指導者




「グリム、ディナーに行こうよ」

そうと朗らかな笑顔で大きな肩掛け鞄を揺らしながら云ったのはグリムが天敵とする唯一の人物以外の何者でもなく、従って彼が嫌悪感を露とした表情を躊躇う事なくさらけ出したその事については最早不可解であると首を傾げる余地もある筈がないだろう。対してその反応を既に予測済みのジャバウォックは何事もなかったかのように、無言で立ち去ろうとするグリムの前を彼の顔を見て歩きながら、

「ねえ、結構な高級店にさ。フランス料理店とか良いね、赤ワイン呑んでステーキ食べて、」
「結構です」
「2名予約済みなんだけど」
「他の方をどうぞ」

つっけんどんの極みである態度でそうと云われると流石に面白みもないのであろうか、ジャバウォックは唇を尖らせる。その態度を一瞥するとグリムはでは、と視線を反らし、彼を避けて歩みを進めた。しかしそこで引かぬのが彼の彼たる所以であるし、何より此処で引くのであれば疾うにグリムへのラブ・コールは止めているだろう。彼の前へ立ち塞がって、

「来てくんないと、双子に頼んで毎朝グリムの寝起きを襲わせちゃおっかなー」
「…。他力本願ですか」
「それともお兄たんが別の意味で夜襲う方が良い?」
「気持ち悪い」

冗談だよ、と髪を掻き分けて云う彼の表情からも態度からも何処までが本気ではたまた虚偽なのかは分析出来たものでなく、従ってグリムは喰えない彼へと眉を顰めた。そもそも、彼が此処まで自分へご執心な所以すら分かったものではなかったのである。
しかしジャバウォック曰く双子の襲撃はどうやら本気らしく、どうするの、と笑顔で聞いて来るものだから彼の性質の悪さと悪趣味さへ益々眉が顰められる。彼のずる賢さは恐らく白兎1のものであり、彼へ逆らうと間もなくもれなく双子が報復へ来るので、誰もが武器を持たぬ代わりに双子と云う武器を携帯する彼を畏怖してた。
しかしグリムは、何処までも兄へ忠実な双子の心中が計り知れなかった。

「…何故彼等は兄の貴方へそこまで傾倒してるのです?」
「きっとお兄たんがカリスマだからだね…ああうん嘘、お兄たんは歴史上の人物で云うとヒトラー的な?」
「最悪だ」
「で、来るよね」

最早疑問ではなく確定で云う彼へ、呆れてものも云えない。
双子は怖くはないし、襲撃されても躱す自信なら十二分にはある。あるのだ、が、それが毎日となっては睡眠すら億劫となり只でさえ思う事があって中々少ない睡眠時間が更に貧相な事となりそうだ。幹部様へ相談すれば良かろうが、しかし誰かへ頼る事は拠り所の神は別としてあまり出来るものではなく、このような男からの脅迫紛いを相談するだなんて、ましてや。
自分の誰かへ依拠しない性格や状況まで考慮してのお誘いかと本当狡猾な彼を下衆とその気品へと似つかわしくなく蔑みたくもなるものだが、グリムは暫し彼を睨んでとうとう、

「…1回だけで良いのですね」
「話が分かる! なら早速行こうか」
「………」

折角の日曜日なのだから父親へ遊園地へ行きたいと駄々を捏ね渋々ながら許可を貰った時の子供のよう、ジャバウォックはご機嫌な様子で顔を綻ばせた。そうして「お手を」と差し出された右手を気が付かなかったよう無視をして、どうしてこうなるのかとグリムは酷く鬱となる。
グリムは、彼が嫌いだった。否、例えば過去に何もなければきっと彼からの恋慕の情は有り難かったろうし、恐らくグリムも彼を好きとなっただろう。その自身を揺るがせる程の彼を、過去へ執着し断ち切れないグリムだからこそ、最も嫌いで嫌悪する対象物となってしまった。もしかしたら、グリムは彼ではなく、そこまで思えた自分こそが1番嫌悪感を抱く対象物だった。



GRIMM'S PAST



『完璧であれ、全てに置いて』

それが「貴族」である藥齪家の父親と母親の云う決まり文句であり、恐らくは先代からの指針であった。彼等の家系はと云うと勉学は無論の事、貴族に不要な料理でも、兎に角何に置いてでも周囲より超越した存在であれと、その為なら何物でも(本末転倒でも例えば自分の身体すら)犠牲にしろといった英才教育の塊だった。貴族ではよくある話ではあろうとも、藥齪家は恐らく類を見ぬ程の厳しさと徹底を持った。
未発達である小さな頃からのその教育は果たして血反吐を何回吐きそうになったかも分からないし、無理のし過ぎで意識を失う事もあった。教育係が見るに耐えれず一ヶ月もしないで変わって行く程のその容赦のないスケジュールでは、幼き身体が壊れる寸前にまで追い詰められる毎日だったのである。

しかし親がそれを見て同情して英才教育を止める筈も無く。寧ろ体力が無いと云われ狩猟のスケジュールをも増やされて。
何時しか藥齪家の長男であり末っ子のグリムは途中で気を失う事もしなくなり、泣く事もしなくなった。その代わりに親の最も好んだ笑顔を絶やす事がなくなって、14歳ともなると彼は藥齪家の誇りであり先代の誰よりも優秀であると云われる程の完璧さを持ち合わせ、周囲の期待を裏切る事は無かった。

正に理想の子供だった。

「本当に、良く出来た子ね」

顔もとても綺麗だし将来が楽しみねと何も事情を知らない優雅な貴婦人、即ちグリムの母親の友人が笑う。対して母親はそんな事は無いわと謙遜をして優雅に笑ってはいたが、内心では肯定をしているばかりか貴女の器量の悪い子供とは全然違うのだと相手を見下しもしていた。
隣に座らされていたグリムは幼いながらに母親の内心を悟ってはいたが、彼は『親に取っての理想の子供』だったから何も云わないし、それどころか気が付かぬフリをしていた。

「嫌だわ、そんなに褒めなくても。――ねえグリム」

作り笑いで話を振られたグリムは母親を見た後友人である貴婦人へと視線を向けて、目が合うと子供とは思えないような美しい笑顔をしてみせた。思わず頬を染めた彼女へ向けて、母親の望む回答を一字一句間違う事もなく、上品さを兼ね備えたままで耽美な唇を動かした。

「ええ。私は本当に…大した事はありませんから」






「グリム。疲れてない? 大丈夫?」

眩暈がする程広く、白を基調とし金色の装飾の施された高価な家具や美しく咲く薔薇が置かれ、壁には国内で最も著名な画家の作品である本物の絵画が掛けられた、まるで王妃が住んでいそうなグリムの部屋。
聞き慣れた美しく優しい声色に、サスペンダーの膝上ズボンを穿いたグリムは持つだけで手が震えてしまいそうな程の価値の在るヴァイオリンを弾く手を止め、右手へ弓を持ったまま猫っ毛の蜂蜜色の髪を揺らして顔をそちらに向けた。

「姉さん。…寝てなくて、大丈夫ですか?」
「分かるでしょう、幾らお医者様から安静にするようにと云われても流石に毎日寝てたら厭きるわ。それよりグリムの方が大丈夫?」

心配そうにもう1度問う美人は、グリムの唯一の姉だった。

美しく巻かれた蜂蜜色の長い髪に、胸元の宝石と見間違えるかのような輝く水色の双眸。それらはグリムと瓜二つで、そして兼ね備えた上品な礼儀作法や立ち振るまいは彼女の全身から滲み出てて、身を包んだ豪華なバッスル入りのドレスを抜きにしても彼女が良い所のお嬢様なのだと分かる程である。
彼女は頭も良く、正に藥齪家が理想とするような完璧像なものの、生まれつき身体が弱く、習い事をするどころかあまり立ってもいられなかった。何せ子供はこの2人だけなので、その分の期待が全てグリムに行ってしまった。
それを知った姉――キセルは大きな罪悪感を感じており、聞こえて来るヴァイオリンの音色にとうとう居ても居られなくなったのでグリムに大丈夫か、と尋ねたのだ。

「私は大丈夫です」
「…この後の予定は?」

嘘、と咎めるようじろと目付きを悪くさせた彼女へ事もなげに弟は、

「ヴァイオリンをこの後2時間、演奏会の為にピアノを4時間します。今日は家庭教師の方も来られるので、ダンスの練習も。日が暮れたら狩猟を」
「…全然大丈夫じゃないわ。貴方はあまりにも小さいのにそんな無茶を…」
「お母様もお父様も、小さい頃だからこそと」
「………本当に、ツマらない人間だわ」

キセルが吐き捨てるよう云う。キセルは親の前ではグリム同様素直に良い娘を振る舞ってはいたが、実際は周りの目ばかりを気にする親を大変嫌ってた。グリムは親を決して嫌ってはなかったのでそこが彼女と彼の徹底的な相違点ではあったのだが、面従腹背と云う言葉がピッタリなそれは自分が被る被害と云うよりは、

「グリムはこんなに可愛いのに。それだけじゃ不満だなんて」

グリムの頭を愛しそうに撫でる。彼女の親への憎悪は、弟への異常なまでの溺愛から来ていた。厳格な親が嫌いと云うよりも、単に弟を苦しませている者が嫌いなだけなのである。
グリム自身はその溢れんばかりの愛情に気恥ずかしさを感じており出来るならもうこのような愛情表現も止めて欲しく、欲を云うなら婚約者を決めても欲しかったのだが、恐れず加護の発言をしこうして良くしてくれる姉に好い加減弟離れして欲しいとも云えなくて、こうして今に至るのである。

大切な人形にするような動作で一通り頭を撫でたキセルは満足そうに貴婦人と云うよりは少女らしい笑みをして、腰部分の大きなリボンをまくし上げた豪快で少々はしたない動作とは対照的に、至って上品な仕草で柔らかい天蓋付きのベッドの上へ座った。
一体何事であろうかと惚ける弟の目の前で姉は何処からともなくファーで出来た豪奢なふわふわの桃色の扇子を出し、優雅に顔を扇ぎながら、

「そろそろヴァイオリンの演奏会だったわよね、聞くと他の貴族の子供達も弾くのだとか」
「ええ」
「グリムは練習なんてしなくても渦中の人となるのでしょうね。でも私は貴方の姿を見られないのだし、さあ弾いて」
「え、」
「貴方の練習姿、私が見とくわ。グリムのヴァイオリンを弾く姿は綺麗だもの」

彼女はどうやらグリムの練習姿を今から始終見るつもりらしく、彼女の真意を察せた弟は顔が引き攣った。
人前で弾くのが慣れたものであるとは云え血縁者である彼女から凝視されてては気恥ずかしく集中なんて出来たものではない。更に例えグリムが有り得なくはあるのだが故意的に音を外したとて素晴らしかったと大袈裟に称賛されるのは悪戯好きな子供に隙を与えては何をされるかとの事よりも目に見えたものであり、従って弟はヴァイオリンの弓を振ってやんわりと拒否をした。

「姉さん、見付かると咎められますし、もう帰られた方が…」
「あら、グリムまでそんな事云うの! 嫌よ、折角監視の目を潜ってまで来たんだから。目の保養をしないと」
「目のほよっ…、」
「どうしたのグリム、ヴァイオリンの音が聞こえないわよ…ってキセル! 貴女また抜け出して…」

そこでクリーム色の、細かな細工の施された豪華なドレスを着た貴婦人が現れた。年相応にドレスが大人しめな色の分、首や指に付けられた華美なシトリンとハーフパールの宝石が良く映える。彼女こそはグリムとキセルの母親であり、ビスマルクの政策から飴を取ったような教育を施す厳粛な女性である。美人ではあるが、彼女の顔からは何処かその厳しさが見てとれる程であった。キセルが顔を引き攣らせる。

「お母様、」
「貴女はもう落ち着きのないっ…。グリムを見習いなさい」
「………はい」
「ああグリム、ノルマは済んだの? 分かってると思うけど次の演奏会は失敗は許されないのだからね」
「分かってます…お母様」

彼女がキセルに一緒に自分と立ち去るよう言い付けると、娘はしおらしく物分かりの良さを見せてはい、と返事をする。だが母親が満足して後ろを向いた時、声へは出さず口だけで「ばかおや」と動かしたのをグリムは見逃さなかった。
グリムの視線を感じたのか、母親にバレないようキセルはグリムの方を見て片目を閉じて悪戯っ子宜しく目配せをした。そうしてまた口だけを動かして、「またくるわ」

扉が締まった。
また来るのか。グリムは肩を落とし、弓をG弦へと素早く当てた。それは彼女が居ては注意力散漫となってしまうし恥ずかしくて堪ったものではない、姉が監視の目を潜って再び来る前に何とかヴァイオリンとピアノを終わらせなければと云う事である。
焦燥感を抱いた己の心とは裏腹に、繊細な音色を奏でるヴァイオリンの音が屋敷内へ大きく響き渡った。




さて、演奏会が終わってからと云うものの、グリムの母親は不機嫌であった。理由は至って単純明快である、彼女の思惑通り事が運ばなかったのだ。
断っておくが、グリムの演奏は他の貴族よりも群を抜いて素晴らしいものであった。ピアノなんかは特に良かったと様々な貴族から褒められたものであり、1番藥齪家が気にしてたあの、英国の貴族である鬮鸞家の当主からも褒められた程。
無論それへと鼻を高くしご機嫌となった彼女を見てグリムは安堵もしたのだが、ヴァイオリンはと云うと鬮鸞家の息子、クインテットの演奏が多く称賛されたのがどうやら駄目であったようだ。

クインテットは今現在8歳であり、容姿も人形のような素晴らしさを兼ね備え、何よりも華々しく他を圧倒するオーラさえある。家系は似たようなものであるとは云えグリムの方よりも歴史と伝統ある由緒正しき貴族であり、よってグリムの母親は彼等と関係を持とうとする一方で酷く憎んでたし、負けず嫌いな性格もあってか何でも勝とうとしていた。
クインテットもピアノは演奏したがそこではグリムの方が褒め称えられたのだし、此処で五分五分としてもヴァイオリンの評価だって似たようなものでもあったのだし、もしかしたら鬮鸞家のご機嫌を取る為の評価であったのかもしれない。しかしどうであれ彼女はあんな年下へ自慢の息子が負けたのが大層嫌であったらしく、その秋の演奏会が終わってからグリムは叩かれた。貴方は恥さらしだわ、と。

それから練習量が足りなかったのだとヴァイオリンのレッスン量を増やされてから、無理をし過ぎたグリムはとうとう腱鞘炎となった。その事がまた彼女を不愉快としたようで、グリムはまた医者の前で彼女から叩かれた。抵抗はしなかったので、内出血をし口からも血が出た。医者は専属の者であったので注意は出来る筈もなかった。グリムが手を動かせず、身体の服で隠れる場所へ痣を作っていたその年の冬の事である。クインテットが、藥齪家へ訪れて来ると聞いたのは。





「…グリム、聞いたわ。あの鬮鸞家のクインテットが来るのですって?」
「ええ、そのようです」
「お母様はまた余計な事を! 私はあの子嫌いよ、生意気そうだもの」

そうと云ってグリムの身体を抱き寄せ頬を擦り寄せる彼女へ、抵抗も出来ないグリムは苦笑を漏らす他なかった。グリムは14歳で彼女は最早17歳、どうやら母親曰く関係を持ってキセルをクインテットの婚約者へとも考えているようであったが、弟へその事を云った彼女からすると「ご勘弁!」との事らしい。彼女は唇を尖らせ云う、「ホニトンレースとシルクサテンで出来たウェディングドレスをあの子供の為に着ろと云うの?」
知的で優れた方ですよ、と云って嗜めた弟へ姉は酷く不機嫌となった。私が他の人と結婚しても良いと云うのね、と。ゆくゆくはそうなるべきであったので頷けば、彼女は余程機嫌を損ねたのか暫く口を利いてくれなかった。彼女の愛は姉弟間の悌ではなく別のものであるとは未だ分からなかったグリムは、それはそれで困った。

「それにあの子、グリムを腱鞘炎にした要因だわ。ヴァイオリンだって大差は無かった筈よ、皆鬮鸞家の名前に諂って」
「彼の腕は、素晴らしかったですよ。私の負けでした」
「あら! それでも私は貴方の方が好きよ」

ふふ、と笑う彼女へ困る一方どうも気恥ずかしく、グリムははにかみ俯いた。すると聡明そうな背筋の真っ直ぐな女中が扉をノックして「クインテット様がお見えになられました」と云う。キセルは不満げながら身体を離し、そうしてでは行って参りますね、と眉を下げた笑顔で言う弟を見送った。閉まった扉をじっと見る姉は簡素な白黒の長い丈をしたメイド服の女中を見る事もなく、

「グリムの方が、余程クインテットよりも優れてるわよね」

女中は果たして他の貴族との対比をして良いものかと返答に迷ったが、しかし彼女は側からお使えするグリムは本当に優れた方だと思ってた。幼きながらに藥齪家の名前を背負おうと逃げもせず全てを熟してみせたし、不満を見せた事は1度たりともない。
彼の人柄は大変良く、使用人の彼女達の気遣いをもする程。頭も良く楽器も出来、狩猟の腕も優れ弓も銃も熟すと云う。更には、ステッキ術であるラ・キャンやレイピアを使う剣術のあの素晴らしい腕前と云ったら!
そうするとあの、大層噂のクインテットは先程見たところ誰よりも指導者としてのオーラを見せ圧倒すらもされたが彼の人となりまでは分かるところではない女中は、当主は好きになれないとは云えグリムとキセルへは忠誠を誓ったので、笑顔で本心から云った。

「ええ、勿論です」

キセルは満足そうだった。





「どうも、初めまして――ですかね、クインテットです」
「おや、秋の演奏会で1度お会いしたのですが覚えていらっしゃらないと見た」
「ああ失礼…その、僕も色んな場所へ行きますから、つい」

ごほん、と年端も行かぬながらも気まずそうに云う小さな彼をからかったグリムは無理もありませんと人当たりの良い笑顔で返す。覚えてないのも致し方ない事だろう、と思った。
グリムは彼の事をよく覚えてた。それは母親が頻りに彼と父親である当主の話を持ち出すようなったからである。演奏会なので順位等はないのではあるが、それでもグリムは母親からも云われたよう自分は2位で彼が1位であると認識してた。下の者は上を見てその背中を壁として追い越さねばならなかった。
だが、1位はどうだろう。上位者は決して後ろを見たりはしない。目標がない彼からしたら1位である彼自身こそが敵であり、従って歯牙にもかけられてなかろう事は分かってたし、彼もまた統治者となるべく、全てからして1位なのであると分かってた。

グリムは、クインテットを怨みはしなかった。母親から叱られ叩かれる事は誰でもなく自分の責任なのだと思ってた。それは恐らく彼の生まれ持った性格なのかもしれないが、兎も角温厚な性格が災いして自責の念が他者と比べて強かったのである。

それは、いっそ悲劇である。

「私はグリムと申します。以後お見知りおきを」
「グリ…、ああもしかして、あのピアノでリストを弾かれた?」
「覚えておいでで」
「ええ、まあ。僕はどうやらピアノの才能はないようでしてね、貴方のピアノは良かった」
「ご謙遜を」

ゴールデンティップスの多量に含まれたアッサムを口へと運ぶ前、2人は口元に笑みを浮かべた。



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