夜、私の部屋に彼がやって来た。その時私は、ボスに提出する報告書の整理をしていた。
「うお"ぉい、名前。」
「開いてますよー」
「入るぞぉ」
時間も遅いから、彼なりに周りに配慮をしたんだと思う。それはいつもよりも抑えた声だった。
「まだ仕事やってんのかぁ?」
「見りゃわかるでしょーよ」
「大変だなあ…」
部屋に入って来た彼はどかり、と私のベッドに座る。うわ…ちょっと、私のベッドなんですけど。
「わかってんなら、手伝えよ!」
「う゛お゛ぉい!!それが人にものを頼む態度かよ!」
今日の私の仕事は一日中デスクワークだった。相変わらず、ボスの人使いの荒さと来たら…なんて思ってるんだけど、ボスに文句は言いません。言えません。文句を一言でも言った暁には、私の命の保証はありませんからね?ああ、こわいこわい。
「なぁ名前、こっち来いよぉ。」
「はぁ?こんな時に何言ってんの?」
彼は自分の足の間をぽんぽんとたたいている。まてまて、どう見たって書き終わってない報告書の方が多いでしょうが!お前の目は節穴か!
「私にはするべき仕事が残ってるの!わかります?」
「そんなの後ですりゃあいいだろぉ?なぁ」
彼はそう言いながらにやり、と笑った。私は彼のこういう笑顔に弱い。非常に弱い。
「ボスに叱られちゃうよ、私」
「大丈夫だぁ…ボスは何だかんだ言っても、名前には甘い」
気に食わねぇけどなぁ…と彼は付け足す。
「それは…そうかもしれないけど、」
だけど、この報告書は今日中に終らせて明日の朝には完璧な状態でボスに提出しなければならない。ぐらぐらと揺れる揺れる私の心情。彼を取るのか、報告書と明日の我が身を取るのか…かなり悩む。それは私にとって難しい選択だった。
「はぁ……」
私はペンにキャップをし、報告書の束を軽くまとめた。今日も彼には勝てなかったのだ。そして、そっと席を立ってベッドの方へ歩いて行く。
「うおぉ…仕事はいいのかあ?」
「後で、って言ったのは誰の口ですかぁ。」
私が彼の胸にもたれるようにしてベッドに腰をおろすとふざけた声で彼は言った。私は彼の口調を真似てみる。言葉の語尾をのばす癖。すると彼は私の頭をやさしく撫でた。
「スクアーロ……」
「ん?何だぁ」
「…べつに。呼んだだけ」
「―――そうかぁ?」
いつの間にやら回された彼の腕。自然、私は後ろから彼に抱き締められる形になった。
「なぁ名前…」
「どうかした?」
夜、私の部屋に彼がやって来た。その時私は、ボスに提出する報告書の整理をしていた。
彼は笑う。そして誘う。私がこの笑顔に勝てないことを知っているのでしょうか?
今日もそんな彼に、私は惨敗です。
「何でもねぇぞぉ」
「…?」
そう言って、彼はまた笑う。
「…呼んでみただけだぁ。」
私の大好きなこの笑顔で。
end
(ボスに叱られるのはスクアーロだけってことでよろしく)
(う゛お゛ぉい!それはねぇだろ!!)
20100521
::26::
×|◎|×
ページ: