君は覚えてないかもしれないけど、僕は君をはじめて見た日のことを忘れたことはなかったよ。あの日は、夏休みで学校もなかった。いとこのダドリーとその仲間たちに変ないちゃもんを付けられる前に、安全な場所で隠れてた僕のところに君がやってきたんだ。そこは公園の茂みの奥。君は、猫を追いかけてきて、そこで体を小さく丸めて隠れている僕を見つけたんだ。君はとても驚いたみたい。まさか、こんな茂みの奥に、僕がいることなんて予想もしてなかったんだ。
僕がクラス中から除け者にされているのも知らない君は、真っ直ぐな目でじっと僕を見た。真っ黒に透き通った瞳。本当にきれいな瞳だったんだ。こんな真っ直ぐに、蔑みや厄介そうな感情を抜きにして僕だけを見るために、誰かから視線を向けられたことは今までになかった。だからこそ、僕は小さくなって隠れているのも忘れて、君の瞳を見つめていた。そうしたら、どうして君が、僕にそんな目をしてくれるのかってことを教えてもらえるような気がしたから。
君の瞳は、夜の闇よりも暗い黒色なのに、真昼の青空よりも澄み切った目をしてるって思ったんだ。なんでだろう、不思議だよね。僕は君の瞳に吸い込まれたみたいに、君から目が離せなくなった。君は状況を確認するように僕をじっと見ていたけれど。
でもいつだって、僕には邪魔が入るんだ。ダドリーの声が僕の名前を呼んだ。僕はビクッとして君から目を逸らしてしまったんだ。本当は、もっと見つめていたいって思ったけれど、ダドリーに見つかりたくない気持ちが、その時は強かったんだ。いつの間にか、君が追いかけていた猫が僕の傍で座っていて、君は僕の方に近寄ってくると、その猫を抱き上げたよね。僕はそれを、まるでスローモーションみたいに膝を抱えながら横目で眺めていたけれど、君はもう僕の方じゃなくて、その猫に夢中になっていた。
それがちょっと悲しいなんて思ったりして、でも、またダドリーの声が近くからしたから、僕はまた体をできるかぎり丸めて茂みの陰に隠れる体勢を整えたんだ。君は、それでなんとなく、僕がダドリーたちと楽しいかくれんぼの遊びをしているわけじゃないってことを察知してくれたんだね。公園の茂みを出た明るい場所にダドリーとその仲間たちがいるのを確認すると、茂みをかき分けて君は明るい場所に出た。君が、大切そうに抱えていた猫を地面におろすと、君はじっとダドリーたちを見ていたね。
ダドリーたちも君のことを正面から見ていたし、僕は君の背中しか見えなかったけれど、君の足元にいた猫がひと鳴きすれば、公園中に潜んでいた猫たちが君のまわりに集まってきたから、僕はとても驚いたよ。しかもそれをダドリーとその仲間たちに嗾るものだから、彼らはない尻尾を巻いて逃げ出したんだ。僕はそれを茂みに隠れてずっと見てた。君が、君の猫を抱き上げるのを見届けてから、僕は、君が僕を助けてくれたことに気付いたんだ。だから、お礼を言わなくちゃって。
ガサガサと茂みをかき分けて君のところに走って行ったのに、君は近付く僕のことに気付く素振りも見せないで、猫の背を撫でながら公園を出て行っちゃったんだ。その時、君が歩くたびに太陽の光を反射しながら揺れるきれいな黒い髪の毛の間から、君の肩越しに、まんまるな目をした君の猫が、公園にただひとり残された僕を見ていた。
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20170102
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