わんことこうさぎ
61〜65話
わんこと子うさぎ##H1##61話##H1##
「どぉしてぇ?」

「……え?」

「どおして……たべるまえに…そんなやさしいこと、するのぉ…?」

涙を滲ませ見上げてくる瞳は必死で……、俺は胸がつまされた。

こんなに小さいながらも、本気で俺に食われるつもりなのだ。

「雨竜……」

「だって、だって、ぼく……せっかく、たべられてもいいやって、おもってたのに…、やさしくされちゃったら…、もっとずぅっと……いちごといっしょに、いたいって…おもっちゃう…もん……」

しゃくり上げながら、雨竜はポロポロと涙を零し続けた。

「ひっ…く…、ひっく…」

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後から後から零れ落ちる涙を、また舌先で掬ってやりながら、もう雨竜を傷つけないように、できる限り優しい声と仕草で雨竜を宥めようとした。

「もう、食べたりしないから……泣かないでくれよ、なあ…」

「……ひくっ……ひっ…ぅぅ…」

それでも雨竜はしゃくり上げるばかりで……。

俺の言葉など、まるで届いていないかのようだった。

「……雨竜……」

声を上げて泣き続ける雨竜の華奢な身体が更に小さく見えて…、ここまで追い詰めてしまった自分自身が無性に情けなくて、そんな自分に腹が立った。

渦巻く後悔と遣る瀬なさと、それに……。

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自分の中に、そう言った激しい感情全てを凌ぐ程の『想い』が一番強く湧き起こった。

雨竜が……愛しい。

雨竜が欲しい、雨竜を独占したい…!!

今まで出会った誰よりも…、ご主人やご主人の恋人よりも、もっともっと大切な存在。

真っ白で純粋な……俺の子うさぎ。

―――やっと分かった。

初めて出会った時に感じた、あの熱い胸の高まりは『好き』という気持ちだったのだ。

まるで一目惚れのように、自分は恋に落ちたのだ。

突然目の前に現れた、この小さなふわふわの綿毛に……。

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気付いてしまえば、それは出会いの時から、胸の中に芽生えていた感情だった。

雨竜がこんなにも愛しい―――。

好きだ。

「うっ…、ひっ…く…っ…」

「雨竜……雨竜……」

俺は泣き続ける小さな身体をすっぽりと抱き込んで、安心させるようにゆっくりと、ふわふわした白い毛を舐め始めた。

今度は怯えさせないように、戯れ合いのように軽く触れながら、雨竜の耳元に唇を押しつけて、泣かないで…と幾度も囁き掛ける。

その声は、自分でもビックリするぐらい優しい響きを含んでいた。

「もう泣かなくていいから……」

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柔らかな触れ合いに、だんだんと落ち着いてきたのか、雨竜は伏せていた耳をピクピクと動かしながら顔を上げた。

涙をたっぷり含んだ瞳が揺れて、おずおずとした様子で瞼をしばたたかせる。

黒いガラス玉に朝露が染みたように煌めく瞳はとてもキレイで…、状況も忘れて魅入ってしまいそうだった。

「………いちごぉ?」

「やっと、泣きやんでくれたな……。よかった」

まだ不安の影が残るその瞳に、俺は精一杯優しく微笑みかけた。

今はどんなに言葉を繋げても、傷ついた雨竜の心まで届かないかもしれない……。

しかしそんな言葉よりも、ずっと雨竜を安心させる方法があるのを、俺は知っている。




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