短編ログ | ナノ
はじめて記念日

はじめて私が見たきみたち双子は、大きくて茶色い真ん丸な目を、緊張と不安に揺らしていたね。傷を負って包帯だらけの小さな身体で、ふたり身を寄せ合って眠っていたのを思い出すと、今でもぎゅっと胸が痛くなるよ。きっと、私の家に保護されてくる前も、ふたりで生きてきたんだね。熱い夏の日も、寒い冬の日も、暗い夜もふたりきりで、ずっと。

ねえ、はじめて私の手からご飯を食べてくれた時のこと、覚えてる?
私は今でも、たまに、思い出すことがあるよ。だって、とっても嬉しかったんだもの。きみたちがやってきた次の日から、ふたりのご飯を準備するのは、私の仕事になった。もちろん、栄養管理はお母さんに教えてもらって作っていたんだけどね。
最初の日は、においを嗅いだだけで一口も食べてくれなかったよね。あの夜、とても悲しくて、ベッドに入りながら泣いちゃったんだよ。
なぁに?ごめんねって、謝っているの?
あはは、ずっと前の話だよ。私ときみたちがもっともっと、小さかった頃の話。だからもう、今は悲しくないよ。ありがとう。
空腹の限界がきたんだよね?
小さく口を開けて、ぱくりとお皿の上のご飯を一口食べたのを見たよ。部屋の中から窓越しに、ふたりの様子をこっそり観察してたんだけど、においを嗅いだり前脚で触ったりして、食べるかどうか、ふたりで相談してたよね。その日は、私が窓から見てるのに気付いて、そのまま逃げて行っちゃったけど、今でもこっそりカレンダーに、ふたりがはじめて一口食べた日を記念日にして赤丸チェックしてるんだ。
ご飯が安全だって分かってから、少しずつ食べてくれるようになったね。ふたりがはじめて全部残さずに食べてくれた日は、嬉しかったなぁ。もちろん、その日も記念日にしてあるよ。ほら、いつもよりもご飯が豪華な日があるでしょ?その日が、はじめて残さず食べてくれた記念日だよ。

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20161002

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