小説 | ナノ
売られた喧嘩は買う


 ――何かすごいのを司令官が引っ張り出してきたときの話。

 アレは無理だ。というのがクロスヘアーズとドリフトの共通認識だった。でかいし、装甲は妙に古めかしいし、何より話が通じそうにない。どうやって話をつけるのかと見守っていると、司令官がリーダー格と思われる奴に喧嘩を売った。
「マジか」
「……至極、真面目なようだな」
 司令官の強さには定評がある。それが正義の味方としてあるべき行動なのかは置いておくとして、強さはオートボット随一だ。ただ、クロスヘアーズとドリフトは司令官ほど強くない、というか司令官が強すぎる。だから、残りのでかいやつ三体が喧嘩を売ってきたら多分死ぬ。ヘリに姿を変えるドリフトは逃げきれるかもしれないが、山中をスポーツカーで逃げねばならないクロスヘアーズはきっと死ぬ。三体の動きを警戒しつつ、司令官の喧嘩を見守っていた二人はとんでもない光景を目の当たりにした。
「でかい車に変わると思っていたんだが……」
「残りの奴らもアレになんのか?」
 嫌な予感に苛まれつつ、クロスヘアーズは自分たちと同じく喧嘩の行く末を見守っているらしい三体に視線を移して絶句した。
「おお、ぶん殴った」
 一方、司令官と恐竜の喧嘩を見ているドリフトは感嘆の声を上げている。
「おい、おいドリフト!」
「……何だ、いいところなのに」
 拍手しかねない勢いで喧嘩を見守っているドリフトの背中を蹴ったクロスヘアーズは声を潜めた。
「ガンつけられてんぞ、俺ら」
「あれにか」
「ああ」
 三体のうちの一体がこちらを睨んでいる。あれは親愛の情とかではなく、間違いなく喧嘩を売っている目つきだ。冗談じゃねえと滝をさらに登るクロスへアーズに、ドリフトが首を傾げた。
「私にはそう思えないが」
「はぁ? おまえの目は節穴か?」
「会釈された」
「何だと……」
 斜め上の報告が信じられず、改めて三体を見たクロスヘアーズは先ほどと同じく、敵意あふれる視線を目の当たりにする。挨拶とか会釈とか、友好的な態度ではないのは確かだ。何を判断基準にして態度を変えているのかわからないが、気分は良くない。次第にムカついてきたクロスヘアーズは、売られた喧嘩は買うとばかりに睨み返した。体格差とかそういうのは置いておいて、態度が気にくわない。
 ドリフトは暢気に喧嘩を見守っている。そのうち、恐竜を張り飛ばし、剣を突きつける物騒な説得に成功した司令官の呼びかけにより、残りの三体は想像通り恐竜に変化した。しかも乗れという。相変わらず司令官の「いい考え」は斜め上だ。間違えてもガンつけてきたやつには乗りたくないと思いつつ移動すると、ドリフトの行く手を遮るように恐竜が頭をつっこんできた。
「……貴殿に乗れと?」
 ドリフトの問いかけに勢いよく首を振った恐竜がクロスヘアーズを一瞥する。先ほどのヤツはこいつか、と思ったが今はそれどころではない。ハウンドとバンブルビーが気がかりだし、何より今の司令官を怒らせたくない。舌打ちをしたクロスヘアーズは妙にとげとげしている恐竜の元へ向かった。

 END


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