私が彼の部屋を訪ねてから三時間と三十分。
彼は未だにメカをいじりつづけているし…。
私は簡素なソファーに持たれ掛かっている。
「ねぇ………ねぇったら」
「……ん」
「まだ終わらないの?」
「…もうちょっと」
「もう…」
彼は手元の部品から目を離さずに私に返事をした。
ちょっとくらい、私の方を向いてくれてもいいのに。
私はいらいらしながら、冷めた紅茶を口に含んだ。
オイルまみれになりながら、作業を進めるスパナ。
彼と私は一応、付き合っていて恋人同士なのだが、今まで一度もデートと言うものをしたことがない。
一度はデートしてみたい、と彼氏と一緒に街を歩いてみたい、と思う私は恋する女の子だと思う。
お互いの腕を絡めて、色んなことを話しながら二人でウィンドーショッピング。
映画を見たり、ベンチでアイスを食べたり。
デートの帰り際はちょっと切なくなって…まだ帰りたくない、って我侭言えたら最高だな。
「ねぇ、まだ?」
「………」
「スパナ、聞こえてる?」
「…もうちょっと、待って」
「さっきと同じこと言ってるわよ」
「……ん」
「もう…」
ま、これも全ては私の妄想にすぎないのだけど。
彼と付き合ってきた三年間で、私達はまだ手を繋いだくらいだ。
キスとか、それ以上のことも…まだ。
もしかしたら、彼は私のことを遊びだと思ってるのかもしれない、と本気で悩んだ時期もあったけど…
『ウチは名前のこと、遊びじゃない』
『名前のことが大切だから』
彼は私の目を見て、そうはっきりと言ってくれたから。
私は彼のその言葉を信じて、今日もこの部屋で紅茶を飲みながら、彼を待っている。
大好きな彼に構ってもらえないのは寂しいけど私は私なりに、この時間を楽しんでいる。
メカをいじっている時の彼の顔は、悔しいけど一番輝いているような気がする。
だけど、私は彼の笑顔が一番すきだ。
彼の笑顔は、元気が無い時には私に元気をくれるし…。
仕事でミスをした時だって、私を自然と笑顔にした。
時計の秒針がくるくると規則正しく回る。
後十分くらいで待ち時間が四時間目に突入する。
紅茶を飲もうとカップに手を伸ばして止めた。
私の使っていたそのカップには、もう紅茶は入っていなかった。
「…スパナ」
「……ん」
「まだ終わらない?」
すると彼は、私の問いかけに答えず、スクッと立ち上がり、手にはめていた軍手を外した。
ゴーグルを近くのテーブルに置くと、私を見た。
目の前へ歩いてきた彼は私に、いつも彼が舐めているスパナ型のアメを差し出した。
「…ん」
「…アメ?」
「名前にあげる」
さも当たり前の様な顔をして、差し出している。
プッと今まで舐めていたアメの棒を吐き出してゴミ箱へと捨てた彼。
「待っててくれた御礼。名前にあげる」
そう言って、にこりと笑った彼。
その顔は私が彼と付き合う原因を作ったものだった。
嬉しさに、私は目の前の彼へと勢い良く抱き着いた。
「! 名前離れて、よごれる」
「そんなこと今はどうでもいいの、」
「…名前」
「…あのね、スパナ……私、」
「言わなくていい。
…ウチ分かってるし、名前のこと知ってる。」
「ぇ?」
スパナはそのまま、私の背中に腕を回して、さらにぎゅうっと抱きしめた。
私は腕の中、彼の体温と心音を感じていた。
「いつもウチは名前のこと、待たせてる。
だけど名前は…たまに、文句は言うけど、ずっと待っててくれる」
「…うん」
「ウチがメカいじってるとき、名前には構ってやれないから…
名前にはいつも寂しい思いさせてるって思ってる。…ごめん」
「…ううん」
「そんなウチだけど、これからも名前は待っててくれる?」
「…待つよ。 私、スパナのこと待っててあげる」
「…ありがとう、名前。 愛してる…」
その時、スパナの腕の抱きしめる力が、よりいっそう強くなった。
彼を信じて良かったなぁって思った。
この時、私の待ち時間は報われた。
end
20100924
20101204 加筆
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口調がわかんねぇー\(^q^)/
初めてのスパナさん夢、いかがでしたでしょうか?
思ったよりも長くなって、微妙に嬉しいです。
今回の主人公さんはちょっと妄想癖のある子でしたね←
スパナさんはメカをいじりだしたら、永遠といじってそうだなぁ…というイメージがあって勢いに任せて、書いてみたらこうなりました。
それでは、ありがとうございました。
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