誰得だよと云った感じの小鳥遊兄弟。



「リデルリデル、今日はにゃんにゃんの日らしいぞ!」
「………はあ?」
「二月二十二、で猫の日だ」
「……。……下らねえ…」
「おい何だその心底呆れたような顔は。可愛いだろ」
「はあ」
「そんな訳で。我が家のダイナを愛でる日だな!」
「…勝手にどうぞ」
「お前は相変わらず陰気だなあ」
「………」


「ダイナダイナ。ほれほれダイナ」
――みゃあみゃあ
「……」
「おおダイナ何だ何だ、うん、リデルが生意気? そうだなあ」
「……」
――みゃあみゃあ
「うむ、解る解る。未だ彼女も出来ない奴だ、可哀相に」
「っダイナと話すなら俺の部屋から出てって下さい!」
「何だと。真昼間から一人で猫と話すのは寂しいじゃないか」
「知るか」
「お前もダイナを構ってやれよ」
「俺は忙しいんです」
「まるで俺が暇人のようだな!」
「休暇中なんだから実質暇人だろ…」


「暇だな。なあリデル、じゃんけんで負けた方が語尾ににゃんを付ける遊びをするか」
「何でだ」
「猫の日だからな」
「……厭です」
「何だ、逃げるのか?」
「…兄さんはじゃんけんで必ずずるをするので…厭です」
「失礼な」
「何が何でも勝とうとする兄さんが駄目なんですよ」
「じゃあ将棋で」
「…どうせ俺が勝つ」
「むっ」
「運が左右する遊びなら兎角、頭を使う遊びでは俺が上です」
「云ったな? 云ったな? じゃあするぞ」
「…厭ですよ」
「どうしてだ」
「時間の無駄ですし兄さんのにゃんなんて聞きたくない」
「俺だってお前のにゃんは聞きたくない」
「じゃあさせるな」
「よし将棋を出すか」
「兄さんは日本語すら使えないんですか」



そして。

「…ふむ…俺が負けるとはにゃん…」
「………」
「まあ仕方ないにゃん、今日一日このままでいてやろうだにゃん」
「………至極……うざい……」
「何だとにゃん!」
「や、やめろ! 公害だ!」
「公害とは失礼なにゃん!」
「口を開くな! …ちっとも嬉しくないどころか苦悩だなんて……!」
「お前、男のにゃんで苦悩じゃないとか有り得ないだろにゃん」
「今すぐ黙れ消えろ去れ」
「全く相変わらず口が悪いにゃん。誰に似たんだかにゃん」
「ああああああ……!」
「おいこら耳を塞ぐなにゃん」
「ぎゃー! 触れるな塞がせろ! 寧ろ本気であっち行け!」
「おいおい性格障害か神経症か何かかにゃん」
「っ誰の所為だと…!」


「まあ何だ、自分がこうしてもつまらんなにゃん。早くも飽きそうだにゃん」
「でしょうね……」
「矢張りこの猫の鳴き声は猫特権なのだろうかにゃん」
「……。まあ、アリスさんがにゃんを付けて下されば最高なんですがね…」
「また出たな『アリスさん』。俺はお前の将来が不安だにゃん」
「今ちょっとアリスさんの姿を想像して眼前の気持ち悪い存在を頭の中で消去しているので黙ってて頂けませんか」
「おいおい、本気で真顔になって妄想するなよだにゃん」


「……飽きた」
「でしょうね…」
「猫の日ってもっとこう、何かないのか? 例えばダイナが人間になるだとか、例えば誰かが猫になるだとか」
「何を期待しているんだか」
「これでは普通の日と変わらん!」
「…変わらないに決まってるだろ…」
「はあ、期待したリデルが莫迦だった」
「待て、どうして俺になる」
「仕方ないから猫の日らしく吟醸酒の金の招き猫でも呑むか」
「結局呑むのか。呑みたいだけだろ」


◎『金の招き猫、銀の招き猫』…金箔、銀箔入りの吟醸酒。ラベルに招き猫のイラストがあって可愛い。


「おいテニエルー酒ー」
「…俺、アリスさんのところに行ってきます」
「む。何しに」
「癒されに」
「ならば俺も行こう」
「本気で来るな! 呑んでおけ!」




こんこん。

「……はい、…って小鳥遊?」
「…アリスさん…どうも…」
「あ、どうも…って違う。…その顔の傷はどうしたんだ」
「次男と喧嘩を」
「……は、はあ」
「まあ何時もの事なので」
「何でまた…」
「俺がアリスさんの家に行くと云ったら俺も行くと煩くて」
「…一緒に来ても良かったのに」
「俺が厭なんです…」


「…。で、まあ上がるか?」
「お邪魔します。ああ、アリスさん」
「?」
「今日は猫の日だそうですよ」
「………何で?」
「あ、ええと、二月二十二…でにゃんにゃん…だとか」
「…。ああ、成る程。…お前の口からまさかそんな事が聞けるなんて」
「おっ、俺ではなく次男が」
「へえ。良い兄じゃないか。面白くて」
「そうでしょうか…」


「で、猫の日って何をするんだ?」
「…。さあ…。…兄は、じゃんけんで負けた方が語尾ににゃんを付ける遊びを要求してきました」
「何だそれ」
「兄がよく解りません」
「…で、小鳥遊が負けたのか?」
「いえ、勝ちました」
「じゃんけん強いのか」
「じゃんけんではなく将棋で競ったんですよ」
「ああ。お前は中々強いからな、俺には負けるけど」
「うっ」
「…なら小鳥遊、俺とお前でもやろうか」
「…。へっ?」
「じゃんけんで負けた方が語尾ににゃん」
「………し、して下さるのですか?」
「は? …負けたらな」
「や、やります! 是が非でも!」
「?! お前食いつき過ぎだろう!」
「あ、アリスさん」
「?」
「俺が勝ったら一回勝負、俺が負けたら三回勝負と云う事で」
「お前は何だ、ふざけているのか?」



そしてそして。

「……なあ小鳥遊」
「……」
「…お前はじゃんけんは弱いのか?」
「……そう云う訳では絶対ないのですが…」
「あ、こら。語尾」
「………っ…」
「まあ何だ、こう云う言い方もあれだがお前は俺には何一つ勝てないんだな」
「…し、身長は俺の方が」
「斬るぞ。そして語尾」
「…厭です」
「はあっ? お前な、負けたんだから潔く罰を受けろ!」
「そんな屈辱行為耐えられません!」
「おまっ…! 俺にはそんな屈辱行為をさせようとしていたのにか! 結局三回勝負を二回もしてやったんだぞ!」
「貴方が負けないのがいけない!」
「どんな責任転嫁だ!」


「あ…アリスさんだって俺のにゃんは厭でしょう」
「……まあ…面白そうだから聞きたくはある」
「ほら、揶揄する気満々だ!」
「それはこの遊び自体がおふざけだからそうだろう…! お前だって俺がにゃんとか云えば揶揄するだろ」
「……固まりますね…」
「揶揄されるより傷付くなそれは」
「あ、語弊が生じました」
「あー。もう言い訳は良い。お前は結局語尾に付けないし。」
「……」
「全く。興も削がれる」
「……アリスさーん…」
「何だよ犬」
「そ、その呼び方で来ますか…!」
「お前はにゃんよりわんだったなと思って」
「………」
「わんって云えばにゃんは許してやる」
「………」
「ほら、わん」
「………」
「こら犬」
「………」
「お前なんて知らんぞ」
「……、…わん」
「よし。よく出来ました」
「…何ですかこの流れは」
「俺も解らん」


「じゃあ何だ、一月十一日はわんわんの日か?」
「…それはどうでしょうね…」
「あーあ。俺の家は猫が居ないからな」
「飼わないのですか?」
「小さい頃にな、秘密で拾ったんだが師匠が嚔とかして大変だったんだ。ああ、これ秘密だぞ」
「…意外ですね」
「まあ、体質的なものだから仕方なくはあるんだが」
「…ならアリスさん、今からダイナを撫でに来ますか」
「!」
「折角ですし」
「…行、行っ」
「あ、矢張り駄目だ」
「なっ!」
「すみません、次男が居るので」
「お、お前な…。次男が居ると家は駄目なのか……」
「今多分呑んでるんですよ」
「…。酒を?」
「酒を」
「…今…昼間だぞ…」
「まあそんな人間です」
「……」
「酒癖悪いので。すみません、また後日」
「…ああ…」



「……俺はつくづく兄運がないな…」
「? 何か仰しゃいました?」
「…別に…」





結局何もなかったにゃんにゃんの日である。前のマンションでもそうだったのですが今のマンションでも外から毎晩猫の鳴き声が聞こえて来るのですが、赤ん坊の声に聞こえてたまに怖くなるのは私だけではない筈。


第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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