短編ログ | ナノ
妄想?いえいえ現実です

「ねぇ、ちょっと聞いてる?」


オレの意識は現実世界に引き戻された。
名前のオレを呼ぶ声によってな。


「何考えてんのよー 話、聞いてなかったでしょう?」

「聞いてたぜ、だってオレ王子だもん」

「はいはい、王子でしたねー」


つい先ほどまで、頭の中に居たのも名前。
妄想と言う名の都合の良い世界で、オレだけに向かって微笑んでくれていた名前も
所詮、オレの脳が勝手に作り上げた幻想で…

現に今、名前はオレの言葉を受け流しやがった。
それにすぐ切り替えて任務の話をしてやがる。

オレは名前に気付かれない程度の溜息を零す。すると…

きりりとした眉がひくりと動いて、きらきら光を反射している黒い二つの目がオレを睨んで来た。
ちょっとゾクッと来るその視線は、オレの中の何かを掻き立てる…


「ベル!!」

「っ…ん? 何、名前」

「さっきから、意識飛ばし過ぎ」
「はぁ? 別に飛ばしてなんかねぇーし」

「いや、絶対飛ばしてる。
 じゃあ、明日何時出発か言ってみて?」

「…そんくらい分かってるし、夜の11時だろ」
「正解よ、じゃあターゲットの出てくる時間は?」

「う………1時?」

「ほらぁ…違ってる。
 ちゃんと聞いてなきゃダメじゃない。

 変なことに意識飛ばして、考えごとしてると明日の任務遂行に支障が出るでしょっ!!」


名前はオレに向かって人差し指を突き立てながら、怒っている。
ま、そんな姿まで可愛いんだけどな。


「支障なんて出る訳ないじゃん。だってオレ王子だ「そんなことは今関係ないの!」痛てッ!!」

「いーい?ターゲットが出てくる時間は午前2時よ。
 ちゃんと覚えておいてよね、全く…」


名前はオレのほっぺを思いっきりつまんできた。
王子のほっぺをつまむなんて、何様のつもりだよ。
…名前だから、今回は許してやるけど


「…ベルのほっぺた結構やわらかいのね」
「はぁ?…なんだよいきなり」

「ふふっ…率直な感想を述べたまでよ?」


首を右に傾けながらふんわりと笑った名前。
その笑顔はオレの思ってた以上に可愛くて…


「っ!!!」


つい先ほどまで、頭の中に居たのも名前。
妄想と言う名の都合の良い世界で、オレだけに向かって微笑んでくれていた名前も
所詮、オレの脳が勝手に作り上げた幻想で…


「もー、ちゃんと聞いててよね?」
「………」

「ちょっと、ベル……って何で顔赤くしてんのよ」


「…名前。 もう一回笑ってくんない?」


だけどこれはオレの妄想が、それ以上の現実になった瞬間だった。


(やべ、まじで可愛い)
(オレ今夜眠れねぇかも)


end

20100816

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