※これのカラ松視点
カツコツと固い足音が俺に近付いてくる。このヒールの音を、この俺が聞き間違えることはない。パンツのポケットに突っ込んでいた右手を、サングラスに掛けた。振り向きながら、俺は彼女の為の台詞を吐く。
「フッ…やっと来たかい?カラ松ガール」
「待たせたな!」
(なっ…!)
俺は今、視線だけで口説かれているのだろうか?自分の顔にカッっと熱が集まるのが分かる。それを隠そうとして顔を背けられないのは、不敵に歪む彼女の口と自信に満ちた悪戯な視線に、つまり彼女の表情から視線が離せないからだ。俺は火照った頬を気にしないようにして、次に促す言葉を掛けた。
「じゃあ…行くか?」
「うん。次はカラ松の好きなとこね〜」
そう言いながら苗字の手入れの行き届いた綺麗な指先が、スマホの画面の上を滑る。先程までの不敵な顔が嘘のように、緩んだ笑みを俺に向ける彼女に、また胸が高鳴った。彼女は、スマホの画面を俺に寄せて、いくつかあるアルバムの中の写真を見せてきた。
そこには、彼女がSNS用に撮った俺とのツーショットが写っていた。顔が写らないよう配慮されているが、こうして見てもやはり、俺も彼女もかっこいいな!スッと彼女の綺麗な指がその写真を左に押しやって、次の写真を表示させた。さっき彼女に案内されて入った、洒落た喫茶店で撮られた俺が写っていた。なんか、こういうのって照れる…よな?彼女のアルバムの中に、俺の写真があるのって…。
「カラ松ってケーキとかああいうクリームたっぷりの食べるんだね」
彼女はケーキを頬張る俺の写真に向かって呟くように言った。俺がその店で頼んだケーキは、白桃のコンポート?というものが乗ったクリームたっぷりのケーキと紅茶だった。
「フッ…俺だって、甘い囁きに身をゆだねたいときがあるんだぜ」
「勝手に甘いものは苦手だと思ってたけど…」
彼女が写真をスライドさせて次に表示されたのは、彼女が頼んだフルーツタルトの写真だった。彼女から一口もらったが、このタルトも絶品だったなぁ。ちらりと向けられる彼女の視線に応えて、口の片端を持ち上げながら俺は言う。
「そんなことはない。確かに俺は肉が好きだが、スウィーツもなかなか」
「あ、じゃあ今度ここ行こうよ。前ともだちと行って美味しかったんだ」
俺の言葉を遮った彼女は、友人とのツーショット写真を見せてきた。その写真に注目する前に、俺は、彼女の言葉に思考が停止してしまう。
彼女は今、今度と言っただろうか。そうか、彼女はまた、俺とこうして出掛けたいと思ってくれているんだな。とても嬉しいことだ。
彼女にとっては何気ない一言なのかもしれないが、俺はその事実に思わず頬が緩むし、ハートがぽかぽかしてくる。お店の雰囲気とサービスの良さを熱弁する彼女の話に耳を傾けながら、やっと写真に注目する。彼女らの背後に写っているのが、美味しかったというお店なのだろう。
「このお店はねぇ、ともだちが頼んだこのパンケーキが美味しかった!」
俺の為に、この店で食べたというパンケーキの感想を、事細かに聞かせてくれる苗字は見ていてとても可愛い。胸の奥がこう…くすぐられるような、苦しくなるような感じになる。しかし、俺と彼女とのスウィートなひと時に招かざる客人が四名ほど紛れ込んだらしい。
「事件の予感…! すまない苗字」
「え、なんなの?」
「チェイサーだ」
「はぁ? ちょっ、どうしたの急に走り出して!ねっねえ!」
(やばい!やばいやばいやばいぞ!あれは絶対兄さんたちだ)
「追いかけるぞ!野郎ども!逃げた卑怯者を捕まえるんだ!」
「「「「うぃ!」」」
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20160225
title by サンタナインの街角で(http://santanain.xria.biz/)
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