指導者U




「立派なベートーヴェンを弾かれたでしょう、貴方に才能がなければ私は立つ瀬もありませんよ」
「あまりご自分を卑下なさらず」

そのような会話をしていると、女中が2人分のアンブロワジーを金のトレーへ載せて持って来た。するとクインテットは子供らしく大層喜んで、仏蘭西のお菓子は美味しくて羨ましい、英国のは劣るとフォークを片手にはしゃぎながら云うものだから思わず笑った。未だ子供なのだな、と自分も子供である身ながらも年上らしくそう思った。
その後も紅茶を呑みながらお茶菓子を食べ、あの本はお勧めであるので是非読まれるべきだとか新たな楽団の指揮者は才能があるだとかの話をして楽しんだ。どうやら婚約者も未だ相手となれるような者が居なくて存在しないとの事。これは藥齪側からすると取り入る為の一歩として成功であるとも云えようが、しかし鬮鸞側からしたら誰であろうが所詮は自分達よりも下な存在であり、特に当主からしては取り入ろうとするまた一員に過ぎなかった。
クインテット本人は、それでも彼を今までの貴族よりは上であると捉えてた。しかしそれだけだった。また、貴族の模範のような人間だと思った。

橙色をした夕刻ともなると、空が美女を妬み彼女達の声を奪う魔女の心と同じ位の真っ暗闇の黒へと呑まれる前にとクインテットは席を立った。彼が居なくなった数分後、グリムは母親からその隣の部屋へ呼ばれた。

クインテットが自分の右手の親指に嵌めていた指輪を部屋の中へ忘れた事に気が付いたのは、薔薇園の中である。赤の薔薇を見てフと己のハート形をしたルビーの指輪が無い事へ覚醒するよう気付かされたクインテットは、お菓子を食べる時両手の黒の革の手袋を外したからだとの理由に至って、一瞬まあ良いかとも思えたが、そう云えばあれが父親からの今のところの唯一の贈り物でもあったので、踵を返すか悩んで結局屋敷の中へ戻った。

元の部屋のティー・カップが置かれたままのテーブルにそれはあり、彼も気付かなかったのだなと考えながら拾ってそれを嵌めた。すると隣室から何やら女性の大きな声がして、一体どうしたのだとクインテットは好奇心から小さく開いた隙間から中を覗き見た。部屋の中にはグリムと確か母親が居たが、

「…ッあんな小さな子に負けて恥ずかしくなかったの!」

ぱしいん、とグリムの頬が叩かれる光景を見てクインテットはギョッと身体を強張らせ目を見開いた。抵抗をする事もしない彼は醜悪な形相をした母親から「あの態度を見た、見下されてたじゃない!」またぶたれ、雪のよう真っ白な頬は林檎のよう真っ赤に腫れ上がる。
あちゃあ、まずいものを見たとクインテットは眉を下げた。何も見慣れぬ光景ではなかった。他の貴族でもよくある事である。しかし彼女のようあそこまで容赦なく叩かれるのは流石に見た事もなく、自分が行っても火に油だろうと次の手が出される前、その部屋を後にした。数歩先で女中と擦れ違い、気まずそうな顔をされた。



「クイーン様、お帰りですか」

屋敷の前へと待たせてた、ロールスロイスの運転手が云う。うん、と云って扉を閉めた。
クインテットは彼の打たれている時の顔が忘れられなかった。大抵、あのような時は自分か打つ張本人を憎むような顔をするものだ。
しかしどうだろう、彼はと云うと諦めたような顔をしていた。否、それどころか自分が悪いのだとの申し訳なさを見せた顔であった。それがどうも脳裏へと焼き付いて、しかしクインテットはまた彼も父親からの期待もあり、ピアノはもう一種諦めてたのでそこは良いのだが、

「…彼も大変だけど、ライオンと闘わされるのって絶対僕だけだよね」

父親の苛酷な教育へと溜め息を吐き、クインテットは小さな身体を車の椅子へと横たわらせた。物騒な発言を運転手は聞かなかった事にして、車を走らせた。彼もまた、親からの桎梏へ束縛される者の1人であった。
それから、クインテットとグリムは演奏会で会う事もなかったが思わぬ場所と状況でまた再開する事となるのだが、


さて、その一方でグリムはと云うと。


「…寒、い」

館から大分離れた外へと来たグリムはそうと小さく呟いた。いや、来たと云うよりは余儀なくそうされたと云った方が正しいであろう。どうやら今は同じ屋敷内にすら居るのが不快であるらしく、口が切れ頬の赤くなったグリムは外へと追い出された。命令を下された運転手は困った顔をして、しかしそれではと反論すらしようとしてくれたが、出来ないのなら運転手を替えても良いと云われて運転手は苦渋の顔で承諾した。お役に立てずすみませんと運転手は云ったが、グリムは自分こそそのような顔をさせ申し訳ないと思った。

これからどうしたものか、グリムの口からは溜め息が出た。今まで外出したと云っても車外からは一歩も出た事がなく、パーティや演奏会等を除くとこのように自分だけで、自分の足で歩くのは初めてだった。ましてや庶民の歩く場所等、見えるもの全てが未知数である。
一銭も持っていないので、何かを買う事も出来ない。更には如何にも乱暴をされた身形が目に余るのか、周囲を行き交う人々からまるでスラム街の子供を見るかの視線を浴びせられ、
居心地の悪くなったグリムは、夜となり運転手が迎えに来るまで路地裏に居ようと考えた。丁度良さげな場所を見付けると、そこへ佇んでおこうと路地裏へ足を運んだ。すると、

「ん?」
「、あ……」

先着が居た。

その路地裏で目が合ったのは、グリムと同じ位の年齢の少年である。彼が身に纏っているものは切れたシャツ、擦れて泥のかかったズボン。そして煤か何かで真っ黒になった髪は乱れてて、顔立ちは決して悪くはないのだがお世辞にも彼は綺麗だとは云えなかった。スラム街の子供か苛酷な労働者と推測が出来る。
彼は果物らしき物を食べる手を止め、グリムの身体をまじまじと見た。居心地の悪さを感じたものの目も合ってしまい、自分はどうするべきだろうかとたじろいでいると、少年は何処か視線を哀れんだものとさせ、口を開いた。

「…お前も苦労してんだな」
「……え」

まさか彼のような者からそうと同情されるとは思わなかった事であり、驚いて自分の姿を見る。成る程一瞬忘れかけてたが、血の付き乱暴をされたような自分はお世辞にも綺麗と云える状態ではなく、服が高級であろうがその状態で路地裏をさ迷ってては問題を抱えてそうなものである。
果たしてどう説明しようかと、いやそれより否定をして説明すべきなのか否かと迷っている間、少年は頻りにそうに違いないと自己完結したよう頷いていた。そうして良しと決めたよう、云うと解れた薄い綿の布に包まった果物らしき物を差し出して、

「ほら、食えよ。食うもの無くて困ってたんだろ?」

何と、恐らく彼にとっても貴重であろう食料を差し出してきたのである。先程まで彼は未だ食べた事もないだろうケーキを食べていたグリムは恐縮したし、罪悪感に駆られた。

「……しかし、」
「良いから遠慮すんなよ。困った時はお互い様だろ?」

少年は惜しまず、人懐っこい笑みを見せる。どうやら仲間であると見なしたようだ。
戸惑いはしたし迷ったが、折角の好意であるし遠慮するなと無理矢理渡されてしまったので、結果お礼を述べ受け取る事とした。加えるならこれは無意識の内であれば勝手な推測の範疇を超えたものではないのだが、グリムはもしかしたらだが、あの母親が選び差し出して強要する物ではない、『何かいつもと違う物』を自分の意思で受け取る事によって無意識の内、彼女の手中から離れたく思ったのかもしれない。そもそも、暴力のある強制では人は抑え切れぬものだ。

「…」
「どうした?」

グリムが目の前の少年を見ると、自分の分の果物を豪快に齧っている。今まで果物を切られた状態でしか見た事のなかったグリムは成る程そうして食べるのかと理解した。少年が至って普通に食べているので、自分が如何に甘やかされて育ち世間知らずとなったかを痛感した時でもある。躊躇しながらも、グリムは果物を齧った。

「どうだ、美味いだろ」

少年は得意げに笑って云ったが、
そのあまりの味へ嘔吐感すら込み上げたグリムは急いで歪んだ表情を隠そうと己の口元を塞ぐ。慌てて少年の顔色を窺ったが、少年は気が付いた様子はなく、安心して息を吐く。

口内へ広がったのは、食べた事もないような凄惨な味。グリムは母親から乱暴を受けようが、食べる物は無論一級品。故に下流階級の者が、しかもその中でも下の食す物は到底舌が受け付けなかったのだ。こんな食べ物もあったのだ、と目の覚める思いである。
しかし、そんな失礼な事は少年にとってこれが貴重な食料である限り、絶対に云えはしない。これが美味しいと疑わず親切をしたと信じきっている少年は期待の眼差しを向けていたから、尚更。相手を不快にするような事は決してしないようと調教されてきたグリムは何とか笑みを作って、

「お…美味しい、です」
「おっ。だよなー!」

少年はグリムの白い嘘を疑いもせず、子供らしく無垢な笑みを返した。一方、見ず知らずの自分へ優しくしてくれた彼の好意を踏み躙りはしなかった事にグリムは心から安堵して、こちらも笑みを見せた。

「っと…いけね。俺、もう家に帰るな。母さんが待ってるし」

暗くなって来た空を見上げ、少年が少し急いだよう云う。
母、と云う単語は今聞けば先程の乱暴を思い出し、胸が苦しくなる単語だった。加えて彼女の望まないであろう食べ物を食べた罪悪感も今となって押し寄せて、再び自責の念へと駆られる。しかしそれでも少年が孤児ではなく家が在った事、何よりも母と云った時嬉しそうな顔をしたのが気になって、

「…待ってる?」
「ああ。今さ、母さん身籠もってんだ」

大きくなってんのと己のお腹を叩き、

「俺に妹か弟が出来るんだ。で、母さんの手伝いしなきゃ」
「…そうでしたか」
「きっと可愛いんだろうなあ。出来たらお前にも見せて…そうだ、明日も此処、来るか?」

地面を指差しそうと尋ねられ、明日はどうなるか分からないグリムは一瞬返答に困った。しかし初めて出来た損得なしで話せる者、何より此処まで良くして貰った彼とは出来ればまた話したいとの気持ちが沸き起こり、腱鞘炎を患い母親の機嫌が損われた今、明日また追い出される可能性は高いとグリムは踏んで、

「未だ分かりませんが…、恐らくは」
「そっか。待ってるから来いよ! じゃあなっ」

少年は聞くと笑顔を作り、それだけ云って颯爽と走って去って行く。笑顔と話し方は太陽のようではあったけど、心の中にすんなりと入っては早々と抜けるのは風のような少年だった。良くしてくれてまた明日も話してくれるなんてと、よく分からない少年ではあったものの確かに待ってると云ってくれた事が、何よりも貴族としての自分以外の存在意義が初めて認められたようで嬉しくて、その姿を暫く見送った。何かが満たされたような気がした。
少年から貰った果物を食べた。それは矢張り酷い味ではあったが、最初に抱いた抵抗感はなくなって、不味いと思いながらも全部食べた。
暫くすると、見覚えのあるリムジンが迎えに来た。中には複雑な顔をした運転手が居るだけで、分かってはいたし期待もしてはなかったが母親は居なかった。先程の少年が母親を口にした時の、楽しそうな顔が脳裏へと焼き付いていた。


次の日、予想したまま暴力を奮われ再び外へと追い出されたグリムは、こっそりと藍色のジレーの下へ白パンを忍ばせておいた。今日の朝食に出ていた自分の分だった。昨日出会った彼が自分の分の食料を与えてくれたせいで彼の食べる物が少なくなってしまったろうと、良かれと思って行ったその行動は横しまな気持ちは一切ない、自分なりの純粋な恩返しの気持ちだった。路地裏まで来て未だ少年が来ていない事を確認すると、果たして自分なんかの為また来てくれるのだろうかと緊張しながらも黴臭い壁に寄り掛かる。

数秒して何となしに横を見ると、髭を生やし無造作に髪を伸ばした小汚ない男が己を見ているのに気が付いた。家が無いのだろうと一目で予想のつくそれを見て嫌な意味で自尊心の在る上級階級のように不快にはならないものの、その黒色の目の視線には、何処か居心地の悪さを感じた。彼は早く来ないだろうかと、本能的に身の危険を感じながらグリムは顔を背けた。
男が近付いて来たのが空気で分かった。逃げるべきかとも思えたが、昨日と同じ此処でないと彼が分からないかもしれないと、彼が来るのを深層では期待しているグリムは動く事は出来なかった。男の服が視界の隅へと入った時、手が自分へ触ろうと伸ばされたのに肩が奮えグリムは思わず強く目を瞑った。それと同時、昨日と同じ、よく通る透明な少年の声が少し遠くから耳に入って来た。

「お、良かったーまた居た! …って」

昨日の姿と何も変わらぬ少年が、見知らぬ男とグリムを交互に見る。何事かと状況を把握出来なかったのは一瞬で直ぐ様今の状況を把握したのだろう少年は、脅えたよう身体を縮こまらせたグリムと男の間へと入って険しい顔で男を睨んだ。

「何やってんの、お前」
「や…その、」
「…こいつ俺の連れだから、そういうの他当たって」

云うなりグリムの手を取って、走ってその場を後にする。グリムは初めて体験する恐怖心への脅えと助けられた安堵感が混ざって頭を混乱させながら、視界へ広がる、きっと年も身長も変わらなぬ彼の背中を自分よりも大きく感じた。外部から隔離され防衛の仕方の1つも分からぬ愚鈍なだけの自分を情けないと感じながら、彼は己よりも偉いのだと漠然でありながらもそう思った。それは畏敬の念であり、純粋な憧れでもあり、嬉しさでもあった。

「…たくっ、お前は顔が良いんだから気を付けろよな!」
「……顔は…良くありませんよ」
「馬鹿。良いんだよ!」

馬鹿と云われながらもそう云われ、褒められているのかけなされているのか分からなかったグリムは一先ず苦笑で返した。少年は呆れたようだった。

少年がグリムを引っ張り連れて来て男からの逃げ場としたのは、奇遇にもグリムの屋敷の真裏だった。走る距離は決して短くはなかったが、それでも意外と近かったのだと思う。しかしその事は今は問題視するべき事でなくそれよりも、使用人が来て自分の存在を見られ、己の身分が彼へ知られてしまわないかと焦る感情が芽生えてるのにグリムは気が付いた。自問するまでもなくその理由は単純明解で、初めて出来た損得なしの知り合いを、自分に仲間意識を抱いてる彼をどんな形であれ早々に裏切り二度と話せなくなるのは嫌であったし、藥齪グリムとではなく只の1人の少年として対等な話がしたかったのである。

加えて、使用人に気が付かれたら恐らく母親に報告されてしまうだろう。あの人一倍人を見下す傾向のある母親の事、身分の低く汚い子供と話すなと、病気を持っていたらどうするのだと叱咤をした挙げ句彼女の選んだ友人以外を作る事を禁止されるのは目に見えた。それだけは御免蒙りたかったし、これはもしかしたら無意識の内で抱えた母親への反発心であるのかもしれないのだと、グリムは此処で至った。至って自分の心へ生まれた小さな染みを恐ろしく感じたが、それでも今の自分には塗しすぎる彼と話せなくなるのは嫌なのだと思う。その、自分で持った初めての感情は本来なら持ってて当然ではありこの場合でも小さな少年の誇れる感情でもあるのだが、自分は狡い人間だ、と親から束縛されたグリムは目を細めた。

「…あ、そうでした。あの、これ」
「え?」
「その、差し出がましかったら謝りますが…昨日の果物のお礼、です」

グリムがポケットから遠慮がちに出して少年へと手渡したのは、朝食の白パンだった。これをした事で万一彼から嫌われたらどうしようかと、今までこのような交流をした事のなかったグリムは緊張しつつ怖ず怖ずと恐縮しながら云ったのだが、それは杞憂で終わった。少年はそれを見るなり双眸を光り輝かせ息を呑み、満面の笑顔を見せた。

「…っ美味そうな白パン! おま、良いのかよこんな高級品!」
「お礼ですので…」
「サンキュな! …でも、何でお前こんなん持ってんの?」

少年が投げ掛けたのは、尤もな疑問である。まさか尋ねられるとは思いもしなかったグリムは顔を引き攣らせたが、それに加えてこんな高級なもんは此処の藥齪家のような金持ち貴族が食うもんだろ、と自分の館を指差されるものだから冷や汗すら出てしまう。藥齪家を知っていたのかと予想外の事態へ緊張感が増す一方、なればそれを悟られぬようしなければと決意を新たとする。何かを正直に吐露する事でもしかしたら少年の機嫌を損ねるかもしれぬ危ない橋を渡る勇気は、持ち合わせてはいなかった。気を付けねば震えてしまいそうなグリムの口から出たのは、

「…あの、実は私は、藥齪家の下働きをしてるんです」
「へえ…! 成る程。残飯な」

思わずの、真っ赤な嘘。
昨日から吐いてしまう嘘への罪悪感よりも、なればその服装も言葉遣いも合点が行くと云って少年が納得した事へ心から安堵している自分に気が付いて、グリムは胃が重くなる錯覚へと陥った。それでも納得してくれた彼へ真実を告げる気は最早なく、これなら追求されても自分の家の事であるのだから答えられぬものはない、と緊張で張った糸を緩ませた。彼と対等で話せられるのならと、グリムは全てを犠牲とした。
少年がパンを豪快に1口齧る。美味いとはしゃぎ喜ぶ顔を見て、グリムの顔は嬉しさで綻んだ。このような自分でも彼を喜ばせる事が出来た、その事実が掛け替えのなく思えた。でも、と食べながら少年は言葉を紡ぐ。一体何を質疑されるのだろうと跳ねた心臓を悟られぬよう待ち構えたが、しかし彼が紡いだのはグリムの予想を遥かに越えたもので、

「藥齪家って酷いんだな」
「………え?」
「下働きのお前を、こんなに殴るんだ。ロクな奴等じゃない。辛いよな。痛いだろ?」

まるで自分が痛かったよう、辛そうな顔でグリムの頬を優しくそっと撫でる。刹那、彼の言葉を理解したグリムは目頭が熱くなり、双眸から涙が出そうになった。その事へ気が付き己を戒め何とか堪えたが、そこで自分は辛かったのだと間抜けな話かもしれないが、初めて気付くに至った。
今まで感情移入してくれた人が周囲に居ただろうかと、グリムは少年を見ながら思う。彼は昨日知り合ったばかりで名前すらも知る仲ではないと云うのに、同調して同情し、辛い顔すらしてくれてるではないか、と。
他人からするとそれだけでと思える些細な事ではあるが、初めて味わったその優しさは特殊な家庭で育ったグリムに取っては紛れもなく身に沁みるものであり、少年と目が合ったところで何故か頬が紅潮したグリムは気まずくてふいと視線を反らした。と、そこでグリムはある事に気が付いた。

「…全部、召し上がらなかったのですか?」

少年はパンを半分だけ食べ、残った半分をポケットの中へ入れていた。



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