短編ログ | ナノ
ノクチューン

ふと、目が覚めた。
真っ暗な部屋の中、わたし以外の寝息が聞こえる。
苦しそうな呼吸の音――すぐ隣りで寝息をたてているセブルスだ。

いつから、同衾を許す仲になってしまったのだろう――この男は、私に蹴り落とされそうになっても、懲りる事なく、夜にやって来て、朝方にまた帰っていく。
こっそりと、わたしの部屋のベッドに忍び込んでは、こうしてわたしと夜を、同じ枕で見る夢を、共にしている。
何をするではなく、私の隣りで眠り、そして起き、また眠りにくる。

彼の行動は、とても不思議で不可解だ。
まさか、このベッドを、自分のベッドであると、彼が勘違いしているわけではあるまい。
むしろ、彼の主たる地下牢の仕事部屋から、わたしのこの部屋は真逆の方向にある。
彼が、わたしの部屋の、それもわたしのベッドに、何らかの目的をもって、この夜という生徒も草木も眠る時間をねらって訪問しているとしか考えられない。

真っ暗だと思っていたこの部屋も、この暗闇に次第に目が慣れてきた。
カーテンの奥の窓の外に出ている満月の明るさで、今ではもうすっかり、鈍い色ではあるが、なんとなく識別できるようになった。

ふと、自分の指先の色、そして手の平の色が変であるのに気付いた。
到底、人の肌の色とは思えないほど、黒っぽい紫色をしている――鬱血していたのだ。
痺れているのか、冷えているのか、固まっているのか。
わたしの指先の動きは鈍い。
そして、手首は折れそうなほど痛み、骨が軋む――セブルスが、わたしの手首を握っていた。
いったい、彼のこの細腕の、どこにこれほどまでの力が秘められているのか――わたしがそう思うほどに、セブルスの力は強かった。

その手を解こうにも、わたしが動かせば動かすほど、その手の締め付けの力は強まっていく様だった。
彼は――セブルスは、わたしのこの手首を、いったい何と勘違いしているのか。
貴重な薬草とでも、思っているのではないか。
どんな夢を見ているのだろうか――悪夢でも、見ているのか。

わたしの手首は、今にも骨折してしまいそうだ――さっき、セブルスの腕を細腕などと形容したが、その実、わたしの腕だって、彼に負けないほど細いのだ。

「セブルス…?」

しかも、彼は今眠っている。
それも、比較的深い眠りに落ちているのだろう。
無意識すらも眠っている今、力をコントロールする機能だって、リミッターが外れているのではないか。
彼が何かのきっかけで、今よりももっと強い力でわたしの手首を握ってしまえば、あっさりと、わたしの腕は折られるだろう。
それだけは、遠慮したい。
痛いのは嫌いだ。

彼は、わたしがこうして夜の合間に、目覚めていることを知っているだろうか。
そして、今にも握り潰されんとする自分の手首のために、こうして今、セブルスの身体におおいかぶさるように抱き寄せていることも――そして、あなたがわたしの胸に、顔を寄せて泣いているのを、その背中を、空いた片手でわたしが弱くやさしく叩いているのを、知っているだろうか。

わたしは、あなたが泣き虫なのは知っている。
そして、それをわたしに知られたくないことも、わたしは知っている。

でも、あなたは知らない。
そんな泣き虫なあなたを、どうにもこの温かいところから、蹴り落としてあげられないわたしの気持ちを、あなたは知らない。

今夜もわたしは、循環し始めた血液のためのビリビリとした痛みに、眉をしかめながらゆっくりと瞼を下ろすのだ。
再びやって来た暗闇の中、考えることがある。
次の朝、あなたが帰ってしまう前に、わたしがもし目覚めていたら、あなたはどんな言い訳をわたしにしてくれるのだろう。

まどろんだ夢の中、思うことがある。
ああ、どうか――夢の中だけは、どうかあなたも幸福でありますように。

夜想曲 に
あなたの明日をたくして

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20170302
20171027加筆
title by annetta(http://annetta.hanagasumi.net/)
子宮(http://nanos.jp/witch49/)膿み:セブルス オマージュ

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