短編ログ | ナノ
泣きたい朝も何もかも

とても悲しいことがあった。腕に突き立てた刃にほんの少し力を加えれば、白い皮膚を裂いてプツリと血が出てくる。傷のついた皮膚が、腕が、痛い。浅ましくも、これが生きている証拠。この刃を勢いよく横に引けばどうなるだろうか、なんてことは愚かな私にだって理解できる。
ここなら誰にも見つからない。ここは私たちの秘密の場所だから。あの子もここへは来れない。大好きだったのに、ここにはもういないなら、私から会いにいけばいいんだって。ゆるゆると握っていた刃を見て、それからプクリと膨らんだ血の玉を見て、目を閉じる。目蓋の裏には私の悲しみの原因がありありと浮かんだ。
「何をしているんだ!」
その声が私の鼓膜を揺らしたと思ったら、手の中にあった刃が弾かれ向こうの壁に突き刺さった。私をぎゅっと抱き締める腕。その匂い。涙のせいで、視界がぐらぐらと揺れる。
腕を取られて、傷口を見せられた。スーッと赤い線が走る私の腕。さっき付けたばかりの浅い傷がそこにあった。どうしてこの場所がばれてしまったのだろう。ここは秘密の場所だったのに。あの子は知らないはずのなのに。ハンカチで血が拭われた後、テキパキと処置をされて最後に包帯が巻かれた。
「お前が死んだって、あの妖精にはもう会えないんだよ」
そう言って私を再び抱き締めたレギュラスは、ほっとしたように肩の力を抜いていた。そんなこと、分かってる。でも、会いたいの。だったら会いにいくしかないじゃない。私はこの悲しみを抱えたまま、どうしたらいいの?
「生きていくしかないんだよ」

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20170812
title by 37(http://37.xrie.biz/)

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