ぁったよ!こっちこい!」

「わーい」



名前はあっさり俺の前に座り直した。俺の真正面で正座を作り、俺を真っ直ぐに見つめた。 俺はその瞳に捉えられて狼狽えてしまい、生唾を飲み込んだ。


さんさんと燃える太陽。その日差しが名前をはっきりと俺の目に映し出す。背後にはずっと芝生が続いていてきらきらと彼女の髪と同じように日に当てられて輝いていた。


真剣な瞳が俺を捉えて離さない。途端に辺りは 緊張に包まれた。指1つ動かすのさえ、気後れするくらいに。まじで柄にもない。


動きもなく、そうやって見つめ合いながら、どのくらい経っただろう。俺にとっては随分経ったような気もするが、名前の期待の表情は数秒ごとに呆れの物へと変わっていった。


名前が口を開いた。



「……フリッピーさん」

「んだよ」

「うぶにも程があるんじゃないですか」

「っるせーな!分かってんなら我慢しろよそんぐらい!」



俺は内心、凄まじいくらいの羞恥でいっぱいで、頬が熱を持っていることに気が付いた。そうだよ、お前といると調子狂うんだよ。


口に出さずに見つめていいたら、やがて、名前は突然込み上げてきたかのように固く縛っていた口元を緩めた。それを拍子に、辺りに漂っていた緊張はぷつん、と切れてしまい、緩やかな空気が流れ始めた。


名前は小さく笑った。



「まあ、でも私、フリッピーさんのそういうとこが好きだったりするんです」



ばかにしてんのか。問えば名前は笑うばかりで答えなかった。



「だから今日はこれで勘弁したげましょう」



小さく微笑みながら、は突然俺の熱が集中した頬に手を伸ばしてきた。俺は狼狽える暇も目を瞑る余裕もなく。無駄のない緩やかな所作で、名前の目を閉じた顔が俺に近付いてきて、それで、ああ、うん。


名前の柔らかい唇が、俺の唇に触れた。二秒ともせず、おもむろに離れていく彼女に、俺は睨みをきかせて見つめた。頬は相変わらず熱かった。いや、むしろさっきより、……。


対して、名前は涼し気な表情で俺を見ていたのでなんとなく悔しいような気持ちになる。



「オイ、勘弁っつったら普通頬にするぐらいのが相場じゃねーのかよ」

「フリッピーさん」

「あ?」

「告白されたなんて嘘です」

「……はあ?」

「そう言ったらフリッピーさんどう反応するかなって」



完全に馬鹿にしてんなコイツ。



「だいたい私がフリッピーさん以外に告白されてキープにしとくわけないでしょう。あっさりその場で切り殺しますよ」

「あっさりすぎるだろ」



名前は自信満々に言い放った。俺の熱もようやくおさまってきて、俺は決心して口を開いた。



「じゃあ、あれだ、お前、えーと」

「はい」

「今度は、えーと、あああ…

チェック柄の下着を…」

「分かりました。チェック柄のブリーフを買ってくればいいんですね」

「何1つ分かってねーよ、つーか最早それはブリーフとは呼ばねーよ」



その名前の返しさえ、俺を試す材料なのか。 真意は計れないが、結局俺はただ彼女の良いように転がされていただけらしい。



大人の階段を
登るロミオ





ああ、くっそむかつくな。今度は俺からリベンジしてやらァ。と意気込んで、少しだけ関係が進歩した俺達を包む安寧に、今は大人しく巻かれておくことにした。






八兵衛さんから頂いた覚醒軍人くんです!まずはですね、今まで読んだことのあるフリッピーとは違うタイプの彼にもうキュン死(死語)しました!!野田総理までご出演して下さるという豪華っぷり…!感想は散々長く送りつけてしまったので短めにしようと思いますが、これだけは聞いて下さいませ!私、本日からチェック柄のパンツを((げふんぎふん

素敵なお話を本当にありがとうございましたーー!!