怪物とバーバリズムW




ジャバウォックが誘拐されてから、一週間が経過した。子供達は何時も笑顔で快活な様を見せるようになり、これにはモニターを見る男達は感嘆した。この世の終わりのような顔をした子供達がこうまで変貌するとは夢にも思わずに、流石怪物と云えるだろう。
その日の朝、ハムとトマトのキッシュを食べながらジャバウォックは「もう充分だ」と告げた。詰まり調教は終了したと云う事で、予想した以上の成果と速さに男達は手放しで歓喜した。
然し至って普通の様子であるとは云え、本当に云う事を聞くのだろうか。未だ何処か信用出来ないらしい男達がジャバウォックに尋ねると、彼はフォークを右手に持ちながら「今から連れて来て証明するよ」と云う。男達は顔を見合わせて、少しして頷いた。彼等はジャバウォックに少なからぬ信頼を置いてたし、子供達も信頼しても大丈夫だろうと考えた。それは浅はかである事も知らず。

それから監視室に子供達を引き連れたジャバウォックが入って来た。子供達は恥ずかしそうな顔をして、男達を見上げた。もじもじして手を動かす者、ジャバウォックの後ろに隠れる者。こうして見ると子供とは実に可愛らしい。
1人の男が何かを命令するようジャバウォックに指図した。ジャバウォックは笑顔で了承すると子供達の方を向き、パフォーマンスをするかのよう、元気に両手を広げて大きな声で命令を下した。

それが悪夢の始まりだった。

「ヒ、ヒィィィィィイ!」

ああまで可愛らしかった子供達は突然悪魔のような笑みになり、男達を一気に襲撃し始めた。男達は突然の事に戸惑いながらも銃を引き抜くが、銃を掴んだ右手を鋭敏に噛まれて悲鳴をあげる。子供達はテーブルの上のナイフを掴むとそれで男の足や手を次々刺し、然しその顔には罪悪感などは微塵もない。返り血を笑顔で浴びる子供の顔は恐怖そのものでしかなく、男達は断末魔の悲鳴をひたすら出した。
ジャバウォックはその間にテーブルの引き出しを漁り始め、ファイルや書類に次々目を通す。パソコンを起動させながら引き出しの中のUSBメモリを中に入れ、ポケットの中からオレンジマンゴー味のガムを取るとご機嫌で口へと含んだ。
ジャバウォックが楽々セキュリティを解除していると、虫の息の男が足元に這ってしがみつく。ジャバウォックは不快そうな顔でそれを眺め、厭そうに口を歪めると男の頭を足で踏む。

「あっひ、ぁぁあ!」
「お前俺の頬殴った奴だよね。サイテー暴力反対死んで」
「ひぃ、っ、痛ぁあっ」
「それに天使の子供を虐げる奴ってチョー嫌いなんだよねー」
「お、おまえっもっ同じィイっ」
「はあ? …ああ、そう。何か勘違いしてるようだけどさ」

ジャバウォックは屈んで男の髪を引っ張ると、男が泣き叫ぶのも構わず特上の笑顔を作る。そうして口を動かす時には真顔に戻ったが、その様子は明らかに不機嫌なものそのもので、男は汗を垂らしながら息を呑む。ジャバウォックそのものを恐ろしいと感じたのはこれが初めてで、怪物の所以とは絶対的支配力だけでなく、本人にも何かあるのではと男は本能で感じた。

「俺はドルダムもドルディーも利用したくて云う事を聞かせた訳じゃない。…昔、ある事故があってね」
「…じっ……こ…?」
「そう。美しい兄弟愛のお話、だなんて。お前等がどう思おうが、俺は兄として2人を愛してるんだよ」
「ひ、ぎぁ、」
「絶対的支配だなんて、そんなまさか。…ああ因みに、この子供達に与えたのは洗脳ではなく只の愛情です」

昔、欧羅巴のとある地域で小さな事故があった。立入禁止区内で破棄されていた戦闘用の機材が起動して、暴発したと云うものだった。死人はなく新聞記事に載ったか載らない程度のものとして当時は扱われたが、それは小さな命3つが消えかけた事故だった。
その原因とは、ドルダムとドルディーと云う幼い双子が兄の言い付けを守らなかったからだ。双子は兄を愛していたけれど、『脳での処理能力に若干の障害を持つ』彼等では、道徳も善悪も理解出来ず、兄の云う事を聞きはしなかった。
事件の前、ジャバウォックは高額を払いこの件で医師に診察をして貰ったが、これは治せないと匙を投げられた。このままでは双子が何時か大変な事をしてしまうのではないかと考えたジャバウォックは今まで足を運んだ事は1度もなかった図書館に通い、読めない文字を懸命に学び、心理学の本や医療の本を読み漁り始めた。

云う事を聞けないのなら、どうにかして聞かせなければ。

弟妹を守りたかった兄は、彼等が理解出来ぬなら理解出来ぬままで、『自分が道徳のラインとなる事』を選んだ。然しその努力が実る前、無情な事に事件は起こる。双子は入ってはならないと云う兄の言葉を聞かず、武器や機械が無造作に置かれた立入禁止区内へと入り、何も考えず危険物を次々と弄り始めたのだ。
そして追い付いたジャバウォックが見たものとは殺戮の為に作られたような危険な機材を無邪気に弄る2人で、ジャバウォックは直ぐ様双子の側へ駆け寄った。そうして双子の手を機材から離すと同時、莫大な音と共にとうとうそれは暴発した。
ジャバウォックは反射で双子を抱き抱えて守り自分の身体も無事で済んだけど、代わりに兄はその凄まじい爆音を至近距離で聴いてしまった。
次には双子が泣いている姿が見えたけど、彼等の声は聴こえない。ジャバウォックは理解出来ず耳へ手を当て、そうして自分の声も聴こえないのを悟ると ああ と理解した。彼は弟妹には何も云わず、泣きじゃくる双子の手を引いて帰った。
その日を境にして、双子は兄の言葉に従順になった。道徳は矢張り理解出来なかったけど、守ってくれた兄に対する罪悪感と感謝の情により『兄の云う事を聞く』と云う簡単で絶対的な命令を自分達に下した。根本的解決は出来なかろうが彼等が自分の云う事を聞く限り問題はないと知ると、兄は安堵して笑った。
これ以上双子が自分達を責めないようと兄は失聴を双子に云わないし、漏れる事がなきようと原因である事故も誰にも云わず、嘘ではあながちない「戦争でね」で通している。聴覚は失ったが、代わりに双子が守られるなら、と兄は思った。

ジャバウォックと双子間の異常な関係は、成る程確かに。美しい兄弟愛だと云えもしようか。

「て云うかお前等下っ端? ファイルも貴重なやつ全然ないし役に立たないんだけど、凄く拍子抜け」

ジャバウォックが呆れて云った瞬間に、少女が男の首を噛んだ。首筋から血飛沫が上がり、男は水をなくした魚のように無様にもがく。ジャバウォックはそちらを一瞥する事もなく、退屈そうな顔をしながら「まあ少しの足しにでもなるかな」とぼやきながら引き出しの中にあったもう1つのUSBメモリをポケットの中に突っ込んだ。
朦朧とする意識の中で、男は解せない――と思う。此処にある情報は人間兵器に関する小さなものしかないが、それを一応でも持ち帰るとは。白兎なら兎も角ジャバウォックには有益な情報ではないだろう、男は声を振り絞る。

「なっ……ん、でっ」
「え? 何? 今から信用出来る孤児院に電話するから黙っててよ」
「しろ、うさぎにっ…お前は、何の…」
「……あー。恩義もないだろうって? そうね、そうだね」

ジャバウォックは男の云いたそうな言葉を補完すると首肯して、あの女王は我が儘極まりないしねえとまで呆れたように云う。なら何故と男は疑問を一層深くしたが、耳の奥でぶつん と何かが切れた音がして、血走った目をぐるりと回す。この場の惨状とは全く不似合いのジャバウォックの楽しそうな声を、男は最後に聞いた。何かを云いたくはあったけど、それはもう今や無理だった。

「でも、プリンの借りがあるんだよね」







ぱあん!
大きな渇いた音がして、打たれたジャバウォックはこの痛みは男に殴られた以上かも、とあながち本気で思う。痛む真っ赤な頬を押さえながら苦笑を漏らし、ジャバウォックは自分を打ったクイーンに緩く笑った。

「…痛いよ、女王」
「君はふざけてるの?! パソコンを弄る者を――だなんて――!」
「知られたら困る情報が沢山」
「だとしても! 手榴弾を使うなんて前代未聞だ! グリムだから良かったけれど、もし他の人ならきっと死んでた!」
「ああそう、グリム何処?」
「聞け! 君は双子をもう少し指導して…ってこら!」

長くなりそうな説教からジャバウォックは早々におさらばし、左の頬を押さえながらグリムの部屋へと向かう。結局1週間程白兎を不在にしたけれど、その間にパソコンを起動させたグリムを双子が襲撃、最後は手榴弾を使い、白兎の6階及び5階と7階の半分が崩壊したらしい。また派手にやったものなので女王様はお怒りで、今も双子を指導するようと仰せであるけれど、ジャバウォックはする気は更々なかった(何故なら道徳のラインである兄が居ない場所で双子が道徳を弁えるのは、無理な話ではあるから)。代わりに1週間も居なくて淋しい思いをさせただろうからとナッツ入りのアイスを買ってあげる積もりになりながら、ジャバウォックはグリムの部屋の扉をノックする。幸いグリムに怪我はなく、怪我人も出なかったそうだ。

「はい…、………!」
「おっと。閉めないでよ。お久しぶりグリム、心配してくれた?」
「…っ……」

扉の先に居たジャバウォックを見てグリムは反射的に扉を閉めようとしたけれど、ジャバウォックは扉を掴んでそれを阻止した。疚しい事があるからかグリムはいたたまれない顔をして視線を床に落とし、口を開こうとしない。沈黙が流れる中それを破ったのはジャバウォックで、「双子がごめんね?」と飄々と口に出す。グリムは親に叱られるのを待つ子供のように身を縮ませていたけれど、数秒して意を決したのか。気丈に上を向くとはきとした声で、

「私は謝りません」
「え? …ああ、うん?」
「貴方が悪いんです、貴方が、約束通り彼の情報をくれないから!」

最初は何の事を云ってるのか解らず変な声を出したけど、矢継ぎ早に出されるグリムの声を聞き、ああと合点を行かせる。
グリムの姿を見ると堂々としてはいるが、よく見るとその瞳は不安げに揺れている。元が良い育ちのグリムが道徳的に宜しくない事をするだけでも勇気の要る事であったろうし、嫌われるのを恐れるグリムはジャバウォックの次の言動に怯えているだろう。
ジャバウォックは微笑むと、蜂蜜色のグリムの髪に触れて一房を持つ。グリムの目が見開かれる中でジャバウォックは笑みを絶やさぬまま、平生のような快活な調子で話す。

「別に怒ってないよ、あの事はね」
「…ふ、触れないで下さい…っ!」
「でも、『ちょっと傷付いた』かも。信用していたのに裏切られた訳だから」
「……!」
「なあんて」

酷く動揺した顔を見て、ジャバウォックは底意地悪く笑う。さながら補食者に捕まった兎のような状態のグリムは抵抗の意志を以てジャバウォックを強く睥睨するが、それをものともせずジャバウォックは一房の髪に唇を落とした。その行動に思わず惚けたグリムに対し、ねえ と静かに彼は云う。自分を見る双眸の水色は綺麗なのに捕えられては最期のインキュバスのようで、グリムは背筋に冷たい蛇のようなものが伝った感覚に一気に見舞われた。

「何ならお詫びにキスの1つでも――」

ぱあん!
クイーンの時よりも大きな音と痛みがして、ジャバウォックは目を2回程瞬かせた。そうして手の平で思い切り頬を叩かれたのだと解ると大変情けない気持ちになり、クイーンがあれでも大分手加減してくれていたのだと知る。頬は痺れ、今この瞬間腫れてしまったのではと思える程だった。
グリムを見ると先程の萎れた姿は最早なく、怒気を孕んだ視線で力一杯自分を睥睨している。何時ものグリムではあるけれど、若干悲壮感を感じるのは仕方ない。ジャバウォックは頬を押さえながら、やれやれと首を横に振り、

「信じらんない…まじ泣きそう」
「さっさと消えて下さい」
「わあ何時ものグリム。じゃあ今回の件はお兄たんの所為でもある訳だし、特別に彼の情報を1つあげよう」
「そうして下さ…、……え?」

事もなげにそう云ったジャバウォックの言葉にグリムは抜けた声を出したが、直ぐに期待に充溢された顔でジャバウォックを見る。自分を見る時とは全然異なるその顔に、ジャバウォックは落胆して大きく溜め息を吐きたくもなったけど、グリムから身体を離して扉の前まで行く。
後ろを振り向くと、グリムはジャバウォックの言葉を大人しく待っている。まるでクリスマス、サンタからのプレゼントを今か今かと待つような子供のようで、何て無垢な顔をするんだかとジャバウォックは思った。

「彼の名前はジャック」
「…ジャック…」
「序でに、彼の好物は林檎のタルトだ。それじゃあね」

ジャバウォックは右手を上げてその場を去り、残されたグリムはかつてない程の高揚感に覆われていた。自分が恋慕した相手の名前とは、ジャックと云う。ジャック、心からの幸せな顔をしてグリムは何度もその名前を呟いた。有り触れた名前だからそれだけで特定出来るようなものではないけれど、それでもグリムは彼の名前を知る事が出来て至高であった。
帰り際のジャバウォックの表情には気が付かずに、グリムはもう一度ジャックの名前を呟いた。






放送室に入ったアリスは、ジャバウォックが椅子の上で体育座りをしているのを見て驚いた。どうやらうちひしがれているらしく、頭の上から茸が生えて来ても可笑しくなく見える。クイーンから大目玉を喰らったとは聞いていたけれど、それ程に非道かったのだろうか。アリスがジャバウォックの顔を覗き込むと、彼の頬は真っ赤に腫れていた。叩かれて腫れたのだとは一目瞭然でアリスは益々驚愕し、

「そ、それクイーンにやられたのか?! ッアイツは本当加減を知らない…っ」
「え、…ああ大丈夫だよアリス、女王は何だかんだ加減してた」
「それでか?!」
「まあ色々あってね。ああそうそうそれよりも、」

紫色の星の形をした棒付き飴を片手にジャバウォックがアリスを手招きするものなので、アリスは不思議がりながらも彼の元へ行く。ジャバウォックはポケットの中へ手を入れると小さなものを取り出して、それをアリスの手の中へと落とす。グミか飴だろうかとアリスは思ったが、それは食べ物ではなくて黒色のUSBメモリだった。一体何かとアリスが聞く前に、ジャバウォックは或る映画に出て来るそれとそっくりなハート型のサングラスをかけ直しながら、

「人間兵器組織の下っ端から貰って来たメモリ。中は確認してないけど、何かヒントがあるかもね」
「……え…?」
「女王やラビと見れば良いんじゃない」
「ど、どうして」
「一。どうしてこれを? 二。どうして白兎に関係ないお兄たんがわざわざUSBメモリを渡してくれる?」

ジャバウォックは真ん中のパソコンにパスワードを入力しながら、状況が理解出来ずにいるアリスに得意な顔をしてみせる。パソコンのマイコンピュータの中に行きファイルを見てみると、そこには何のファイルもありはしなかった。ジャバウォックは飴を片手に「このパソコンは外れなんだよね」と悪戯に成功したような子供のよう笑うと、椅子を回転させてアリスと向き合った。

「前者はこの1週間、お兄たんは下っ端に捕まっていたからです」
「なっ…、ぶ、無事………だな、うん」
「侮るなかれ。そして後者はお兄たんがお兄たんだからです!」

飴の星の先を向けられて、アリスは意味も解らず小さく首を傾げてみせた。例えば鶏とは何ぞやと聞き、鶏とは鶏だと云われても全く理解は出来ないだろう。アリスのそんな顔を見てジャバウォックは大仰に肩を竦めると、要するにと意味もなく声を大きく張り上げる。

「お兄たんは皆のお兄たんなのです」
「………は?」
「お兄たんの一人称がお兄たんなのは、それにあるのです。ドルダムドルディーだけでなく、皆の兄なのです」
「………」
「詰まり世話焼きって事だよ」

鈍いなあ、とジャバウォックは心底から呆れたような顔をする。今までジャバウォックが自分の事をお兄たんと呼ぶ理由とは、双子がそう呼ぶからかと思って来ていたが、それなら双子の前でだけお兄たんと云えば良い事だった。皆の前で兄の一人称を使用してたのは、相手を自分の弟妹の如く認識していたと云うのか。
驚きに何も云えないでいるアリスに、ジャバウォックは口角を上げると星の飴の先を噛む。形が歪に欠けたそれを揺らしながら、サングラスの奥の目を細め、

「だからアリスもお兄たんの弟ってワッケー」
「…!」
「ほらほら甘えて良いよー? お兄たんて呼んでも良いよ弟よ」
「…っば、莫迦じゃないのか…」

楽しそうに笑うジャバウォックにアリスはそう云ってみせたけど、実はアリスは誰もが思う以上にこの言葉を嬉しく受け取った。自分の兄は到底兄とは呼べぬような兄だったけれど、ジャバウォックが兄なら多分きっと自分は恵まれていただろう――とアリスは思う。
大きく腕を広げてウェルカムのポーズをするジャバウォックの頭を丸めた雑誌で叩き、アリスは直ぐに扉のところまで行ってしまう。ノリが悪いなあとジャバウォックは唇を尖らせたけど、アリスは扉を開く前、後ろを見て小さく微笑んだ。

「…有り難う、お兄たん」

ぽろりとジャバウォックの手から飴が落ち、云ってから恥ずかしくなったのかアリスは耳まで顔を赤くすると扉を開けて出て行った。ジャバウォックは暫く閉まった扉を見ていたが、飴が雑誌の上に落ちてしまったのを見て慌てて拾う。
まさか本当に云って貰えるとは思わなかったジャバウォックは何のデレ期だと考えたけれど、ふむとなってリモコンの赤色のボタンを押す。スピーカーから流れる独逸のバンドの音楽を聴きながら、本日の癒しだな なんて思ったりした。





クイーンとアリスとラビは、パソコンにUSBメモリを入れて『No.01』と書かれた動画を開いた。砂嵐とノイズの後に映ったのは何処かの研究室のようで、そこは白くて何もない。白衣を着た研究者達が何事かを話しているが、ボリュームを幾ら上げても聴こえない。
これが人間兵器を開発した組織なのだろうか――とクイーンは画面に見入る。少しすると白色の扉が横に開き、研究者2人に挟まれて1人の男性が連れられて来た。彼は白色の丈の長い簡素な服を着ており、腕に囚人のような手枷を嵌められていた。彼の髪は白く、俯く目は赤色をしている。

「…ケルト人かな」

アリスがラビを見ると、ラビは何時になく真剣に画面を見つめていた。アリスが画面に視線を戻すと、画面の端の紙に小さく『梦海ゴート』と書かれていた。日本人の名前であるそれにアリスは反応したが、そこで画面は白髪の男性の顔を大きく映し出した。刹那ラビが息を呑む音がして、クイーンはラビの顔を見る。ウェーブのかかった肩までの髪、くすんだ赤色の瞳。

「…パット…」

彼の名前を呟いたラビの声は、軽微に震えていた。ケルト人には間違いないようであるし、パットと呼ばれた彼は恐らくコーカス軍の軍人なのだろうか。
――人間兵器の組織は本当解らないね、クイーンは吐き捨てるようにそうとだけ云った。



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