「最近手篭めにしたいやつがいる」
「へー…え?」
松野家にお邪魔して猫と戯れていたら、六つ子の部屋の隅から物騒な言葉が聞こえてきた。それはまるで世間話のような軽い響きだったので、耳を疑わずにはいられなかった。
「早く手篭めにしたい…」
「手篭めって。一松、あんた顔やばいよ…それどんな猫?凶暴なの?」
「…凶暴じゃない」
「猫マスターの一松が力ずくでいかなきゃなんない猫ってどんな…ハッ!まさか虎…? ついに虎にまで手ぇ出したの?」
「…フヒッ…虎ね、いいかも。メモっとこ」
「え、まさか私いらぬ提案しちゃった?あれ?」
友達の一松は、猫人間に変身できるくらい猫マスターだったが、彼はネコ科なら何でも良いのだろうか。虎、なんて一体動物園以外で何処から手に入れるつもりなのだろう。一松になら獅子も虎も子猫のように手懐けられそうだと思いはしたものの、密猟者のオトモダチはいらないです。
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「そいつさぁ、昔から俺が近くにいても逃げないし、むしろアッチから近くに来て座ったり、体寄せてきたりするんだよね」
「あ、話続けるんだ。へぇよかったじゃん。聞いた感じその猫、一松に気を許してるっぽいのになんで手篭めにしたいの?」
「なかなか懐かないんだよね、俺がこんなにも可愛がってるのに」
「え、一松のテクニックをもってしてもまだ懐かない? もしやご近所に一松以上のネコニシャンがいるのかな……でもその猫、自分から撫でさせてくれるんだからさ、自信持ちなよ、猫マスター」
「…まだ…足りない」
「うぉ…一松の深い闇の部分を見ちゃった気がする」
猫しか友達がいないと、六つ子の長男や末弟にまで言われる始末のこの友人は、猫に対して相当執着しているらしい。そんな一松を友達だと思っている私は一体どのような存在だと彼らに思われているのだろう。高校を卒業してからもわざわざ会ってるのだから、知り合い以上親友未満だと私は思ってるんだけどな。
「…そいつ、俺以外のやつにも平気で尻尾振るし触らせるし」
「え、もしかして飼い猫?」
「………」
「そりゃご主人様が一番でしょ。諦めて他の猫にしなよ、一松」
「飼われてないし!…それに、他人に飼われるつもり…ないと思う」
「なんでちょっと自信なさげなの?」
一松からは猫を撫でながら「物好き、」って言われたことがあるけど、その時の一松、嫌そうじゃなかったから嫌われてはないだろうと思いたい。
「…なんかそいつ、この間俺に何も言わないでひとりで別の場所に行こうとしてた」
「んー…テリトリーを移そうとしてたってこと?」
「お土産持ってきてくれたけど、僕は物じゃ釣られないから」
「さ、さいですか…」
でも、お酒入ると一松から頭とかほっぺ撫でられるよな。大好物の手羽先も、骨から外して食べさせようとしてくるし…あれ?もしかして、私、一松に同じ人類だとは思われてない?
「だから早く手篭めにしないと…」
「ちょ、一松!どうして迫ってくるのっ!んん!?」
「…早く懐いてよ」
「猫の話だよね!?てか、私に言っても仕方ないって!人類だから!」
んな訳ないよね。
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20160302
20171012加筆
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