昼間。ベルと名前は暇つぶしにチェスをしていた。そのゲームは両者一歩も引かない接戦を極めていた。スクアーロはと言うと、その様子を詰まらなそうに眺めて、若干ふてくされている。
それもそうか…大好きな名前をベルにとられ、自分は除け者扱いされているのだから。要するに、現在スクアーロは名前に全く構ってもらえないことに腹を立てている。
「う"お"ぉい!名前、まだ終わらねぇのか!?」
「あと少しだからっ!」
スクアーロは自分だけ仲間はずれなのがくやしくて、我慢ならなかったので叫ぶ。しかし、名前はと言うと、その叫びですら軽くあしらうだけであった。
「っしし、そんなとこでいいのか?名前。」
「ははん…ベルこそ。私に取られちゃうかもよ、そこ。」
お互い腹の探り合い、駒の奪い合いである。ベルが駒を動かして黒のマスの上に置くとコツッと音が部屋に響いた。
「う"お"ぉい!!まだかぁあ、名前!」
「あと少しっ!んー…よし。」
「うししっ、チェックメーーイト!」
「あぁーーー!」
コンッとベルが駒を置いた。その直後に決着はつき、名前は頭を抱えて真剣にくやしがっている。
「な、何でベル勝つのーー!?今のゲームは私の方がちょっと優位だったじゃんかぁ!」
「ししっ。だってオレ王子だもん。」
「答えになってなぁいっ!」
「はっ!…王子が負けるとか有り得ねーし。」
かなり腹が立つ。が、名前はこのゲームに負けた。負けは負けだ。名前はぶつくさと言いながらチェスを片付けはじめる。
「もう終わりかよ?」
「なによ、文句あるのかしら!…ベルが勝ったんだからいいじゃない別に!」
その時。
ベルが名前の腕を引っ張ってソファーから立たせる。そして、その勢いのままベルは名前にキスをした。(あ、もちろん頬にですよ)名前はいきなりの出来事過ぎて、対処し切れず動かない。
「お"ぉい"!テメェ!ベル何のつもりだぁ!!」
そんな名前に代わって、スクアーロが叫んだと思ったらベルは満更でもない様子でにやり、とその白い歯を見せて愉快そうに笑った。
「だって王子と名前の約束だし…ね?」
「う"お"ぉい!ほんとうかぁ名前!!」
ベルは今だ固まっているであろう名前に声をかける。そして、またスクアーロも然り。だけど、名前からの返事はない。
「まさかお前…無理にしたのかぁっっつつ!!!三枚におろすぞぉぉお!!」
「カスが王子(オレ)をおろせると思ってんの?」
「ためしてみるかぁあ"?」
「はん…やってやろうじゃん!」
いつもの名前なら、ここで仲裁が入る筈なのだが
「……」
名前は黙ったままびくりともしない。さすがに心配になったベルが目の前で手をかざし、ひらひらと振りながら名前を呼ぶ。
「…な、なぁ名前?」
「名前、どうしたんだぁ…?」
不安になったベルとスクアーロの二人が声を掛けてみるが名前は俯いたまま、一向に顔を上げようとせずに動かない。
「う"お"ぉい"い"ぃ!やっぱりそんな約束してなかったんだろぉお"!!」
「なっ!ちょ、落ち着けよっ…おい!名前何とか言えっ!」
「…った。」
スクアーロが真剣を手にベルに襲いかかろうとしたその時、名前が小さな声で呟いた。
「「……?」」
「お"いぃ…名前もう一回言ってくれぇぇ」
スクアーロがそう言うと、名前はバッと顔を上げた。その顔は林檎のように真っ赤に染まっていて。
「じょ、冗談だと思ってたの!…心の準備も出来てなかったのに…べ、ベルのばかぁぁあああーーー!!!」
心底恨めしそうにベルを睨んでそう叫んだ名前は涙目で部屋から走り去る。
「う"お"ぉい!こら待ちやがれ、名前!!心の準備ってどういうことだぁあ!」
「…名前(ベルのばかぁぁあああーーー、ばかぁああーー、ばかぁああーー←エコー)」
「ぅんもう!二人っとも鈍いのねんっ!」
そこに、いつから居たのかサングラスのオカマ…ルッスーリアが現れた。(ちょ!ヒドいわ、私、最初っから居たわよぅ!)
「ほら、ベルちゃん追いかけなくていいの?名前…行っちゃったわよ?」
「…ぅ…あぁ」
「お前が追いかけなきゃ俺が行くぜぇえ!」
「だぁめ!今スクちゃんが行っても意味がないわよぅ!ほらほら、ベルちゃん早く!」
「ぁ"あ"!こら、放せかま野郎っ!!」
いつの間にか、スクアーロの背後に立って、ルッスーリアは彼を羽交い締めにしていた。じたばたともがく哀れなスクアーロを横目にベルは部屋を飛び出した。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう!!!私…ベルと……キスしちゃったんだ!(注意:ほっぺにですよ)
あの時はいきなりのことだったから、びっくりしてしまった。『ばか』とベルに叫んで部屋を飛び出して来てしまったが、大丈夫だろうか。(どうしよう…顔……会わせ辛いなぁ…)ベルにキスをされた時は、仕方がなかったのだ。名前はあの約束のことを本当に冗談だと思っていたからだ。だけども、まさか本当にキスをしてくるとは…名前はベルがキスをしてきた時のことを思い出しては顔を真っ赤に染める。
部屋を出たあと、一旦自分の部屋に戻ろうと思ったが、自分の部屋に行くためにはあの部屋の前を通らないといけない。なので、妙に気まずくそれは無理になった。(ってか私…ベルに告白紛いなことを口走らなかったっ!?)そんなことをもんもんと考えているうちに日が傾き出した。
「…どうしよぉ。」
やばいよ、やばいよ!これは非常にやばい状況です。こんな状態のまま、夕食なんて一緒に食べれません。
「名前ッ!!」
すると、大きな声で名前を呼ばれた。後ろを振り返ると、肩で息をしているベルが視界に入って来た。
「っこんな所に…いたのかよっ!はぁっ…探したじゃん。」
「べ、ベル…(私のこと探してくれてたんだ…)」
ベルは私の居るところまで走って来ると、数回息を吐いたり吸ったりして呼吸を整える。その後は、しばし無音の時が流れた。
「…怒ってんの?…(頬に)キスしたこと。」
「へ?……ううん、その…怒ってないよ」
ベルはいつもよりも真剣な声音で訊ねてきたものだから、なんだか緊張してしまう。そう、彼はいつも通りのはずなのに。
緊張してしまったのは、やっぱりあれの後だったからかな。
「なぁ…名前、」
「…なに、ベル?」
「オレ…今やっと気付いたんだけど―――」
夕暮れにまみえた君の雰囲気がどこか満足げだったのは、私との賭けに勝ったから?それとも…私から君へ、再びあの賭け事の賞品をあげたから?
賭け事とキス。
それは鈍い王子に姫の想いを気付かせる恋のイベント。
end
20100404
20130606 修正
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