「哀れなピエロだろう? 笑ってくれてもいいんだぜ?」
むしろ、笑ってくれた方が助かる。
「な、なん…で…」
「俺は…別の誰かを演じてでも、お前の愛が欲しかったんだ」
「あな、た、は…」
「馬鹿で空っぽな男だろう?」
怯えた色を見せる瞳から逃れるように、俺はか細い体を自分の胸の中に入れる。こんなに震えてしまって可哀相にな。俺があいつだったらよかったのにな。
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俺ではない、他のあいつに成り済まして君に近づいて、愛された気になって、それでもあいつの顔によく似た俺は、あいつではなく全く別人の松野カラ松で。君が恋い慕っているあいつにはなることはできないし、自分が今まで愛されていたのも、君が俺をその誰かだと疑いもせず、あいつを演じるこの俺を信じきっていたからだ。
結局のところ、俺、松野カラ松が君に愛されることはないのだ。ああ、君からの愛が欲しい。俺はこのようにいずれは剥がれる仮面を被り、いつ訪れるとも知らぬ綻びに恐怖し、その現実から目を逸らして、面の皮厚く今まで君の傍にいた。ああ苦しい。どうして俺はあいつではないのだろう。あいつが妬ましい。
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ああ、俺と君はどこから間違えてしまったのだろう。俺は俺の大切な兄弟を好いてくれる君が純粋に好きだったのに、一体どこで道を踏み外してしまったんだ。君からの愛を一身に受けるあいつを羨ましく思いこそすれ、なぜあいつに成り代わろうなんて、そんな邪な考えを抱いてしまったのだろう。俺たちはどこまでも中途半端だったんだ。ああ、でも。
「君の泣き顔も、悪くはない」
俺は彼女の笑顔が好きだった。しかし今では、泣き腫らした君の表情も悪くはないと思えるようになった。俺はまだ松野カラ松のままであったが、俺がこう変化したように、彼女もいつか俺のことも好いてくれるだろう。だって今、彼女の傍にいるのはあいつでも、他の誰でもない、俺だけなのだから。
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20160305
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