小説 | ナノ
頑張れケイド


 ――彼らの選択

 すさまじい地響きと共に、彼らが戻ってきた。
「何戻ってきてんだよ。自由だって言われたじゃねえか」
 あきれたような口調とは裏腹に、満面の笑みを浮かべたクロスヘアーズが棘だらけの巨体に視線を投げかける。嬉しげに空へと手を伸ばすバンブルビーや、労わるように角を叩くドリフトなど、場は一気に騒々しくなった。
 恐怖に立ちすくむ矮小な人間たちを睥睨するかのように、オプティマスを乗せて駆けたティラノサウルスが赤い目を輝かせる。
 巨大な戦士たちの、明らかにリーダー格であろう彼は人間の言葉など耳も貸さない、と根拠もなくケイドは思った。
「……ハウンド」
「俺に振るな、ケイド」
「おまえしかいないって」
「あそこの仲良したちに振れよ」
「あいつらじゃ駄目だ。みろよあの浮かれっぷり」
 ハウンドは全てを言わずとも、ケイドの意図を察したらしい。能天気な緑と青と黄色、おびえて後ずさりを続ける人間たち、そして相変わらず場を睥睨する金属のティラノサウルスを見やり、ゆっくりと首を振る。
「伝説の騎士、グリムロック」
 一歩進み出たハウンドが重々しい声でティラノサウルスに呼びかけた。ケイドは彼らの古風な甲冑姿を思い出し、騎士という呼びかけに納得する。確かに、あのいでたちは騎士だ。能天気に騒いでいた三人と三体、おびえていた人間たちは口を閉ざし、ハウンドとグリムロックと呼ばれた騎士を注視する。
「オートボットへの助力に深く感謝する。オプティマスプライムとの契約は、助力と引き換えの自由だ。契約は果たされたというのに、何故戻った」
 低い唸りが空気を震わせ、おとなしくしていた三体の目に剣呑な輝きが宿った。しばしの沈黙ののち、グリムロックは鋭い牙を見せつけるかのように口を開く。
「……オプティマスプライムは、共にあるかぎりカゾクだと言った」
「喋った……!」
 肝心なところでチキンっぷりを発揮するシェーンが小さく呟いてケイドの後ろに隠れようとする。その頭をはたいたケイドは小声でシェーンを脅した。
「黙ってろ。次に喋ったらあのトゲに投げ込むからな」
「ちょっと、パパ……」
「テッサも黙ってろ!」
 無言で後ろに逃げ込んだジョシュアには、後で蹴りでもいれてやろうと思いつつ、ケイドはハウンドとグリムロックを見守る。
「……ほう」
 ハウンドが遠い目をして髭を撫でた。しかし、次の言葉でハウンドの表情が一変する。
「カゾクの顔は、剥がないだろうと、我らは結論付けた」
「あ?」
「顔を剥がれるのは、イヤだ」
 意味不明の理由にケイドも、他の人間も困惑してざわつく。確かに、顔を剥がれるなんて嫌だ。誰だって嫌なはずだ。しかし、こんな巨大な金属製の恐竜の顔を誰が剥ぐというのか。
 見上げると、神妙に頷く三体が目に入る。一方、ハウンドはものすごく嫌そうな顔をしていた。
「……顔を剥ぐなんてことを吹き込んだのは、誰だ」
 恫喝にも思える響きに、真っ先に手を挙げたのは緑だった。
「剥ぐだろ。司令官サマなら」
 続いて青が挙手する。
「センセイの話を乞われたので……」
 最後に、黄色が勢いよく手を挙げたところでハウンドは天を仰ぐ。どうやら、オプティマスが顔を剥ぐらしい。戦闘時にはいささか口が悪くなるかもしれないが、普段の姿からは想像もつかない所業だ。ただ、ハウンドも戦っている最中に顔の皮を剥いでやる的なことを口走っていた。もしかしたら本当に剥ぐのかもしれない。
「おまえもか、ビー!」
 ハウンドが人間なら、盛大にため息をついて頭を抱えるところだろうが、ハウンドは人間ではない。ため息のかわりにヘルメットに手をやり、沈黙した。
「成程。しかし、我らに同行するのなら、人間の家族を守らねばならない。それはどう考える」
 悪い予感に襲われてケイドは表情を凍らせる。四人のオートボットだけでも荷が重い、と思っているところに、馬鹿でかい恐竜までやってこられては、ものすごく困る。第一、話が通じない。
 恐竜たちはケイドとテッサ、ケイドの背後でもみ合っているシェーンとジョシュアを見やり、視線を交わした。
「……オプティマスプライムが命じたのであれば、従う」
 厄介な方向に話が転がり始めたことを察してケイドはハウンドを見上げる。ああ、こいつ何かたくらんでやがる、と第六感が囁いたところでハウンドが人の悪い笑みを浮かべた。
「我らの命は、ケイド・イエーガーとその家族を守ることだ。そこにいるのが、ケイド・イエーガー。オプティマスを救い、共に戦った友人だ。彼も、顔を剥ぐ」
「剥がねえよ!」
「顔を剥がれたくなければ、彼の言葉は尊重したほうがいい」
「だから剥がねえって言ってるだろ! 何納得してんだアンタ、騎士だろ? こんな人間ごときに顔剥されてどうすんだよ! おい緑! 妙な事吹き込んでんじゃねえ!」
「まあ、そういうわけだケイド。俺たちとダイナボットをよろしく頼む」
「まあ、じゃねえよ! 何言ってんだハウンド!」
 話は終わったとばかりに満足げな笑みを浮かべるハウンドに、グリムロックがばしばしと尻尾を振る。舗装の破片が飛び散り、周囲から悲鳴が上がった。
 すでに軌跡も消えた空に向かい、ケイドは全身全霊で絶叫する。
「――オプティマス! 戻れよ! 俺がこいつらの下敷きになる前に、絶対! 戻ってこい!」

 end


[*prev] | [next]

- 7/7 -



[ back to top ]


「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -