今日も任務を終えて、後はいつもの様にボスに報告書を出しに行くだけ。長いこと切っていなかった伸びた前髪が荒巻く風に乱れる。私の前を歩く男の長い銀髪も揺れていた。
名前はヴァリアーの女戦闘員だ。
戦闘能力の高さをボスに買われ、今では幹部との任務も与えてもらっている。アジトへ着いて大きな黒塗りの扉を開けようと手を伸ばすと背後からその男、スクアーロの腕が伸びてきた。
「…どうしたの?」
「…。」
私が問いかけても彼は何も答えない。
扉に付いた手を見てスクアーロを振り返れば、伸びるもう片方の腕。スクアーロの腕に両側を固められて逃げられない私は、その彼の不可解な行動に驚いていた。
「ちょっと…これじゃあ報告書が出しに行けないじゃない。」
「…、」
彼の目を見て私は抗議すると、スクアーロは尖る眼光をさらに尖らせた。
しかし、私は怯まない。理由は馴れてしまっているから。この目で睨まれるのはいつものことだった。私がボスと話している時や、部下と仕事の打ち合わせをしている時。スクアーロはこの尖った視線をよく私に向けていた。
「用が無いなら、私は行くわよ?」
私はくるりと反転して、扉の方へ向き直った。だけど、スクアーロが両方の手で扉を押さえているので中へは入れない。
「手、離してくれないと扉が開けられないんだけど…」
私は不満をたっぷり含ませてそこの言葉を発する。
「…今日、」
その時、スクアーロのいつもとは、比べものにならない小さい声がした。私が静かに振り返ると彼は口を開いた。その声の音量はやはり小さい。
「今日は何の日か知ってるかぁ?…名前。」
今日は冬の寒さもようやく緩んできた、三月の十三日。
そう、彼スペルビ・スクアーロの誕生日であった。
「今日?……あぁ、サンドイッチデーのこと?」
私のその言葉にスクアーロはがっくりと肩を落とす。私は意地悪だった。その姿は、思い通りの言葉を得られなくて残念だ、と丸分かりである。スクアーロの目には怒りとか悲しみとか…言葉では言い表せないけど、複雑な色を浮かべていた。
「…オイ、それ本気で言ってるのかぁ…??」
「えぇ、今日は三月十三日…一が三に挟まれているから、3ド1デーよ」
何か間違いでも?と少し強気な私の発言に、スクアーロは何かをグッと堪えている様だった。
そんなスクアーロが余りにも可笑しくて、余りにも面白くて、そして愛しくて。私の中のいじめたい、と言う気持ちがくすぐられる。こんな私はサドなのでしょうか?…否、私はサドなんぞではない。私はノーマルのはずだ!この気持ちは、いじめたくなる様なスクアーロの反応がいけないんだ。
今ならボスの、XANXUSの気持ちが分かるかもしれない。
…と言う無駄な自己解決の後、自分の誕生日を忘れられていると勘違いしているスクアーロ。彼が可哀想だったので真実を話そうと思い口を開こうとした。しかし、その言葉もスクアーロによって遮られる。
「今日はなぁ、オレの誕生日なんだぜぇ…」
傾くスクアーロの綺麗な顔がゆっくりと私に近づいてくる。が、お互いの鼻先が触れるか触れないかの距離で止まった。
「…名前、何笑ってんだよ!」
近距離でスクアーロの眉がひそめられるのを見た。私はまさか、彼が自分の誕生日なんだ、と自己申告してくるとは思っていなかったのでそれが可笑しくて笑っていたのだった。
「ごめんね、スクアーロ。」
「う゛お゛ぉい?…名前何のことだぁ??」
「ん?…秘密。」
流れるかの様にスムーズに、私はスクアーロの唇に口づけをする。重ねられた彼の唇からは、一瞬も数えぬ間に温もりが伝わってきた。
「―――――」
私はゆっくりと唇を離すと、スクアーロの身体は石像の様に固まっていて…全神経が顔に集中したのか、と思ってしまうくらいに、彼の顔は真っ赤に染まっていた。
「スクアーロ、お誕生日おめでとう。あなたが生まれてきてくれたことに感謝します。」
彼の右頬に私の左手を添えながら、目を見てそう言うと、ぎゅっと抱きしめられた。
「忘れられてたかと思ったぞぉ…。」
「だから、ごめんって。」
少し涙声なスクアーロは肩口に顔をうずめて、頭をぐりぐり擦り付けてくる。
「嬉し過ぎるぞおぉ……盆と正月が一緒に来たみてぇだぁああ…!!!!」
「スクアーロは大袈裟過ぎよぉ…」
素直によろこんでくれたスクアーロに私もうれしくなった。それから、再びどちらともなく口づけを交わす。
それは深く甘いものだった。
end
20100313
20130606 修正
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スクアーロはぴば(^^)
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