満月の夜が私は好きだ。
昼の若様も私は好きだ。
満月の無い暗い夜は、とても不安だ。
夜の若様は…ちょっと苦手だ。
「名前、酌してくれねぇかい?」
「…はい。」
夜の若様はどうも苦手だ。
昼の人間ときの若様は、やさしくて元気な方だ。
でも夜の若様は、急に大人っぽくて色気があって…兎に角、私は苦手な気持ちがある。
「名前、ここに座って一緒にどうだ?」
「…いえ、私にはまだ仕事が残っているので、」
「そうかい?そいつは残念だ。」
「…すみません、それでは。」
若様は、そう言ってちびりちびりとお酒を飲まれた。
今夜の月は満月に少し足りない。
「月が……」
「どうかしたのかい?」
そう言って若様は私に目を向けた。
夜の闇の中、その二つの目はきらきらと輝いている。
「いえ…ひとりごとです。」
「…そんな風には見えねぇけどな。」
「…! そうですか…」
一陣の風が私と若様の間を吹き抜けていった。
草木の揺れる音が静かな夜に響く。
「こんな話を聞いたことがありますか?」
「?」
昔、働き者の娘がいました。
その娘は村の誰よりも働き者で毎晩毎晩遅くまで働いていました。
たまたま森で仕事をしていた時、晴れていた天気は土砂降りの雨になりました。
その娘は、森から出ることが出来ずに、森を彷徨って、歩き続けたそうです。
村の人々は娘が帰って来ないことを心配に思って、何度か森へ探しに出掛けたそうなのですが…
何度名前を呼んでみても娘からの返事はなく、その声は寂しく森に木霊するだけでした。
それから何年も経った満月の夜。
その村の男が一人、夜に森に入って迷ってしいました。
もうだめか、とその男が諦めかけた時 森の奥の方から、白い光をまとった美しい女が現れました。
その女は男の目の前まで歩いて来ると左の方を指差してにこり、と微笑むのです。
そして、その女はその方へと歩き出しました。
男もそれに付いて歩きます。
するとどうでしょう。さっきまで森で迷っていたのに、目の前には村への出口があるではありませんか。
男はその美しい女に御礼を言おうと振り向きました。
しかし、その女の姿はどこにも見当たりません。
その時、声が降ってきました。
『夜の森に入ってはいけないよ』
『暗い暗い月の無い夜は』
『森には恐ろしいモノが蠢いている』
『だけど満月の夜だけは』
『あなたを救う光となろう』
『夜の森には入ってはいけないよ』
―私のようになりたくなければ―
ごうごう、とその森から吹き抜けてくる風がその男の背をぞわりと撫でました。
「…その娘は死んじまったのかい?」
「…正確に言えば死んではいませんが…そうですね。」
「ふぅん…だけどオレは迷わねぇぜ?」
「…何故ですか?」
「その女ってのは、ここにいる。」
「…!! 気付いてらしたんですね。」
「あぁ、当たりめぇさ…」
私はその昔、森にのまれた可哀想な娘だった。
それをお月様が助けて下さったのだ。
あの日が新月の夜でなければ、私は…
満月の夜が私は好きだ。
昼の若様も私は好きだ。
「名前、酌してくれねぇかい?」
「…はい。」
満月の無い暗い夜は、とても不安だ。
夜の若様は…ちょっと苦手だ。
夜の若様はまるで森の様な方だ。
そして若様のその双方の瞳が丸い満月の様だ。
好きなものと苦手なものが一緒に有る若様は 私の大切なお人だ。
end
20100613
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翔和様リク
何だかよく分らない物語(´ゝ`)
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