「なぁ…」
「ん?…何だい、シリウス。」
「最近、リーマスのヤツ…よくあの地味眼鏡ちゃんと一緒にいるよな。」
「…そうみたいだね?」
シリウスの問いかけにジェームズは斜め前の席に座っているリーマスと地味眼鏡ちゃんこと、ナマエ・ミョウジを見た。
「……」
「それがどうかしたのかい、シリウス?」
「いや…別に……」
斜め前の二人を眺めているシリウスは不思議そうな、不機嫌そうな…そんな表情をしている。
「何だいシリウス…もしかして、やきもちかい?」
「っば、なんでそうなるんだよっ!」
「だって、君がそんな顔をしてるからさ。」
「そんな顔ってなぁ…オレは元からこの顔だっての。」
これはある暖かい日の午後の出来事である。
グリフィンドールの談話室で、たまたま僕はひとりだった。ジェームズはいつもの如くリリーを追いかけて何処かへ行ってしまったし。シリウスは弟に家のことで用事があるとか、ないとかでひとりでスリザリン寮へ行ってしまった。
(どうせ、セブルス辺りにけんかでも吹っ掛けてくるんだろうな)
残りのピーターはと言うと、呪文学の補習か何かでここにはいない。いつもだったら、談話室はうるさいくらいに人がいるのに、今日に限って一人も居なかった。三人がいないと、僕には特にやることもないし、仕方なく…
本、当、に、仕、方、な、く、
僕はひとり、談話室で魔法薬学の宿題に取りかかった。僕は魔法薬学の問題とかれこれ三十分ほど奮闘してみるものの、さすが僕の苦手分野なだけはある。まったくわかりやしない。チッ、と柄にもなく舌打ちをかました。
ガタン…
机に肘をついて悩んでいたら、僕の向かいの席の椅子が引かれた。同じ寮のナマエだった。
「や、やあ、」
「あれ…ルーピン?」
もしかして、舌打ちを聞かれちゃったかな。慌てて挨拶をすると、素っ気なくこちらに視線を巡らすナマエ。彼女は持っていた羊皮紙を机に広げ、手際よく宿題をやりはじめる。(…あ、まさかそれ…魔法薬学っ!?)
ナマエは魔法薬学の宿題をすらすらと解いていく。そして一分と経たないうちに、僕が悩んでいる問題に到達してしまった。
「ねぇ…もしよかったら、教えてくれない?…それ。」
ナマエは濃紺の縁をした眼鏡をくいっと上げてだるそうな目で僕を見た。
「僕、魔法薬学苦手なんだ……」
「…へぇ、そうなんだ(だからこの間の授業でも大鍋溶かしてたんだな)…いいよ?」
「っありがとう!」
「んで?…ルーピンはどこがわからないの(この問題はまだ基本的なことだと思うんだけどな…)」
ナマエとは同級生で、グリフィンドールの中でもかなり頭のいい方だ。この間のテストはジェームズやシリウス、リリーに並び、トップの点数を取った。
「…ん?ここ間違ってる。」
「え、うそ…」
僕の羊皮紙を見ながら、僕の間違いをどんどん見つけていくナマエ。なんだか、ほんとうに…つくづく僕は魔法薬学はダメだな。
「あー…あとここも違うよ、ここは――――だよ。」
「…――――?」
「―――って言うのは、――で―――だから、」
「へぇ…じゃあ、水犀木は、―――すればいいの?」
「そうそう。」
「見分け方は?」
「水犀木は、主成分が―――だから、火で炙ってみれば大抵は分かると思うよ?」
しかし、彼女が誰かと一緒にいるのをあまり見たことがない。実際の僕は、いつもの三人といることの方が多いからナマエについては多く知らないけど…。
「ナマエ、ここも教えてくれる?」
「んー…月見草は、―――液の材料として多く使われるから、――――だね」
「…じゃあ、この答えはa?」
「そうだよ」
彼女は自分からは特に人と関わろうとせず、誰かから話し掛けられた時だけ答えるような、そんな『不思議な子』という印象を僕は持っている。
「終わった……(ナマエって教え方上手い!)」
「そうだね?」
ナマエがにこり、と微笑んだ。
「っ!!」
ナマエの受け答えた眼鏡レンズの奥の瞳が、やさしく細められて…あまりにもそれがかわいらしく、僕は顔が火照るのを感じた。
「どうかした?」
ナマエは至って不思議そうに僕の顔を覗き込む。なんだ君、普通のかわいい女の子じゃないか。
「…まだわからないところがあるんなら、教えてあげるよ?(本当に苦手なんだな…)」
こんな短時間で、僕の中のナマエの印象は瞬く間にして変わっていくのがわかった。…やっぱり、人は見かけによらないんだな。
「…いや、大丈夫。なんでもないよ」
「変なの」
不思議そうに僕を見たあと、彼女は眼鏡を外してレンズを拭き始める。その姿でさえ、かわいらしく…僕はもう一度赤面する羽目になった。
「(か、かわいい…!)」
前言を撤回します、君は人並み以上だ!
「ルーピン?(今度は赤くなって)…今日は熱でもあるのか?」
相変わらず不思議そうなナマエ(まだ眼鏡は掛けていない)。…もしかして、眼鏡を外したナマエを見たのって、僕が初めてなんじゃないか?だってこんなの…他の男子が見たら放っておく訳がない。
特にシリウスなんかがね?
(あれ…でも今は……)
「熱はないよ。ねぇ、一つ君に聞きたいことがあるんだけど?」
「なに?」
「ナマエって…目悪いの?今、普通に僕見てるけど、」
素朴な疑問だった。
例えで言うならば、本当に目の悪いジェームズなんかが眼鏡を取ったら、焦点がしっかり合わなくなって、周りを見渡すのだ。だけどナマエはしっかり僕を見据えた。ナマエは小さくため息をついて苦笑する。
「さすがルーピンだね。鋭いよ…これ実は伊達眼鏡なんだ。」
「なんでそんな…黒っぽい…」
「地味なやつを掛けてるかってことでしょう?」
「…うん」
ナマエには僕の思考がお見通しみたいだ。
「父上がね、眼鏡をかけろかけろってうるさくて…。」
「お父さん?」
「えぇ。なんでも、眼鏡を掛けた方が知性的に見える、とかなんとかで…」
確かに、眼鏡をかけた人はどの人も賢そうなイメージだけれども。ナマエの場合はちょっと違う理由も見え隠れするような…。
「それで私は仕方なく…でもどっちかって言うと、掛けてる方が見え辛いんだけどね。」
「でも、頭のいいお父さんだと思うよ。」
「…?」
ナマエ、僕はナマエのお父さんの気持ちが何となく掴めたよ。男なんて考えることは大概、みんな一緒なんだから。
「リーマスの考えも父上の考えも…まったく見当がつかないなぁ?」
「(…っ!)ナマエは知らなくていいことだよ、きっと!」
(あれ?僕、今名前で呼ばれなかった??)ナマエ…今、僕のこと名前で呼んでくれたよねっ!?
「なぁ…リーマス!」
夕方、いつものように四人で大広間で夕食を食べる。そして僕が食べ終わって席を発とうとした時にシリウスに呼び止められた。
なんだろう…?(このあとはナマエと魔法薬学の自主勉強会なんだけどな…)
「リーマスってよ…最近あの地味眼鏡ちゃんと一緒にいるの多くねぇか?」
「…地味眼鏡ちゃん?」
「あぁ…リーマス、すまないね?ナマエのことだよ、ナマエ・ミョウジ!」
すぐ隣りからのジェームズの声で、地味眼鏡ちゃんが誰なのかが理解した。そしてシリウスの不意の問いかけに僕は少しだけ優越感を感じた。(ま、ナマエを『地味眼鏡ちゃん』呼ばわりするのは頂けないけどね?)
「確かに…最近は一緒にいるの多いかもね?」
「もしかして、リーマス…ナマエとつ、「あぁ、そんな(今のところは)関係じゃないよ?」
ジェームズの言葉を遮って、僕は(少し黒いオーラを背負って)告げた。
「それじゃあ、僕はナマエとの約束があるから、行っていい?」
「…あ、あうん。ドウゾ…いってらっしゃいませ…」
「ありがとう、ジェームズ。」
「はあ?…ちょっと待てよリーマスっ、オレの話はまだ…」
「またあとで。」
僕はそう言って、大広間をあとにした。
あの日、たまたま僕はひとりだった。あの日、談話室で宿題を三十分悩んでいてよかった。もしも、三人がいつものようにいたとしたら、今も僕は彼女の素顔を知らないままだっただろう。もしも、疲れて男子寮へと帰ってしまっていたら、今僕はここにいないだろう。
「おーい、リーマス」
いつもの机で魔法薬学の本と羊皮紙を広げたナマエが手を振っている。
「今日も眼鏡似合ってるよ」
「そう?…ありがとう」
いくら不思議がられたっていいさ。彼女が地味眼鏡ちゃんだと思ってるやつらは思い知れば良い。彼女が、ナマエが…地味眼鏡ちゃんじゃないってことを。
「ほら、リーマス…今日も始めるよ?」
「お願いします」
今まで不思議な子だと思ってた、自分が馬鹿だってことに気付くはずさ、もうじきに。
end
20100713
20130606 変更
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長いよ!\(^q^)/
title by 瞑目(http://s.sameha.net/?clotho/)
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