パラレル



「あら、クイーン君のお友達ね」

と或る町外れの病院での事だった。数日に一度の頻度で来るその顔に、看護師はすっかり馴染みが出来ていたので、敵意なんてまるでなしに朗らかに笑んで云った。
看護師と向き合う事になったのは、一人の青年だった。青年は少し離れた寄宿学校の制服に身を包んだ、黒髪の青年だった。臙脂色のレジメンタルタイとブレザーのエンブレムは、この辺りでは少し鼻を高く出来るような、小さな地位の象徴でもあった。
黒髪の青年の手には小さな白い花だけで出来た、小奇麗な花束がある。青年が持って来る花の種類は何時も一緒だった。

「何時も感心ね。仲良しだったの」
「俺は彼の寮の監督生なので」
「あら、そうなの」
「勿論仲も良かったですよ」

青年が人当たり良さそうに微笑むと、看護師は当然に納得した。彼のような模範生なら、きっとどんな問題児とでも上手くやるのだろう。
自分の息子もこう育ってくれれば文句はない、そう思った看護師はもう少し青年と話したく感じたが、あまり長話をしては仕事に支障が出る。それに此処は職場であり、自分は今勤務中なのだ。相手も患者ではないのだし。
看護師は背筋をぐっと伸ばすと、

「今はクイーン君は寝てるから。話せないのは残念だろうけど、後でちゃんと、貴方が来た事を伝えておくからね。ええと…アリ…」
「アリスです」
「そう、アリス君。私、娘が出来たらきっとその名前を付けるわ」
「本当に? それじゃあその時は是非、娘さんを見せて下さい」
「ええ。きっとね」

良い子だった。今時此処まで出来た子が居るのかと思える位、アリスは全てに恵まれていた。
看護師は自分の夫に文句がある訳ではなかったが、例えば、アリスが将来結婚する女性には、少なからず羨望を抱いてしまいそうだと思わずにはいられなかった。あの名門の寄宿学校の監督生なのだ、将来はきっとエリート銀行員や官僚として働くのだろう。そしてきっと幸せな家庭を築くのだ。
例えば夫が何にもない日に花束をプレゼントしてくれたり、料理を作ってくれたら死ぬほど喜ぶのに。だなんて、随分な我が儘だろうか。
自分よりも大分年下の男の子相手にそんな事を考えるなんて可笑しい、そう思いながら看護師はその場を後にした。




「アリス、終わったか」
「ああ。本当面倒だよな、教師の目がなければ絶対にやらないのに」
「アイツの入院の原因がお前だなんて知ったら、教師や看護師はどう思うだろうな」
「莫迦。お前等だって一緒になってやったろ。今でも忘れられないな、窓から落ちたあの時のアイツの間抜け面…」
「あれは最高だったな、なあ、アイツが退院したら今度は何をして遊ぶ?」

「さあ、未だ考えていないけど――。…そうだな、冬だから。裸にして、川で寒中水泳とか面白そうだ」
「アリス、お前本当鬼だな。…俺もアイツは嫌いだけど、お前がそこまで嫌うのがたまに怖いよ」

「…だって気持ち悪いだろ? アイツ、俺を恍惚とした表情で見て、俺の事親友だなんてほざくから。莫迦なホモ野郎、何時もちょこちょこ後ろを着いて来て。死ぬほど虫唾が走る」






病院の一室で、クイーンは花束の下の方にびっちりと入れられた虫達を、殺さないように気を付けながら一匹ずつ窓から逃していた。
皆が慕い敬う才色兼備のアリスが、クイーンにだけ冷たくする事を、クイーンは無論知っていた。然し彼は他の生徒と違い、クイーンの目を見て話すし、実物のクイーンそのものを見てくれるのだ。
アリスはクイーンに散々非道い事をしてきたが、本当に嫌いならば、「何もしない」のが正しい行為である事を、クイーンは知っていた。だから何時までも自分と向き合ってくれ、距離のある病院までわざわざ自転車で自分の元に来て、おまけに花束まで買ってくれるアリスは、本当は自分の事を嫌っていない。クイーンはそのような結論に至り、至極自然にそれを事実として受け止めた。
花束の中に虫を何時も入れられているのは、きっと素直になれないから。クイーンを何時も虐めていたのは、アリスが連れている友人(クイーンには彼等は友人とは思えないが――)がクイーンを嫌っているから、仕方なしにやっているだけなのだろう。
だから全然気にならない。どれだけ罵声を浴びせられようが、革靴で思い切り蹴られようが、あの射るような炯眼が自分だけを見てくれるのが、堪らなく嬉しかった。あの時だけはクイーンは誰でもないクイーンとして認知される。学校でも家でも居場所がなかった自分の、唯一の心地の良い居場所だった。
僕だけのアリス、美しいアリス。君は僕だけの物だ。
クイーンは自転車で帰って行く彼等の姿を窓から眺めながら、心酔しきった顔で居た。

少しすると看護師がやって来て、クイーンの手から花束を受け取って、虫が一匹も居ないそれを花瓶に挿しながら、

「アリス君、貴方に宜しくって。お話出来なくて残念だったわね、だって貴方達仲良しだものね」

クイーンは看護師に目を遣って、嬉しそうにしている看護師と目を合わせると、彼もまた嬉しそうに笑った。

「うん。僕等大親友なんだ。…僕等、お互いが大好きなの」



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久々に児童文学読もう〜と思ってイギリスのスーザン・ヒルの「ぼくはお城の王様だ」を読んだらひたすら凄惨でした…ガンガン抉ってくる…容赦無い
この設定は前リアタイで「君奏の最終回は、苛めで植物状態になったクイーンが見てる夢(アリスは苛めっ子だけどクイーンはアリスが好き)にしたい」的な事をほざいたものを少し変えたもの。裏表ない下衆いアリスを書くのは楽しい…こういうエリートの皮を被った苛めっ子は犯されれば良いと思うよ…相手は苛められっ子でもおっさんでも苛め仲間でも何でも良いです、立場逆転って良いよね〜!
「気持ち悪いんだよホモ野郎」ってホモを軽蔑しているノンケに色々惨めな性的な苛めをして「写真沢山撮っちゃった〜。これでお前がホモ野郎だね?」とか云ってそれから毎日肉便器にする小説下さい
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