※本編未登場のキャラが出て来ます。










「エアスラ。なあにそれ」

 土曜日の昼の事だ。グリフォンの部屋へ遊びに来ていたアースラは爪をやすりで磨く手を止めて、グリフォンの方を見た。私立女子高の夏服の制服を着たアースラはグリフォンの部屋に入るなり、白猫のマスコットやハートのキーホルダーのついた学生鞄をベッドへと放り投げ、そうしてゲームをしている部屋主の前で堂々と我が物顔で己の作業をし始めた訳であるのだが。
 彼女が来る事に馴れたグリフォンは何時もはもう何も反応しないのだけれども、この日ばかりはぴくりと顔を上げてアースラに興味津々だ。アースラは何事かと思ったが、グリフォンの目はネイルが塗られた彼女の爪を捉えている。もしかしてこれだろうか、とアースラは自分の爪を眺めた。

「台湾の民族的なもの?」
「おめーは本当何も知らねーあるな。これはネイルって云うある」
「ネイル?」
「マニキュアってやつを塗るあるよ」

 暖色系のピンクに爪先の白、と綺麗に塗られた爪でアースラはポーチからマニキュアを取り出した。ハートの形の容器のそれは有名一流ブランドのもので、アースラが自分がモデルをしている雑誌で紹介もしたものだ。グリフォンはすると大好物の南瓜プリンを前にしたような輝く顔でそれを見て、コントローラーを放るとアースラの顔に至近距離まで詰め寄った。少し動けばキス出来そうなその距離にアースラはぎょっとして、思わず後ろに身体を引く。

「ボクもネイルしたい!」
「………は? おめーがあるか」
「したい!」

 何時もアースラの話題に興味を示す事もなく、ファッションに関心の見られなかったグリフォンがネイルに食いつくとは予想外だった。アースラは展開に中々ついていけなかったけど、事態を飲み込むと途端に相好を崩す。漸く唯一の友人(と思いたい)と趣味を共有する事が出来そうで嬉しかったのだ。
 けれどもどうも小鳥遊以外には感情を露に出来ない彼女は、少しつっけんどんにそっぽを向くと、

「……ま、まあおめーが云うならネイルしてやっても良いあるよ」
「アースラしてくれる?!」
「特別あるよ、……って鬱陶しいから抱き着くなある!」

 グリフォンは余程嬉しいのかアースラの身体へ勢いよく抱き着いた。アースラは声では厭がってみせたものの、何だかんだ嬉しくて顔が赤くなってしまう。然しその感情を出すのは何だか大変癪に思えた訳なので、アースラはまた意地を張ってグリフォンの頭に拳骨を喰らわせた。






「ラヴィラヴィ、見て!」

 その日の夕方の事だ。ラビはグリフォンに得意な顔で爪を見せられて一体何かと思ったが、何と彼女の爪はサーモンピンクに塗られてて、その上には白色の小さなお花が乗っている。色気とは真反対の彼女がマニキュアをするなんて初めてで、また何かのテレビかゲームの影響でも受けたのだろうかとラビが考えていると、グリフォンは可愛い白色のワンピース姿でくるくると回りながら、

「ネイル似合う? 似合う?」
「どうしたんだ。色気づいて」
「エアスラ!」

 出された名前に誰だろうとラビは思案するが、直ぐにグリフォンの新しく出来た友人だと至る。確か台湾の雑誌モデルで女子高生と、グリフォンとは真反対に女の子している子だったと思うと全てに合点が行った。まあ良い刺激かなとラビがベッドに腰掛けたまま心の中で頷くと、グリフォンはラビの身体に抱き着いて、

「ラヴィもネイルする?」
「まさか。本官は遠慮しておく」
「でもエアリスもした」
「………。彼が?」
「最初は厭がってたけど、エアスラが結局した。ボクと同じサーモンピンク!」

 ラビはネイルを無理矢理されている時のアリスの苦渋な顔を想像し、何となく面白くなってベッドから立ち上がる。するとグリフォンは眉を吊り上げて、ラビの背中を大きく1度乱暴に叩き、

「ラヴィ何処行くの!」
「アリスを揶揄しに」
「今はラヴィボクと話してる!」
「………」

 不機嫌にそう云われては仕方なく、ラビは残念に思いながら再びベッドに腰を下ろす。グリフォンはすっかり機嫌を損ねたのか頬を膨らませるとゲームのコントローラーを掴み、テレビをビデオ画面に切り替えて、ハードの電源ボタンを押した。その一連の動作をラビは黙って眺めたが、映る画面でそのゲームがグリフォンが最近ハマっているアクションRPGだと分ると、

「良いのかい」
「何が?」
「ボタンを連打したら爪が痛む」
「!」

 鋭い指摘にグリフォンは急いで自分のネイルへ視線を落とす。確かに激しく連打したら爪先のネイルが剥げてしまうだろう、グリフォンはどうして良いのか分らず縋るような泣きたい顔でラビを見る。そんなグリフォンを見て、まだまだレディーには遠いかと感じたが、嗜虐的な嗜好が少し顔を覗かせてラビは口角を意地悪く上げた。

「丁度良いじゃないか、ゲームを卒業すれば良い話だ」
「……!」
「代わりに映画でも観れば良い、ラブロマンスだとかを」
「ボク、映画はアクションが…」
「おや。でも、もうネイルをする立派なレディーなんだろう?」

 ラビに自分のネイルを指差され、グリフォンは低く呻く。まさかネイルでゲームが出来なくなるとは考えもしなかったグリフォンは(実に下らない理由ではあるのだけれど)頭を抱えたが、一方で艱苦するグリフォンを見るラビは非常に愉快そうだった。グリフォンはそんな意地悪なラビの顔には気付かずに、うんうんと唸りながらネイルとゲームを何度も見比べて。
 散々懊悩してから、取捨選択をした。








「……ありゃ。ネイル取っちゃったあるか」

 翌日。アースラはグリフォンの綺麗な爪を見てそう尋ねたが、ゲームに没頭するグリフォンの姿を見て何処か厭な予感がした。何とかゲームから自分へ意識を向けて問えば正しく『ゲームが出来ないからネイルを取った』と返されて、そのナンセンスな理由にアースラは心底から呆れると大仰に首を横に振り、

「ほんっとおめーは色気がないあるなあ! 男のアリスの方が色気があるあるよ!」
「ボク気付いた」
「はあ?」
「ボク色気づく理由ない」
「……おめーラビが好きなのにそんな事云ってて良いあるか」

 普通恋する乙女はお洒落するものあるよ。そう云われたグリフォンは然し困った顔をする事もなく、どころか満面の笑みで返す。そうして次の言葉を聞いたアースラは呆れて「それはおめーの只の願望ある」と云ったけど、グリフォンは再びゲームの世界に没頭してしまい、アースラの言葉は聞いてなかったようだった。突っ込む気力も湧かなかったアースラは最早何を煩く云う事もなく、黙って鞄の中に入ったラッピング済みの小さなピンクの袋を見下ろした。それには新色のネイルが入っていたのだけれども、アースラは奥へと突っ込むとベッドに腰をかけ、何もないように期末テストに向けての単語帳を取り出すのである。
 因みにグリフォンの言葉とは、以下に記す通り。

「だってもう、ラヴィボクのフィアンセだから問題はない」






ーーー

マニキュア久々に買いに行きたくなったので取り敢えず文章に。笑
アースラは小鳥遊に恋する台湾の雑誌モデル兼女子高生。女の子!な子が居ないので作ってみました本編で出せたらなあ。グリフォンと親友すれば微笑ましいと個人的に思って。




おまけ

「アリス。マニキュアを塗ったんだって?」
「……何でお前が知ってるんだよ」
「グリフォンから聞いた。何だ、もう落としてる。残念」
「何を期待しているんだお前は」
「因みにどんなものだった?」
「………。…ラメ入りのサーモンピンク、で、ピンクや白のふわふわした小さなリボン乗せられた」
「……最高過ぎるだろう」
「お前は本当腹が立つ表情を作るのが上手いな?」
「それは是が非でも見たかった」
「安心しろよ」
「?」
「アースラが今度はお前に兎とハート柄のベビーピンクのマニキュア塗るあるって張り切ってたから」
「………少しドレスデンにでも逃げて来ようかな」
「逃がさねえよ莫迦」


小鳥遊もターゲットにされそう。カラフルにデフォルメされた象さんやライオンさんや麒麟さんや鰐さんをデコってみるのは如何だろう



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