ツィクロンB




「よ、っと」

英国のと或る街中で大きなテディベアを抱え直す黒髪黒目の青年は、アリスである。水色のシルクのリボンを首元で結った、子供や女の子向けのそのテディベアを持つ理由は、先程そこの玩具屋で購入したからだ。此処で日本男児である彼が常日頃から男らしさを志としてるので誤解のなきよう説明をさせて頂くと、彼は自分の為に購入したのではなく同じ仕事仲間の双子、謌鵝靡(かがみ)ドルダムとドルディーの為である。
白兎最年少である彼等はその年齢では信じがたい程のナイフの使い手であり、その上残虐な性格を持つが普段はとても愛くるしい。悪戯が大好きな兄の影響を受け時たま暴走を見せるが、彼等はアリスに大変懐きを見せアリスの云う事であれば素直に聞く。まあ、最高権力者の女王様の云う事は聞かなくラビに至っては双子は彼を敵対視している訳なのだが、そこは置いておくとして。

さて、であるからして、双子に懐かれてるアリスはだが女王様のお目付けもせねばならなく真面目である性格が祟って仕事も他の者と比べてする量が大量であるので、中々遊ぼうと云う彼等の相手は出来たものでなく、従って拗ねた彼等のご機嫌を取る為の購入であった。
ところでアリス、街中で自分の身長の半分程度のテディベアを持つのは中々恥ずかしく、こんなことであるのならラッピングを中が見えない仕様の袋でして貰えば良かったと後悔したのだが、只でさえ店員に驚かれた顔をされては最早戻る気すら湧かない。だからと云って擦れ違う者達の視線は大層痛くて大分心が折れるのだが。

さっさと帰ろうと歩く足を速くすると、路地裏からあまり宜しくない言葉を発する男性の声が聞こえて来る。ギャングか何かが喧嘩をしてるのだと巻き込まれるのも面倒であるので聞かなかったこととして歩くのを止めないでいると、今度は女の子の悲鳴じみた声が聞こえた。まさかギャングが喧嘩を売ってるのは女の子かと流石に無視する訳にもいかず弾かれたようにそちらを見れば、こちらへ向かって走る見知らぬ女の子と目が合ったと思うと、

「そこのジャパニーズボーイ、丁度良かった、助けてくれ!」

少々長めの跳ねた黒髪を揺らして、オッドアイの瞳で真摯に見て懇願する彼女の出で立ち――リボンの巻かれたミニハットに短めのチュニック、それに長めの編み上げのブーツと全身が真っ黒であるので少々目立ったものであったが、顔だけ見ると普通の美少女である。路地裏から走って出て来た彼女はアリスの背中に素早く隠れ、あの男に追われてるのだ、と路地裏を指差すと如何にもそれな巨大な風体をした男が登場した。身長が2M近しい明らか強そうなその顔面に傷のある男を普通の者が見たら外国人の中に居ては小柄に分類されるアリスが勝てる見込みは0であり、普通の者であればアリスのような者に頼む者は皆無であろうが、恐らくそれ程に少女の気は動転してたのであろう。
アリスはテディベアを持ってて欲しいと頼み、彼女の手に持たせる。背中から鉄パイプを出した男は相手をするのがアリスであると分かると怒濤の如く盛大な勢力で鉄パイプを振り翳しに来、

「う、うわぁっ」

少女がテディベアを抱き締め目を瞑る。だが悲鳴があがることもなく何かが床に落ちる音がして、少女は恐る恐る目を開く。すると目に入った光景はアリスが鞘から抜き出した日本刀を右手に持ち、男の鉄パイプが細かく刻まれて床に落ちているとのもので。もしかしなくとも今の一瞬でアリスが日本刀で鉄パイプを斬ったことを察した彼女は目に花を咲かせて小さく「ぶ、武士…!」と云った。
使い物にならなくなった鉄パイプを見て男は状況が飲み込めないようであったが、その内理解したらしい男は顔を憤怒で一杯にしてアリスに殴りにかかる。
するとアリスは惜しみ無く日本刀を捨てたかと思うと、向かい来る男の腕を流して掴みもう片方の手で襟を掴む。そしてそのまま男の勢いを利用して、男を投げるよう床に叩き落とした。
床に投げられた男は伸び、アリスは拾い上げた日本刀をまた鞘へと戻す。少女と目が合うと、持たせて悪かったなと手を出した。だがその手に来たのはテディベアではなく、彼女の両手。突然異性に触れられアリスはギョッとして顔を赤くしたが、彼女は意に介した風もなく右の黄緑と左の黄色の瞳を輝かせ、

「素晴らしい! 何だ何だ、日本刀に柔道! 大日本帝国出身者かね!」
「あ、ああ」
「久々に仲間に会えた、ああ実は自分も日本人なのだよ! 貴殿と会えたのも何かの縁だ」

実に嬉しそうに飛び跳ねながら燥ぐ彼女だが、アリスは握った手が気になって仕様がない。否、彼女の見た目とは全く別人の哲学者のような言葉遣いも気になってはいるのだけれども。
すると大男との先程の一連の動作を見てたのか、周囲の高くなる声に気が付いたアリスは一先ず此処から移動しようと云ったのだが、

「おお。ナンパ? わ、照れる」
「違う!」
「耳まで真っ赤。貴殿は純情だなあ」

すっかり彼女のペースに乗せられたアリスは疲労した。恐らく外観的には自分と大差のない年齢であろうが、不思議な少女である。
一通り笑った少女は分かってるよ、少し歩こうかとウィンクをして道を歩き出す。白兎の方向だったのでアリスも彼女の後に着いたが、彼女は快濶な笑みを見せるだけでそう云えば何故あのような裏の人間に追いかけられてたのであろうか。不思議に思ったアリスが歩く少女に先程の説明を求めると、少女はああ、と思い出したように事もなげに、

「自分がホラ、裏のゲームあるだろ。ポーカーをしてたんだが、イカサマしたと云われてな」
「イカサ…?!」
「え。ああ、違うよしてない。自分はゲームが得意でね、勝ち過ぎたから彼等もそう云うしかなかったのさ」

そこまでお金がなかったのかね、とやれやれと云わんばかりに溜め息を吐く彼女にどれ程買ったのかと尋ねると、この間ジャバウォックが提案したお金とは比較にならぬ法外なお金である。それならば彼等が認められないのも彼女がイカサマをしたと云われたのも納得の範疇であるが待て、よく考えなくとも彼女は裏のと云った。最初から裏社会側の人間であるのかと少しの警戒心を出したが、彼女はどう見ても普通の元気な少女である。警戒しろと云う方が無茶な話でもあった。
交差点に差し掛かると、彼女はキャメル色の革のトランクから紙切れを取り出した。その薄さと大きさの形には見覚えもあり、彼女は向日葵のような笑顔でそれをアリスに突き付けて、

「これ、自分の経営する会社の名刺だ。今日のお礼をしたいから、また貴殿の都合の良い時に来てくれ」
「経、営…」
「ああ、大したこともない。従業員には部下が1人居るだけでね。それじゃあ自分はこちらだから、これで失礼するよ」

左に曲がった彼女は右手を上げて颯爽と帰って行く。己は真直ぐであったのでアリスはそれを追うこともなく只圧倒されて佇むだけであったが、名刺に視線を落とすとそこにはよく知った名前があって、思わず驚愕した声を漏らした。左を見たが彼女の姿は最早見えなくて、何処が大したことはないのだかと思ってもう一度名刺を見る。『帽子屋』の名前。帽子屋の正体が女性であり且つ年端も行かぬ者であった事実に呆気に取られながら、彼女が裏のゲームに参加してたのにも納得する。そして名刺を一先ずポケットに突っ込もうと左手を動かして、そこで気が付く違和感。迂闊な事に、完全に忘れていたが、

「…テディベア返して貰うの、忘れてた…」

アリスは溜め息を吐いた。






「そんなまさか、君、あの帽子屋に会ったの! どんな人だった!」
「女性で…、俺達と歳は変わらんと思う」
「へぇえ。年齢不詳って話だったけどそんなに若いの。うわあ、天才経営者」

そう羨ましそうにペットであるイグアナのイグリアータ(女王様は名前のセンスが生憎壊滅的である)を撫でて感嘆の声を出す。クイーンとグリムに取ってはあの帽子屋は憧憬の的であり、それは家系が貴族であって元から脚光のあった両者からしたら彼女のセンスもだが地位も名誉も最初はなかった彼女が1から鰻上りに経営者の頂点まで上り詰めたカリスマ的なものに心奪われたのだろう。ところでアリスは爬虫類の良さが全然理解出来ないので、さり気なくクイーンから距離を取った。
幹部の隣で同じく話を聞き入っていた副幹部である藥齪(やくし)グリムも紅茶を呑みながら、羨望の混じった声を出した。

「アリス、テディベアを彼女は誤って持って帰られてしまったのでしょう? 明日にでも会社を訪問されては」
「…仕事場に行くのも悪い気がな」
「大丈夫だよ、彼女の会社なんだし」

どうやらまたアリスが帽子屋と話してお土産話を持って帰って来てくれることを期待してるらしい彼等は仕切りなしに勧めたが、それならお前等が行って来たらどうかと云えば彼等は目を見合わせた。どうやら挨拶したいにはしたいようであるが、無駄に恐縮してしまうといったところか。欧羅巴で有数の歴史ある由緒正しき金持ち貴族組が何をどうしたらそこまで緊張するのかも分からなかったが、クイーンはピンク色のリボンの巻かれたイグリアータの頭を撫でながら、

「ま、まあ助けたのはアリスなんだし」
「私達が行っても…あれですので」
「その代わり帰って来たらどんな会社だったか教えてね」

まるで恋する乙女のような態度の彼等にアリスは何も云えず、小さく了解と返した。





裏路地の薄暗い迷路のような通路を暫く歩き、そこらにあった切れかけたカンテラを頼りにアパートの階段のような決して良いとは云えない錆びた階段を地下に向かって降りる。下水道のようなそこには布切れのような服を纏った数名の乞食が幽霊のように存在し、見られる事に居心地の悪さを覚えながら槐色をした扉に備われたベルを引っ張る。如何にも裏社会の会社であると思いながら返答を待つと、扉が大きな音を立てて開いた。あの帽子屋である。

「あ、昨日の。よく来てくれた、ささ中に入って」
「あ。お邪魔します…」
「良かった、貴殿に名刺を渡した後に渡して良かったものか後悔してね。ホラ、裏社会の人間じゃなかったらと思ったんだが」

杞憂に終わったようだ、と安堵したように溜め息を吐かれた。
オフィスを見渡すと、空間はさほど広くはないものの先程の光景とは打って変わって中々どうして立派な家具達がアリスを歓迎してくれ、快適そうな会社ではあるが装飾はシンプルで正に会社である。広がるその部屋に入る前の通路の左側には開いた扉があり、そこを見ると驚くことに空き巣でも入ったのかと思う程の荒らされた部屋がある。壁には女の子の絵が描かれたポスター、棚上にはピンクや緑の髪をした女の子の小さな模型。異様な空間にアリスが目を見開くと、気が付いたらしい帽子屋は「あぁっ!」と焦った声を出して扉を閉める。そして少々彼女の性格を察したアリスが少し彼女と距離を取ると彼女は傷付いた顔をして、

「今のはあれだ、自分の部下の部屋で」
「人にあらぬ罪を被せないで下さい」
「痛あっ!」

頭を何かではたく軽快な音がしたかと思うと、彼女の背後には丸めた書類を右手に持った学生服のブレザーを着た少年。黄緑色のブレザーの胸元には王冠を被った獅子が刺繍されたエンブレムがあり、臙脂色のレジメンタルタイは立派。大きな眼鏡を掛けた彼は客人であるアリスを見ると小さな笑顔を見せる。そこで彼のボサボサの髪の間から垣間見える瞳の色は帽子屋と右目と左目の色を反対にしたお揃いであることにアリスは気が付いて、そんなアリスに彼は書類を持った右手を下ろし、

「昨日はマッダーさんがお世話になったようで…本当トラブルメーカーですみません。あ、粗茶ですがお茶を用意しましたので奥へ」
「マッダー?」

聞き覚えのない名前にアリスがそうと云うと、少年は目を瞬かせ、けれども直ぐに事情を察したようで笑顔を見せて。


「普段は帽子屋と呼ばれますからね。彼女の本名は霧鎖戲(きりさき)マッダーと云って、当方はエンプソン。纜(ともづな)エンプソンです」






あの部下である彼は帽子屋と同じく日本人であるらしく、アリスに緑茶や煎餅、和菓子を出して接待してくれた。出された菓子は全て手作りであるらしいが何と美味な事か。白兎内で日本食を出す料理店も無論存在し、アリスは大抵和食を食すが彼の味は格段良いものであると思えた。彼はそれに気の優しい青年であり、お代わりもありますからどうぞどんどん食べて下さいねと云う。帽子屋自身が無遠慮に食べるものなので、アリスも空気に呑まれてつい幾つか食べてしまった。であるからして、
帰ればあれよあれよとクイーンに槐色の椅子に座らされ、三段重ねのスタンドに載ったクランベリー入りのスコーンをさあ、と渡されても食欲が湧かないどころか見る気にもなれないのは仕方のない事である。視線を紅茶や茶菓子から反らし食べようとしないアリスを見てクイーンは可愛らしく首を傾げたが、己はスコーンの1つを手に取ってそれをむはむはと食し始めた。栗鼠のような可愛らしさを振り撒く彼を見てアリスは頬を染めてしまわぬよう努めた。

「で、どうだった」
「部下が1人居て、場所は如何にも裏のような雰囲気だった」
「室内の様子は如何でしたか?」
「そうだな、黒が基調のシンプルで…」

そこではた、とアリスは彼女の部屋の有様を思い出す。あの、特殊なアニメの小物達。話してみると彼女の性格は存外相当な変人で、一癖も二癖もあるよう思えた。それも云うべきかと一瞬迷えたが直ぐ様それは止めようと考える。それは無論彼女が知られたくなく隠していては大変だとの配慮でもあったが(尤も、彼女の性格上そうも思えはしなかったが)これは彼女を憧憬の的とするクイーンとグリムの為でもある。

例えば、グリムなんかは王子様のような顔立ちと物腰の柔らかさを持ち、仏蘭西で指折りの貴族である。バイオリンや特にピアノを得意とし、英才教育の賜物で猟も勉学も出来た。しかし彼、料理は相当得意であるのに重度な味覚音痴であったし、何よりも宗教を溺愛してる。様々な神を拠り所とし、唯一神はどこ吹く風、キリストでもヒンドゥーでも盲目的に祈る。これでは神様も堪ったものではなかろうに、マリア像の隣へヴィシュヌ神が置かれる部屋は混沌極まりない状況である。あれでは、特注のロイヤルな家具達も台なしだ。
又、クイーンはと云うと英国で指折りの貴族でありグリムよりも地位は高く彼も基本そつなく何でも熟したが、彼は人形のような外観と違って相当趣味が悪く、爬虫類をペットとして飼っている。しかもネーミングセンスが皆無であるので、彼の1番のお気に入りである雌のイグアナの名前はイグリアータと云う。因みに彼、料理の腕も壊滅的であるので簡単な料理すら怪物のような奇怪なものを作製してしまうのである。

あの帽子屋もであるが、クイーンやグリムも黙っておけばきっと立派な模範となる人間であろう。彼等にとっては彼女もさぞ高尚な人間に見えてるに違いない、その理想像を壊しては駄目だろうとアリスはそこへは触れなかった。事実そうであったので洒落たオフィスであったと述べると、両者は煌々と目を輝かせた。

「ああ、そういや今夜、カジノに行くって云ってたな」
「何処の?」

アリスが場所を口にすると、そこは白兎の近くである。実はアリス、自分の上司や同僚が彼女に憧れを持つ事を云ったのだが、するとそれは光栄だな、と彼女は喜んだ。そうして自分は何なら今夜もカジノへ行くので、そちらが良ければ来るようと云う。その節を話すと優雅な動作でファーストフラッシュを呑んでいたクイーンは見事噎せた。

「え、彼女に会うの、しかも今夜!」
「そんな恐縮しなくとも良ければ気軽にと云ってたがな」
「何やら面白そうな話をしているじゃあないか」

そうと女王様の後ろからヒョイと神出鬼没して来たのは砥炉跿(しろと)ラビであり、糖尿病予備軍の彼は頂くよと云って机上のスタンドへ載せられたスコーンを1つスラリと伸びた指で取る。それを適度な大きさへと割って口へ運ぶと、

「本官も行くとしよう。アリスも行くだろう?」
「あ、ああ」
「じゃあお兄たんも着いてっちゃおうかな」

扉を開けると同時ジャバウォックまでもが云うが、見ると彼の小脇にはケイティが抱えられていた。大多数が無表情であるケイティは今も無表情ではあるものの少々不機嫌顔であり、よく見なくともジャバウォックの頬には熊柄の絆創膏が貼られてた。口には拭われた跡のある血まであり、一体どうしたのだとクイーンが云うと彼は困ったよう眉を下げたが笑顔のまま、

「ケイティってさ、人前では首輪もナックルも外さないし素肌も見せたがらないじゃない。だから双子とちょっと」
「…強引に見ようとしたの?」
「結果双子は医務室で擦り傷の手当中。で、お兄たんは先程痛む肋骨の包帯を巻き終わりました」

ちょっと強そうでしょう、と舌を出してめくるパイピングシャツの下にはぐるぐると巻かれた包帯。因みに惨敗で見られなかったよと笑うが、成る程ケイティの不機嫌はそこから来るもののようである。しかし恐らく彼は得意のお手製のトラップを思うまま駆使したのであろうに、ケイティの顔には傷一つなかった。聞けばジャバウォックが武器とした水鉄砲も大破されたとの事。そもそも、棘のあるナックルを嵌めた白兎一力持ちのケイティに水鉄砲で挑むなど無謀窮まりない愚行であるのだが。

「ケイティも行こうよ」
「…わっちは遠慮するでありんす」

夜は寝るでんすから、と小さな体格のケイティはスルと脇を抜けその場を後にした。断られてしまったジャバウォックは扉が閉まる前、

「朝も昼も寝てるでしょうー」

と云ってもう一度誘うが、扉はバタンと閉まった。ケイティを夜連れ出すなんて無茶だろう、とさも当然のようアリスが云うとジャバウォックはアリスが誘ったら分かんなかったよ、と返した。誘う人が変わろうと結果は変わるまいとまさかと云うと、呆れたよう分からないのなら良いよと云って、

「…で。行くのはお兄たんとケイティ除く5使でオッケー?」
「一応な」
「それじゃあグリム、宜しくね」

好意を寄せる者へ朗らかな笑みを見せ右手を差し出すとじろと睨むよう見られ、それから右手を握り返す事は勿論振り払う事すらせず。無視してすたすたと無愛想な態度でケイティ同様扉から出て行く後ろ姿を見送ると、またフラれちゃったとジャバウォックは軽い様子で云って椅子へ座った。

「グリムがあんな態度を見せるなんて君以外先ずないよ、君は一体何をしたの」
「え、ああそうだね」

あの温厚で少々天然のグリムの無愛想な態度を見て驚きの色を隠せぬまま寧ろ感心したよう温かな紅茶の入ったカップを手にしたクイーンを見るとジャバウォックはパーカーのポケットから色鮮やかなパッケージのグミを取り出して、苺味と青林檎味の小さなグミを口へと含むと自信満々な笑顔で云うものだから、過度なポジティブ思考に一同は呆れて最早何も云うまいと思った。

「あれはきっと、お兄たんへの照れ隠しなんだよ」


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