短編ログ | ナノ
姉の弟ランキングが気になる

※第14話Bパート後
※姉※四男視点

「名前姉さんは、僕たちの中で誰が一番好き?」

スマホをいじっていた末弟が、和やかな雰囲気の子供部屋に爆弾を投下した。

「そうね…」

ってね、普通に考え出す姉さんも姉さんだ。僕らはピシッと石のようになって、自分がさっきまでしていたありとあらゆる動作を止めてしまった。

おそ松兄さんは、だらんと寝転びながら読んでいた漫画のページを捲る手をピタリと止めて、クソ松は、鋭さを自称する眉をピクリと反応させて鏡を覗き、チョロ松兄さんは、求人誌に挟んだアイドル雑誌を捲る手を止めて表情筋を緊張させ、トッティは、スマホをいじっていた親指を停止させてにっこりと甘えるような笑顔を姉さんに向けていた。
僕はと言えば、十四松が仰向けになって乗っているバランスボールに背中を預けながら膝の上の猫を撫でていた手が思わず止まってしまった。やっぱり、気になるでしょ。姉さんが僕たちの中で誰が一番好きかってこと。

つい最近、トド松に好きな兄弟ランキングというものの存在をほのめかされたばかりだ。十四松だけは、動きを止めた兄弟に関係なく
「名前姉さんの一番?俺も知りたーい!ねね、俺って何位!?」と元気よく尋ねていた。俺にはそんな勇気ないし、やっぱこいつすげえよ。

「順位を付けるのは難しいなぁ…」
「えー それじゃあつまんない。末っ子の僕が一番でしょ?」

あざとさ全開で姉さんに尋ねる末っ子は、うざったいくらいに目を輝かせてる。俺らにとっては毎日が日曜日だってのに、なんでこんなに無駄に緊張してんだろ。そもそもこのドライモンスターがあんな質問、姉さんにぶつけなけりゃ安泰だったのに。

「あ、条件付きだったら選べるかも」

そんなトド松の言葉をスルーして(トッティざまあ)姉さんは顎に手を置いて言った。その言葉にますます僕らは耳を研ぎ澄ませた。

「姉さんがぎゅってしたい松、第一位は十四松かな」
「はいはいはーい!俺っすか!俺っすか!!」
「ほらほら、おいで〜 はい!よし来た十四松!」

十四松は姉さんがそう言うのを聞くやいなや、ピュンとすごい勢いで姉さんに抱き着きにいってしまった。バランスボールを固定するものがなくなってしまったので、凭れていた俺はその場で倒れた。
急な出来事であったためにうまく受け身も取れず、頭の後ろを床に強か打ちつけた。地味に痛い。涙がにじんだ視界の先には、十四松がぎゅっと姉さんにされているので腹が立った。俺が後ろに倒れたことで、膝の上にいた猫はびっくりして窓の隙間から出て行ってしまった。十四松、あいつまじで許さねえからな。

「つづいて〜姉さんがお使いに連れていきたい松、第一位はカラ松!」
「ねっ姉さん!本当か!」
「本当ほんとう!だって、カラ松は力持ちだし何より商品を無駄にしないからね。この子みたいに」

そういって、腕の中にいる十四松を指差すと、十四松はハテナを浮かべながらも姉さんのお腹に顔をすりすりさせてぎゅっとさらに密着した。その光景を見せつけられてるクソ松以外の他の松はぐぬぬっとなっている。おそ松兄さんに至っては「はぁ?俺だって、姉さんの荷物持ちよくすんじゃん!何がだめなの!なんで長男様が一位じゃないの!」と不満を爆発させていた。

「だっておそ松、お使いに関係のないものまでかごに入れるんだもの。あれじゃあ、ちっとも買い物が進まないんだから」

姉さんのその言葉を聞いて、自覚があったのかおそ松兄さんは「ちぇ〜」と唇を尖らせて漫画のページを捲った。クソ松は、姉さんから一位に選ばれたことが嬉しくてうざさに拍車がかかっていたので、頭の痛みと苛つきとを混ぜこぜにして僕が殴っておいた。そしたら、少し静かになった。

「ちょっと待ってよ姉さん!それなら、この兄弟の中で唯一まともな僕が姉さんのお使いに連れていきたい松ランクの一位に僕が選ばれてないのが疑問で仕方ないんだけど…」

そんな中、姉さんの発表するランキングに異議を唱えたのはチョロ松兄さんだった。たしかに、チョロ松兄さんは十四松のように荷物を振り回してはしゃいだり、おそ松兄さんのように指定されたもの以外の商品をこっそりかごに入れたりという不正行為は行わない。それなのになぜ、クソ松だったんだ?

気になった僕はじっと姉さんに視線を送った。姉さんの兄弟ランキング発表会という不思議な空間を生み出した張本人であるトド松も、僕と一緒でじっと正面にいる姉さんを見ていた。

「まぁ、チョロ松も一位に近いけど、買い物に連れていきたい部門より、もっと別のことで姉さんの一位にランクインしてるやつがあるからって感じかな」
「えっ…ぼっ僕も姉さんのなにかで一位受賞してんの?」

「うわーなに喜んでんのー チョロ松兄さんむっつりー」
「うっうるさいぞドライモンスター!」

十四松を自分が入っているこたつの隣りのスペースに案内しながら、姉さんは言い合いを始める二人の仲裁に入った。早口になって罵り合っていた二人は、姉さんに注意されるとお互いに嫌な顔をしながらも大人しくなった。

「チョロ松だって、姉さんにとっては可愛い弟のひとりなんだから、一位受賞してたって当たり前でしょ?」
「ねっ姉さん…!!」

「あなたたちは、どうあがいても六人のクズニートだけど、チョロ松が、人一倍そんな自分から変わりたくって、認められたくって頑張ってること知ってんだからね。姉ちゃん舐めんな?」

「うわ、チョロ松兄さんちょっと泣いてない?気持ちわるー」
「なんつーか、あそこまで承認欲求が強いといろいろ面倒だねー」

「クソ長男とドライモンスターは黙ってろよ! 俺はもう姉さんが僕のことをちゃんと見ていてくれてたっていう事実だけで一週間はにゃーちゃん無しでも乗り切れるくらい満たされたんだからな!」

「ま、そういうことだから。チョロ松もちゃんと一位にランクインしてるから自信もって、明日もハロワ行きなよ?部門は姉さんに甘え下手松ね」

甘え下手松とか、ぽいわーぽい。クール童貞のチョロ松兄さん以外に一位ランクインできる松はたしかにいないわ。僕はやっと起き上がって壁にもたれると、いつもの態勢になって猫のために開けておいた窓の隙間を閉じた。

「ちなみに、甘え下手松第二位にランクインなのはカラ松くんです」

「あー、たしかに。カラ松兄さんって僕たちと違って、甘やかされるイメージないね」
「てかてか、カラ松兄さんが甘えてるのって見たことないかもぉ!」
「長男様でも姉ちゃんにはベッタリ甘えるのに、ほんとお前らって甘えるの下手だよな」

末っ子二人のコメントには俺も同意だ。おそ松兄さんに至っては、若干馬鹿にしたような悪意ある気持ちが言葉の中に含まれているような気がしてならない。チョロ松兄さんはそんなおそ松兄さんに舌打ちをすると、クソ松も珍しく眉を寄せておそ松兄さんに視線を鋭くさせていたので驚いた。

「僕らは丁度いい距離感を保ってんの!それが分かんないの?なあ、カラ松」
「あぁ!もちろんだ!…もし仮に、俺たちが名前姉さんに甘えてみたとしよう。きっとシスターは俺たち二人にも優しい抱擁をしてくれることだろう。だか!俺たちまでシスターに甘えてしまっていては、誰がシスターを甘やかしてやれるんだ?」
「そういうことだから…俺たちは必要以上に甘えにいかないんだよ!」

「はぁ!?なにその自分たちは違うんですアピール!」
「ちょームカつくんですけど!!」

おそ松兄さんとトド松は、チョロ松兄さんのやっすい挑発に乗って文句を言ってる。俺は単純にクソ松の気取った話し方にイラッとしたので近くにあった漫画をやつの後頭部目掛けてぶん投げた。もちろん角が命中した。

「一松。漫画はカラ松に投げるもんじゃありません。ほら、謝って!」
「ぐず…っ痛いじゃないか、いちま」
「あ゛ぁん?」
「なんで強気ぃ〜!?」

「はぁ。まったくもう…。じゃあ、次の発表に移ります。姉さんが遊びに出かけたい松第一位は、トド松です」

「あー!やっぱりな!聞かなくても誰が一位か分かっちゃってたは!長男だから!」
「やっぱり僕ぅ〜?姉さんがいっちばんデートしたいのは、やっぱり末弟の僕だよねっ」

「おい!別に姉さんがデートしたいって訳じゃねぇだろ!あくまでも遊びに出かけたいランキングだからな!」
「姉弟と言えど女と男がふたりで出かけるんだよ? それをデートっていわずに、なんて言うわけ? も〜!自分が選ばれなかったからっていって僻まないでよ、ひがみ松兄さん?」
「うっっぜー!!この末っ子うっっっぜぇえええ!!!」

姉さんは、トド松がデートって言ったのに訂正も肯定もしなかった。部屋の隅からじっと見つめていると、ふいにこっちを見た姉さんとパチリと目が合った。
ちょっとだけ気まずくて僕が先に逸らせば、くすっと笑われた。あーあ。僕が姉さんの何かで一番になりたいって思ってること、姉さんにはお見通しなんだろうなぁ。ゴミのくせに身分を弁えられなくて、どーもすみませんねぇ。

「うざかわいい弟部門、堂々の第一位はおそ松です。拍手〜!」

「えっちょちょちょ、姉ちゃん!なんか俺の時だけ、パパッと終わらせすぎじゃね?」
「え〜!そんなことないよぉ? だって、姉さんはどの弟にも平等に愛を配ってるはずだもの。ねえ、カラ松?」
「ああそうさ!マイスウィートシスターは、いつも俺たちを」
「ずるいずるい!だって、なんかチョロ松んときはもっといっぱい喋ってたし、あいつのこと褒めてたじゃんか!俺だって長男だし、もっと褒められるべきだろぉ!?」
「ははは!そう簡単に私からお褒めの言葉を貰えるとは思うなよ、長男くん!」

姉さんがそういうと、読んでいた漫画を放り出して床に転がり始めた。ほんとさ、あれで相も変わらず僕らクズのリーダーしてんだから、おそ松兄さんはすごいよねぇ。
ちょっと前にあった、松野家扶養家族選抜面接のときだって、母さんに本音も建前もなく全力で親のすねかじって生きてたいって言っちゃうくらいだし。自分の欲求に素直に生きてるとこが、姉さんいわくうざかわいいに当てはまるのかな。

「えー!!ずるい!チョロ松ばっかずーるーいー!十四松だってぎゅってされてんのに!えこひいきするんだー!そういうの良くないんだぞー!」

「あー そういうとこがうざかわいいんだよな、おそ松は。ほら、おいで…頭撫でてあげる」
「やっほーい!さっすが姉ちゃん!だいすきー!」

ほんとさぁ、姉さんって僕らに甘いよね。だからこんなシスコンクズニートに育っちゃったんだよ、僕たち。おそ松兄さんは、姉さんの頭撫でてあげる発言に大袈裟なまでに喜び、姉さんの座っているところまでそのまま床を転がっていった。

「ちょっと!おそ松兄さん!ずるい! ねえ名前姉さん!僕も撫でてよ!」
「たはー!じゃあじゃあ、俺もー!俺も撫でて!姉さん!」
「わわっ、ちょっと!三人いっぺんには無理だって!姉さん腕が足りないし、てか、十四松はそれ姉さんのお腹の上乗ってるから、重い!のしかかるな!」

暖色ブラザーズにもみくちゃにされる姉さんは、迷惑なことには変わりはないのにどこか嬉しそうだ。次男と三男は自分たちも加わりたいみたいだけど、丁度いい距離感を保って甘えすぎない宣言をしたばかりなので、わたわたとするだけ。ほんと馬鹿だよねぇ。甘えたいなら甘えればいいのにさ。

「名前!ちょっと下りてきて手伝ってー!」
「はーい!ちょっと待ってね、母さーん。…という訳なので、私の上からどこうか、十四松?」
「えー!姉さん、下行っちゃうのぉ?」
「はいはい、下りた下りた!そろそろ始めないと、夕飯遅くなっちゃうからねぇ」

夕飯の言葉に反応した十四松はパッと姉さんの上から退き「じゃあ僕も手伝っちゃおー!」と立ち上がる姉さんの手を引っ張った。あれ?もしかしてフツーに僕のことスルーしちゃう?別に元から期待とかしてないけど。僕なんかが姉さんの一位になんてなれる訳ないし…。

嘘。でもちょっとほんとうは、僕にだって何かの部門で姉さんの一位にランクインしてると期待した。あーあ、期待なんかしなければ良かった。ひっじょーにキビシー。胸がくるしー。

「うん、ありがとう。十四松はお手伝いが出来てえらいねぇ〜」

姉さんは十四松の頭を撫でる。それを睨み付けて、僕は膝に顔を埋めた。僕のことよく撫でてくれると思ってたのにさぁ、おそ松兄さんの次は十四松かよ。ほんとさ、平等に僕らのこと愛してるって言ってたけど、姉さんの一位って十四松なんじゃないの?姉さんの嘘吐き。

「あ、」

すると、何か思い出したように姉さんは呟いた。「どうかしたの?」チョロ松兄さんが姉さんに尋ねた。どうぜ僕には関係のないことでしょ。もういいよ、さっさと下行って母さんの手伝いを大好きな十四松としてれば?僕はこの部屋のすみでもっと発酵するぐらい腐ってるからさ。ほんとに、姉さんなんか、姉さんなんか…。

「一松」
「…なに」
「一松はね、姉さんが無条件で頭撫でたい松部門第一位だよ?」

もう、だいすき!普通にすき!姉さん大好きいいいいい!!!

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20160226

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