ツィクロンBU




夜。帽子屋の云っていたカジノの前まで一同は来た訳であるが、その際こちらから会う訳であるから、とジャバウォックとグリムとラビは自分で既に相応な服を選び着用したから良いものの、アリスは女王様から捕まえられてこれを着る!とラペル部分にサテンのあしらわれた立派な仕立てのシルクのスーツを渡された。どれだけ気合いが入ってるのだろうとアリスは少々呆れたが、当の女王様もシルクのリボンが襟元に付いたクリーム色の立派なシャツにエンブレム付きのジャケットを羽織り、サスペンダー付きの槐色の半ズボを穿いてと大層なおめかしをしていた。
人気の少ない裏路地に在るそこの中へ入ると、そこは一見何の変哲もない普通のバー。カクテルを作るバーテンダーへと話しかけ二、三言云うと体格の良い彼は目付きを変えるや了解したと頷き、奥へどうぞと手で指示するとヒョロリとした亜細亜系の低身長の男が奥へと続くのであろう扉の前へ佇んでいた。近付くと彼が扉を開ける。奥へ続くよう広がる狭き通路は暗さを見せ、良ければとランタンを渡された。彼が先導してくれるかと思ったが、どうやら一本道で直ぐだから不要であると云う。

奥行きのある通路を少し歩けばくすんだ赤色の扉がある。扉を開ければ急な斜面の地下へと続く階段が存在し、まるで帽子屋のあの家のようだと感じながらその階段を下る。革靴の音がコツと反響し、暫く下ると喧騒が聞こえて来る。話し声やチップの流れる音、勝者の傲った声や敗者の悲痛な声。煙草の煙が立ち込めると隠されたカジノが姿を現した。階段を下りきった女王様は己とグリムに向けられる視線を一切合切無視して青色をした天井やまばゆさを持つ辺りをキョロと見回し、そしてアリスに、

「ねえ、どの人?」
「ちょっと待て、」

アリスが女性にしては華奢なあの身体を探すとこのような場所だからか存外簡単に見付かった。彼女は今カードゲームをしており、その隣にはあの丸眼鏡を掛けた青年が参加する事なく傍観してた。彼の服は以前のようなブレザーではなしにこの場に適した白黒のツートンカラーのスーツであったし、彼女の服は女性らしさを見せる可愛らしい形の、真っ黒の短めのドレスであった。只、その上にはファーの付いた男物のコートを羽織っており、それはあのエンプソンの物であろうかとアリスは推測した。彼の性格上派手な露出は控えるよう注意しそうである。

「あの、肩で…コートを羽織った」
「ミニハットを被ってる彼女?」
「ああ」

頷くとそこで渦中の彼女は突然アリス達の方を向き、すると気が付いて人懐こい笑みでアリスの名を呼び手を振った。今日の何の行動がそうさせたのかは分からぬが彼女はすっかりアリスを気に入ったようである、上司のその反応を見てエンプソンも気が付いたようで、目が合うと折目正しく礼をした。
そうして来い来い、と彼女が手招きをするので目を光り輝かせるクイーンを見アリスは彼女らの元に共に行く。すると彼女はまた会えて嬉しいよと本当に嬉しそうに云うとクイーンに視線を遣って、

「貴殿とは実際会うのは初めまして、だな。英国で指折りの貴族、鬮鸞クインテット。噂は予予。自分は霧鎖戲マッダー、帽子屋と呼んでくれ」

と握手を求めるものだから、クイーンは目の中でスピカを光らせながらそれでも威厳を持って堂々と握手する。そこで気が付いたよう彼は副幹部の、とグリムを手で示すと帽子屋は笑顔を示し、ゲームを続行しようとするディーラーが迷惑そうな顔をするのを「タイム」と遮って我が道を行く唯我独尊な態度で、彼も知ってるよと笑顔で云う。

「仏蘭西の貴族、藥齪グリムだな。ピアノがお得意だとか、うん、貴殿は外見は典型的な攻めと見受けるが」
「は…?」

聞き慣れない単語にグリムの動きが停止する。
そこでディーラーから再開を催促され、帽子屋は幼く不服な様子で唇を尖らせた。数字が見えないよう裏返しにした水色の市松模様のトランプを渋々持つと、それを持ったまま彼女は申し訳なさそうに眉を下げ、小さく笑って、

「折角来てくれたのだし、もう少し話をしたいな。良ければ自分が終わるまで、少し遊んでて待っててくれないか」

もう終わらせるから、そうと云った帽子屋の相手の男のこめかみが、ピクリと引き攣った。





「わあ、あの帽子屋と話したよ! どうしようアリス、破顔する」
「そうだな、経営者が泣くから取り敢えずもう止めてやったらどうだ」

え、とクイーンが目を瞬きさせてアリスの指差した方向を見ると、それは己のやってるスロットマシン。何回目とも分からぬ777とのぞろ目が出、その口からは気持ち良くなる程の豪快な音で大量のコインが出た。すると先程から溜まっていたコインがとうとう容量の限界と達した事で床やクイーンの膝へと溢れてしまった。漸くその大抵の者であれば飛び跳ねて喜ぶ事態に気が付いたようで、小さな椅子に座席していたクイーンはおお、と驚きの声を口にした。
そこで起きたざわめきよりも更に大きなざわめきがしてアリスがそれを見ると、どうやらビリヤードをしていたラビが渦中の人物であるようでナインボールをやっていたのか、マッセショットをするのが見えるとガコンと音がして9番と書かれたボールがポケットへと落ちた。大きな歓声や拍手が鳴り響きラビはキューを下ろしたが、そこで素早く店員が来て羅紗が破れてたらどうしたのだとラビへ詰め寄った。しかし当の本人は破れなかったのだから良いだろう、と悪びた様子も見せない。羅紗を破る危険性のあるショットをわざわざしておいて何だその態度とアリスが呆れていると、

「あれ、アリスは何かやらないの?」
「ジャバウォック…、て、お前何だその大量のお菓子は」
「ああ、聞けば買ったチップを景品と換えてくれるって云うから双子にね」

両手一杯に得意顔で抱えるお菓子の量を見る限り、女王様やラビと同じく彼もギャンブルは得意な性質のようである。何で白兎にはこうも無駄な才能を持ち合わせた奴等が多いのだろうとアリスが溜め息を吐いた時、突然硝子か何かが割れる音がした。次いで男の声に出すのも憚れる汚い罵りの言葉がし、喧嘩かと周囲が興奮を見せる中自分達も視線を遣ると、何とそこでは帽子屋へ先程の相手が怒りを露にしているところであった。

「おお、完膚無きまでに惨敗したからと云って八つ当たりかい? 野蛮人だな」

加えてその相手を虚仮にしたような余裕を見せる彼女の態度にとうとう我慢ならなくなったらしい、堪忍袋の緒が切れたようで男がナイフを取り出して彼女に振り回す。そこで血湧き肉躍らしてた野次馬達の声が悲鳴へと変わったが彼女は危機感を持った様子もなく、逆に当事者ではなく部下である彼、エンプソンの方が焦燥した様子で彼女の手を引き逃げ出した。が、そこで足が縺れ巨大な体格を見せる男との距離はあっという間に縮んでしまう。男のナイフが振り上げられた瞬間、甲高い悲鳴と共に周囲の女性は目を両手で覆ったが、

「…なっ、」

そこで出た声は帽子屋の悲鳴、でもなければエンプソンの悲鳴でもなく、惚けた男の声。男の手からはナイフは姿を失っており、男は呆気に取られたままでナイフが男の手中から逃げた要因となった、赤色のカーペットの上へとナイフと同じくして転がるダーツを見た。痺れる手はその遊び道具がナイフを叩き落としたのだとの事実を物語っており、それが飛んできた方向を見ると高身長の、優雅に佇む優男が何食わぬ顔で右手に2本のダーツを持っているではないか。
彼が妨害したのだと簡単に分かった男は瞬時顔を苛立ちそのものに変貌させ、罵って再びそのナイフを拾おうと手を床へ素早く向けた。が、今度はそこで鳴り響く銃声。呼吸を持って行かれるかのようなその音が奪ったのは男の数秒間の行動だけではなくそのナイフもで、発砲した側の、則ちラビ――であるが、彼はこれまた悪びた様子も見せず床に落ちた男のナイフ目掛けてトリガーを引いたのでそのナイフの刃がパキィ、と立つ嫌な音と同時破損した。

え、と帽子屋がグリムとラビを交互に見るが、しかしそこで女王様が己の部下達の行動を誇ろうとする訳にも行かず。先程の男の声もだが銃声もまずかったのであろう、どやどやと警備員らしい服装をした男達が入って来、クイーンは顔を引き攣らせた。しかもその喧嘩の仲裁をする中立側であろうかと思える彼等は、どうやらナイフを持った男の仲間であるらしく、

「調子に乗りすぎたな、少々痛い目をして貰うぞ」

等と小型銃を構えて云うものであるのだから、最近巻き込まれてばかりだとクイーンは頭を抱えたくもなりながらラビに右手を向ける。するとラビは抱えていたキューを彼に投げ、クイーンはそれを余裕で掴むと平生扱う槍のようビシ、と構えた。小さな人形のような女の子までもが相手とは思わなかったのか、一瞬の隙を見せた男達のそのチャンスを見逃さずクイーンは身軽な動きで男の腹を蹴りその反動を利用して回った体制で別の男の頭をキューで叩き倒れ込む男を邪魔であると云わんばかりに蹴り飛ばす! 漸く反応を見せた男達を一網打尽に叩く白兎最強の彼を見て、グリムとラビは顔を見合わせて自分達の役は無いか、と大人しく見守る事とした。あんなに小さな少年が男を圧倒する様は子供すら騙せない嘘のようで、映画を見てる気分となる。
一方、先程の男が殴り掛かって来る手前でアリスは悲鳴をあげたエンプソンの前へと立つ。抜かれた黒の刀身をした日本刀を見てエンプソンは思わず声を漏らしたが、アリスがその刃の反対で男の胴体を一回のみで殴打し黙らせた時にはエンプソンは感動し声すらも出せなかった。弱いと自負もある自分では出来ぬその動きに魅せられたのである。アリスが彼を振り向くと、

「大丈夫か?」
「うぇっ、は、はい!」

何故か顔を赤くしながらエンプソンは何回も頷いた。なら良いと少しだけ笑んだ彼の顔から目が離せずに、顔へと更に集積する熱を自分でも確かに感じながら、エンプソンは背中を向けクイーンと加わって応戦しようとする彼の後ろ姿を恋する乙女のようボンヤリと見つめた。そこで我へと返ったのか、

「ま、マッダーさん、アリスさんてば日本刀を、強、」
「テンプル騎士団だ!」
「…………は、あ?」
「テンプル騎士団…白兎…鬮鸞クインテット。成る程、納得だな」
「…お知り合い、ですか?」

途端訳の分からぬ単語と人名を羅列し始めた帽子屋をエンプソンはやっとの事でそうと聞くのが精一杯であったのだが彼女は彼の質疑など聞いてはなかったようで、来たまえとエンプソンの腕を引っ張って上のラウンジへと続く階段を無理矢理駆け上がる。何が何やらの、元は裏社会のうの字すら知らなかったエンプソンはこの状況に困惑して気がおかしくなってしまいそうであったのだが、帽子屋は階段を上がり切ると手摺りで身を乗り出して、どんぱちを確認すると大燥ぎで彼と向き合った。

「あの白兎だよ、今日は実にツイてる」
「あの…って、当方全く分からないんですけども…」
「貴殿は知らなくて当然だ、しかし驚きだな、まさかの美形揃いなんですけど。あの兎さんな彼とアリスのカップリングとかイケるくね? アリスって絶対強気受けだと思うんだ」
「すみません、何の話ですかこの変態」

このような状況下で己の変わった嗜好で人物を見るのに感嘆すら覚えながら、しかしエンプソンはやり手の経営者で哲学的思考を持つと思わせてその実は性的倒錯者で長さと幅だけの次元をこよなく愛する彼女に一種の詐欺も覚えた。彼女の変わった性癖には最早何を云っても無駄であるとはそこまで長い付き合いではなくとも重々承知してたので、涎を拭う仕草を見せる彼女は無視してエンプソンはアリスの姿を見ながら帰ったらバートランド・ラッセルに餌をやらなきゃなあ、と帽子屋オフィスの華である(雄だが)ペット、巨大蜘蛛に思いを馳せた。

暫くするとどんぱちは終了、幹部であるクイーンによって殆どが鎮圧された。客はすっかり避難したのか彼等以外に動くものもあらず、帽子屋は素晴らしい!と讃えて拍手を贈った。だが女王様はそれに複雑な気持ちである。

「白兎諸君、しかし安心は出来ない」

帽子屋がそうと云ったと同時期に、煙が天井からゆっくりとではあるが室内へと侵入する。音を立てて拡散をするそれに驚きを見せたのは彼等だけでもなくエンプソンもで、えええっと1番の驚愕と狼狽を見せる彼の隣で帽子屋はこちらは余裕綽綽の顔をして、得意げに胸を張って声高に、

「どうやら何かあった時に作動する催眠ガスらしい。そこの階段から逃げるが吉だろう」
「マッダーさん、何で知ってっ」
「何故? 実は前にも1回どんぱちに居合わせてな! やああの時はビビった」
「こんのトラブルメーカーがああ!」

絶叫してバシッと誇る彼女の頭を叩くので、帽子屋は痛いじゃないか!と不満を云う。そんな事云ってる場合かアンタはああ!と喚く彼等の姿は喜劇を見てるようでもあり、本当こんな時に何をやってるのかとアリスは呆れざるを得なかった。それじゃあそろそろ上ろうかとクイーンが階段へ向かうので、

「帽子屋達も早く」
「え、ああ自分達は良い」
「マッダーさああ?!」
「男のくせして煩いぞ眼鏡。ホラ、後ろ非常口あるだろ。そこから出たまえ」

え、と涙目のエンプソンが後ろを振り向くとそこには確かに『emergency exit』の文字。ぱああと目を輝かせる部下をやれやれ、と肩を竦めながら帽子屋はアリス達へと視線を戻した。おどおどする部下へと目もくれず先に出ておくよう指示する中、護身用の銃すら持たぬ2人を大丈夫であろうかと不安げな顔で見つめるアリスと目が合うと、彼女は器用にウィンクをして、

「心配するなマイハニー。何ならまた後日、電話してくれ」




己以外動く者が存在をしない中、帽子屋はさて、と呟いた。ガスの充満は未だ先であるが、気は抜けはしないだろう。自分も非常口から外へ出るか、と今頃外でやきもきしながら待っているであろう部下の姿を想像して扉へ手をかけた時、男の呻く声が聞こえた。帽子屋の回そうとした手が止まり、彼女は黙って踵を返して下を見る。するとそこには伸びた人間達の中1人の男が這いずるよう動く様が見てとられ、それを見た彼女は、笑った。
壁へと掛けられたガスマスクを乱暴に外し、階段を軽快に下りる。男の前まで立つと彼女の足に気が付いた彼は顔を必死に上げて助けを求めるかのようガスマスクへ手を伸ばしたが、

「知的好奇心がお有りかな、ならば時間の許す限り教授してやろう」

彼女は男の求める回答とは違ってそう云うと、持ってたガスマスクを遠くへ放り投げた。男は顔を絶望へと変えるでもなしに、状況が把握出来ず目を見開いて彼女の顔を見た。すると彼女の顔の、何と生き生きとした事か。
まるで歴史的発見をした時の歴史学者や自分の研究に自信を持つ大学教授、はたまた偉大な開発を成し遂げた開発者のよう彼女はよく通る声で、

「先ず、このガスは後遺症の残らない毒ガス、アダムサイト――化学式で云うとHN-(C6H4)2-AsCl であると固定観念のある事だろう」
「……う、あ…」
「しかし残念だな、その実違うのだよ、ああ催眠ガスとかの可愛い想像はしない方が良い」

焦らすよう、今度はサーカス団の団長の如く厳かな手振りで云う彼女を不可解なものを見つめるよう見上げた彼の目は困惑に満ちており、煙がどんどんと近付いて来るのを視界の隅で捉え彼の口からは生理的な涎が出た。震え動くのは彼だけで、拝聴者が男以外他には居ないのを残念に思いながらもこのような演説も新鮮で良いかもな、と気を取り直した彼女は続けた。

「ナチス・ドイツのユダヤ人大虐殺――ホロコーストで使われた毒ガスを知ってるかい」
「………う、う…」
「名はツィクロンB。同性愛者や捕虜にも使用されたらしいが…、マイダネクの収容所は、使用した証拠として未だ『天井が青い』よ」

男がさ迷う視線を天井に向けた。そして汗を流す。このカジノの天井は、染みのよう青色をしては、ないか。彼女が笑んだ事で恐怖心は倍増し、男は大きく息を荒げながらガスマスクの方へと向きを変えてはいずった。それを帽子屋は何の感慨も湧かないで天井へと視線を戻すと、そろそろ引き上げの時期であると悟った。階段を再び上がる前、恐怖で顔を強張らせた男に言葉を投げかける時の彼女の顔の、何たる無邪気で醜悪な事か!

「何故死を恐れる、エピクロスは云いました、生きている時は死は存在しないし、死がやって来た時は自己は存在しないので死を恐れる必要は無いと!」


意気揚々。しかし彼女は階段を駆け上がる時、それでも這いずり生きようとする彼の姿を見下ろしながら眉を下げた。そうして彼の姿と気概をその目で捉えたとて無慈悲とも云えよう扉を閉めてから、呟く。

「それでも人間は考えてしまうから、死は怖いよな」

彼女の登場を今か今かと待っていたエンプソンは、彼女がやって来たのを見ると盛大な安堵を示す溜め息を吐いた。次の瞬間心配させてアンタはもう、と泣きそうになりながら説教をし出す彼に帽子屋は適度にすまなかったよと窘めると、ところでとキャメル色の重たい鞄を持ち直しながら切り出して、

「貴殿は青の天井を気にしてたな」
「ええ、マッダーさんが黙れと云うのであそこでは云いませんでしたけどお」
「拗ねるなよ。あの青は何で出来たと考察する?」

エンプソンの父は科学者であり、故にその活動を傍らで見ていた彼がその考察を違える筈も無い。そうと確信を持って彼女は尋ねた訳であるが、切り替わった彼の真面目な顔で紡がれる言葉は本当に一字一句彼女の期待を裏切らず的確に云い当てるものなので、彼は演繹法を使用して考察する胡散臭いホームズのような探偵かさもなくば矢張り科学者が似合ってるのだろうなあ、と帽子屋はコッソリと思いもした。

「最初は薬品かな、と思ったんですが今まで家で見てきた染みとは違うんですよね…。で、考えたら上はバーでしょう。ですからバーテンダーかお客かが零した水が、染み込んで染みとなって浸透したのではと。って何で笑ってんですか」
「ん、いやあ…」

腹部を抱えて笑い出した彼女は、不機嫌顔をする部下に眉を下げて。

「さっきね、悪ふざけしたものだからさあ。きっと目が覚めた彼は、虚仮にしてと怒るのだろうなと思ったのだよ」


詰まりは、そういう事である。



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