今日もまた、うちのボスが暴れる音がする。
ガシャーン!とガラスの割れる音から、ドゴッ!と言う、重たいものが壁に当たる音まで。そして、時にはうめき声やら叫び声が…。
「もう!スクアーロ様! あなた、それでも作戦隊長なのですか!?」
「う"お"ぉいぃ…怪我人にはもっと優しくしろお!」
「これでも目一杯、優しくしてます!」
「いだだだだ!」
今回もこの哀れな傷だらけの人、もとい鮫は、我らがヴァリアーのNo.2であり、作戦隊長である。余談だが、うめき声の主は主にレヴィ様で、叫び声の主はこの人…じゃなかった、この鮫である。
「……お前、失礼なこと考えてなかったかぁ?」
「…いいえ、別に。」
「……それなら、いいんだぁ。」
私はヴァリアーの救護室救護班の長を務めさせて貰っている。スクアーロ作戦隊長様とは、同窓で学生時代にお世話になった。それはもう、いろいろと…。
「なぁ、名前、」
「今は勤務中なので、名前で呼ばない!」
「…チッ……室長だったかぁ。」
「何でしょうか、スクアーロ様?」
スクアーロはふてくされたように、私を睨んだ。私と彼は、過去に一度だけ恋仲だったことがある。私からとも彼からとも、告白した覚えはなくいつの間にか、付き合う事になりキスやそれ以上のこともしたりもした。
まぁその関係はどちらともなく、自然に消滅したが…。私はそれのよしみで、今でも仲良くさせてもらっている。
「あ。ほらやっぱり…」
「どうしたぁ。」
「ん…またボスにグラス投げ付けられたでしょ?」
「…う"…まぁなぁ……アイツは気が短けぇんだ。」
「ガラスの破片がまだ残ってるから、取るわね。」
「あぁ。」
スクアーロの長い銀髪の間に、キラッと光る細かい破片。まだこんなにも残っているのに、地肌に刺さらなかったことが私には不思議で仕方ない。
もう少し自分の体を大切にしてほしい。…って言ってもうちのボスがあれでは到底不可能だ。
「それで? 今日はまた何をやらかしたのかしら、作戦隊長様?」
「う"お"ぉい! いつも俺が悪いみたいに言うな!
俺は普通にあのクソボスの部屋に入っただけだぁ。」
「普通に入っただけなら、グラスなんか投げ付けられないでしょ!
どうせまた、ノックもしずに大声で入ったんでしょう?」
「う"……そうかもしれねぇ…」
「ほら、言わんこっちゃない…」
私ははぁ、と溜息を吐いて肩を落とす。実は、このスクアーロの髪の間に光るガラスの破片を取り除く作業は、今日がはじめてではない。
ボスにグラスを投げ付けられたら、いつも私のところへ来る。その度に、私はどうして投げ付けられたかを注意してやっているのに。なのにも関わらず、この鮫は…新しい傷と、キラキラ光るこのガラスの破片を頭にまぶして来る。なんて学習能力の無い鮫だろうか…。
「……名前、またお前失礼なこ「室長」―――室長。」
「なんでしょうか?」
「…俺だって、ちゃんと学んでるんだぞぉ……」
「それならば、なんで毎回ガラスの破片を頭に乗っけて来るんです?」
私が最後の破片を取り終わって、やっとスクアーロの顔を見た頃には、何故かスクアーロは顔を赤く染めていた。え、なになに…どうして?
「……そんなもん、」
「―――ぇ?」
私の脳はゆっくりと、スクアーロの言葉を理解していく。そして、どんどん顔の熱が高まっていくのを私はどこか他人行儀に感じていた。
『俺がお前に逢いに行く口実だぁ!』
明日からは、きっとここへは彼は来ない。理由は、――って、私に言わせないでよ?
(今度は私が彼に逢いに行くのだから)
end
20101031
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こんな鮫ほしい。
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