短編ログ | ナノ
仮託

※妹

書いて削って短くなってしまった鉛筆。擦って消して屑になって小さくなった消しゴム。擦れて底に穴が空きかけた靴。着すぎて伸びたり色褪せて透けるような靴下とかシャツ。妹は、そういうもんを取っておく変な癖がある。末の弟が、新しいものを買い与え、古くなったものや使うのに不便になったものを捨てないのか尋ねた時「思い入れがあって、なんだか捨てることができないんだよね」と言っていたのを聞いたことがある。

だからこそ、僕は少しだけこの末の妹といると落ち着くのかもしれない。この子なら、僕のことをずっと捨てないで傍に置いておいてくれるような確信があるから。すでに役割を果たした鉛筆や消しゴム、使い古された靴や、着古された服に、自分自身を重ねているわけじゃないけど。だって、この僕が妹の人生の何かに役立ってるとは思えないし。

「なまえ」
「なに?一松兄さん」
「これ、あげるよ…」
「なにこれ…あっ」
「ワゴンセールしてて安くなってたから買った」
「ありがと。うれしい!」
「ん」
「今使ってるのまだ使えるんだけど、チャックが壊れちゃってさぁ」
「チョロ松兄さんのお古のやつでしょ」
「うんそう。あれ、シンプルなのに使い勝手が良くて!」
「捨てようとしてたのを貰ったんだよね」
「よく覚えてるね」
「え…、まぁ」
「あ、でも、チャックが壊れてからは、鞄の中で小銭開けちゃった」
「そんななのにまだ持ってたんだ」
「だって、まだ使えるんだよ?捨てるなんてもったいない」
「ふーん」
「でも、今日からは一松兄さんがくれたやつに変えちゃおっと」
「俺はもう、新しいのに変えてるけどね」
「ってか、前まではポケットに直でお金入れてたよね」
「どうせすぐ使っちゃうから、持ってなくてもいいかなって」
「ふふ。まぁ、その理由も一松兄さんらしいっちゃらしいけどね」
「猫缶買うと、すぐにスッカラカンになるんだよね」
「一松兄さんは、猫ちゃんに貢ぎすぎなんじゃない?…あ!」
「貢いでて悪かったね…なに?」
「一松兄さん、それって」
「俺の財布…悪い?」
「悪くない…けど、それって、もしかして私のと…」
「色違いだよ…あー、こんなクズとおんなじ形の財布なんて持ちたくなかったよね」
「そういうのは別に気にしてないからいいって!…でも意外」
「なにが?」
「一松兄さんって、お揃いとかするんだ」
「お揃いとか?…今更何言ってんの?…兄妹で色違いのパーカー着てるじゃん」
「それは別よ。だって、母さんが買ってくるんだもん」

揃いのものにはしゃぐ年齢でもないけど、この子とならお揃いにしてみたい。僕らの財布の場合、百均の色違いだけどね。小銭と一緒に思いを入れて、なんだか捨てることができないような色違いの財布になってくれたらいい。妹は物持ちがいいから、僕の方が気をつけないと。

「兄さん、ありがと」
「ん」

僕が飽きるまで付き合ってね。

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20160224
20170930加筆

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