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滅びの子ら


「ついて征くんじゃなかったのか」
「いくらなんでも大気圏突入は無理だ。溶ける」
 星が瞬く。無数の輝きの中に、今はない母星の輝きもあるのかもしれない。そんなことをドリフトは思った。
 背後の気配がふっと笑う。
「ごもっとも」
「今私にできることは、ケイド・イエーガーとその家族を守り、待つことだ」
「……人間を守るか」
 吐き捨てるかのような言葉に含まれた棘を、ドリフトは感じた。
「彼らはセンセイを助けた。少なくとも私は、彼らに恩がある」
「そんなもんは今までの行いでチャラどころかマイナスになると思うが、おまえの中では違うのか」
「行為に対する憎しみを種族全体に向ければ、おまえが嫌う人間と同じだ。それでいいのか」
 一度はこの星を離れると決めた彼を留めたのは、それまでに出会った人間たち――種族の垣根を越えて親愛の情を抱き、信頼を返してくれた者達の存在、だろう。ケイド・イエーガーのような人々が、今もどこかで生きている。喪った同胞を悼んでくれた人々が。
「あいつらが返したものを考えろ」
「憎しみは何もかもを塗りつぶす。目を曇らせてはならない」
 鈍い衝撃が背を通して伝わった。やり場のない感情を地に叩きつける、その思いはわからないでもない。本当なら人間に銃口を向け、トリガーを引きたいはずだ。
「戦って死ぬのはいい。守って死ぬのもいいだろう。だがな、一方的に狩られて殺されるのはゴメンだ」
「……そうだな」
「おまえは違うのか」
 人間は護り手であったはずの存在を狩り、驕った挙句に滅びの種を生んだ。人間と名乗る種族はいつか、自ら滅びの道を歩むだろう。彼がどんなに守ろうとしても。
「センセイの命に従った結果なら、どんな死に方でも同じだ」
「まるで狂信者だな」
 投げやりな言葉の後には沈黙が続き、ただ、背に重みがかかった。普段、嫌味なほどにまくし立てる憎まれ口がなりをひそめるのは、感情が高ぶっている証拠だ。怒りであろうと憎しみであろうと、悲しみであろうと、高山で沸騰する湯のように冷ややかに激する。
「嘆くな、クロスヘアーズ」
 信じるものを持たないクロスヘアーズには心の拠り所がない。いつか、自らの感情に押しつぶされてしまう。内側から静かに壊れていく。
「私たちを信じる者が、少なくとも三名はいる。悼み、共に戦った彼らのことだけは信じろ。憎しみで目を曇らせるな」
 長い長い沈黙の後、背にかかる重みが増した。表情は見えないが、静かに星を見つめている。そんな気がした。
 背にかかる重みを受けながら、夜空を眺めていたドリフトは声を聞く。
「――おまえが言うのなら」
 低い声がさらに低く、呟きを落とした。

 end


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