地下救護牢シリーズB絆
46〜50話
絆##H1##46話##H1##
近づいてくる足音に、雨竜は堂々巡りな考えを無理やり胸の奥に封じ込めた。
「目ぇ覚めたんだな…よかった」
「黒崎……」
直ぐ側に跪いた一護から、気遣いを含んだ優しい眼差しを向けられる。
隠しきれない何かが映っているような気がして、雨竜はあまり不自然にならない程度に瞳を逸らし、表情を隠した。
「僕は……気を失ってしまったのか…」
「あぁ、眠るみたいに、な。ずっと疲れがたまってたんだろ、お前」
「……そう…だな」
「どうだ、具合は?少しはマシになったか?」
絆##H1##47話##H1##
優しい声が耳に痛い。
本気で心配されているのが分かるのに、真っ直ぐに瞳を向けることができない自分が嫌だった。
近すぎる距離に、雨竜は少しだけ居心地悪そうに身じろぎした。
「少し休めたから…すいぶん、楽になったよ」
「俺の腕ン中は、そんなに寝心地がよかった?」
「なっ!?」
一護の言い草に、雨竜は条件反射のように眉をしかめ、心外だと言わんばかりに顔を上げた。
「何を言って……―――」
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だが、その声色とは裏腹に、自分を見る一護の目が怖いくらいに真剣なことに、雨竜は気付いた。
思わず言葉を呑み込む。
強く鋭い眼差しが雨竜を捕らえて、吸い寄せられるように目が離せなくなる。
今、何かを問われたとしても、自分には、まだ語るべき答えが用意できていない…。
それでも―――視線を逸らすことなどできなかった。
「石田……」
一護の大きな掌がそろりと頬に触れて、雨竜は知らず身体を緊張させた。
絆##H1##49話##H1##
「苦しかったら、俺に寄りかかってもいいんだぜ?」
そんな迷いの中にいる雨竜の戸惑いをよそに、一護の言葉は雨竜を追い詰めるようなものではなかった。
「この腕もこの胸も、お前のためにあるんだから」
「…ぁ…………」
不意打ちのような一護の言葉に、雨竜は瞳を揺らして、それから震える息を吐き出した。
ごく自然に、当たり前のように与えられる優しさ。
おそらく彼は、自分の気持ちが落ち着くように、言ってくれたに違いない。
それは分かる。分かるけれども―――雨竜は動けなかった。
絆##H1##50話##H1##
ただ凍りついたように、馬鹿みたいに、押し黙るだけだった。
一護の優しさが嬉しくない訳じゃない。彼を拒みたい訳でもない。
それでも、相手の想いと自分の感情とで板挟みになって、うまく気持ちを伝えることは、今の雨竜には難しかった。
「………僕は………」
何かを言いかけて、雨竜は思い直したように言葉を呑み込む。
その瞳は苦しげに揺らいでいた。
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