短編ログ | ナノ
はた迷惑な役作り

※学生松

日常生活から役作りをはじめるカラ松とあの子は、男女交際はしてない。
『待って!待ってくださいカラ松様、わたくしを置いていかないで!』
『俺は俺の歩幅で道を行く。これに付いて来られないならば、お前など俺の生きる道には必要ない。』
『まぁ、なんと酷いことを…わたくしがこんなにもカラ松様のことをお慕いしていることを知っていらっしゃるくせに。』
『俺はお前に譲歩はしない。お前を待つことはない。それでも、お前が俺の後に付いて来るというならば、好きにしろ。』
『カラ松様!わたくしは、一生あなたに付いて行きますわ!』
『お前…』
『カラ松様…!』

そんな演劇バカを見守っているのはサイバー松のコンビである。
「え、なんなのこれ。僕たち何を見せられてるの」
「あー、なんか次の劇のやつらしいよ。カラ松は硬派な俺の道を行く!って感じの学生の役で、名前ちゃんはそんな学生さんに恋する乙女の役らしいよ」
「僕たち登校してるだけだよね」
「そうだよ。ほんとイッタいよねぇー」

午前中の授業が終わり、昼食の時間になった。
「十四松兄さん、はい。これお弁当」
「あー!トド松がおれの弁当持ってたのーー!カバンの中になかったからなんでかなーって思ってたところ!」
「いや、十四松。その弁当、お前が玄関に忘れて行っただけだからね」
「そうそう。ボクのせいみたいな言い方しないでよね、十四松兄さん?」
「あはははっ!あ、名前ちゃんだー!」
「やっほー!十四松…てか、チョロ松もトド松もどうしてこっち?」
「ボクは十四松兄さんの忘れたお弁当を届けたところ」
「僕はカラ松に科学の教科書借りようと思って」
「あぁ、そうだったんだ」
「名前ちゃんは、どうしてこのクラスにきたの?」
「んー…あ!そうだった、私もカラ松に用があって来たんだった。でも、いないね」
「あ!そういえば、カラ松兄さんはデカパンせんせーに日本史の資料を片付ける役に任命させられてたよ!」
「あぁ、そうだったの?」
「噂をすれば…ほら、来たよ。イタ松兄さんが…」
「よぉ!待たせたな、マイブラザー!カラ松の登場だぜ…『なんだ、お前もいるのか?』」
『そのような険しいお顔もすてきですわ、カラ松様』

「またはじまったよ」
「こいつらよく飽きないよね、これ」
「そう言いながら、スマホを構えるあたりお前も楽しんでるんじゃないのか、トド松」
「えー!なになになになに?やきう?」
「野球じゃないよ、十四松兄さん」

『カラ松様、わたくしお弁当を持ってきたの…』
『そうか。…要件はそれだけか?俺は忙しい』
『あぁ、待って!その、これを…よろしかったら、食べてくださらない?』
「えっ…!」

「ちょ、今カラ松普通に驚いちゃったよ!役じゃないよ、素だよ!素のカラ松出ちゃったよ!」
「まさか、お弁当を作ってくるなんて…役作りでも名前ちゃんやるねぇー。つか、羨ましすぎ。名前ちゃんの手料理を食べれるなんて!」
「あははぁー!トド松、顔がすっごいことになってる!」
「十四松、突っ込むな!」
末弟の顔がすっごいことになってるとは、もちろんトッティのあの表情。

『わ、わたくし!お料理だけは自信がありますの!これまでも、お母様に習ってたくさん練習してきましたし、それに、味見は兄様にしていただいて…うまくできましたの。』
『あ…あぁ、そうか。…何故机に置くのだ。俺はまだ、受け取るとは言ってないが…』
『ひどいわ。でもわたくし、どうしてもカラ松様に食べていただきたいの…!味は、カラ松様のお好みに合うかは分かりませんが、一生懸命に頑張りましたわ。お口に合わなかったら、捨ててくださって構いませんから!どうかお一口だけでも召し上がってくだされば、わたくし名前は幸せですわ。』

「名前ちゃん、かっわぃいいーーー!さっすが、演劇部の正ヒロイーーン!」
「名前ちゃん…役作りだとしても、あの笑顔はズルいよねぇ」
「おいコラ、トド松!盗撮してんじゃねぇ!」
「えぇー、だってあんなに可愛いんだよ?…って言ってるチョロ松兄さんだって、この写メほしいくせにぃ」
「…っ!トド松!」
「大丈夫!後から個人ラインで送ってあげるから!あぁ、ボクはなんてお兄ちゃん思いの可愛い弟なんだろぉー!もちろん、十四松兄さんにも送ってあげるね?」

ここで登場一松くん。一松は、名前と同じクラス(ちなみに、おそ松も一緒)一松くんとこの子は、猫トークで意気投合し、よく一緒にお弁当を食べる仲で、今日はジュースじゃん拳で一松が負けたので、名前は彼のおごりでジュースが飲める日だった。
一松はジュースを買いに行った帰りで、隣りのカラ松のクラスに名前がいるのを見つけて廊下から声をかけた。
「ねえ、名前…昼休みなくなる」
「うん!分かった…『それでは、カラ松様。放課後のお稽古でまたお会いいたしましょう!』」
「お、おい!…名前!これ、本当に俺が食べていいんだな?」
「え、さっきからそう言ってるじゃない…『わたくしは、カラ松様のためだけを思いそのお弁当をこしらえたのです。…やっぱり、こんなわたくしのお弁当なんて、カラ松様には食べていただけないのですね。』」
「そっ…『そんなことは言ってはおらん。…ありがたく頂戴する』」
『う、嬉しいです!カラ松様!』
「!!!」
役に入りすぎて、感情のたがぶったあの子はカラ松にぎゅっと抱き着いた。それを目撃した他の兄弟たちに衝撃が走る。もちろん、一番衝撃を受けたのは抱き着かれたカラ松本人である。
「ちょ、ちょっと!ちょっと!ちょっと!名前ちゃーーーんん!!公衆の面前で何してんのーーー!!!」
「なにあれ、ちょっと、いくら何でもあれはやりすぎ!密着しすぎ!いくら、学生さんに恋しちゃってる乙女の役っていっても、今は舞台の上じゃないし、それよかカレカノじゃないんだから!他の子もびっくりしてるよ!つか、普通あそこで抱き着くか!羨ましすぎるわ!死ね!カラ松兄さん死ね!なに、あの幸せそうな名前の顔!よかったね!一生懸命に作ったお弁当を受け取ってもらえてよかったね!なにあの子!健気過ぎる!可愛い!ボクもあんな風に女子から思われたい!尽くされたい!役になりきってるのは分かるけど普段の生活からああいうこと平気でするのほんとに羨ましい!あー!ボクも演劇部に入ればよかった!クソ!カラ松兄さんそこ代われ!」
「トド松…お前、思ってること口に出過ぎてて、逆に冷静になったわ」
「てか、カラ松兄さん息してるーー?」
「正面から抱き着かれてるとか、まじ意味分かんない。こっからじゃ、ちょっとしか見えないけど、耳が赤くなってるのがすんげー腹立つ!名前ちゃんもはやくカラ松兄さんから離れればいいのに、あれがおそ松兄さんだったら、名前ちゃんゼッタイに襲われちゃってるよぉ!怖いー!」
「文句言いながら、シャッター切ってるお前が怖いわ!…あ、一松が動き出した」
「うわー、あれ、完全にやきもちだよね。嫉妬の塊…カラ松兄さんご愁傷様」
「ちょ、あんな風に襟首掴んだら…」
この後はいわずもがな。顔を真っ赤にしてホバーハンド現象中のカラ松は、ずかずかと教室に入って来た一松に襟首を掴まれて低い声で「離せクソ松、ころすぞクソ松」と言われ凄まれてしまう。もちろん涙目である。そんなカラ松からパッと手を離して、教室を出て行く一松。

その一松を視線で追って、あの子も教室を出て行く。とりあえず、いちごみるくがどうなってもいいのかと脅しを入れながら、彼女が自分の後を追ってくれることが嬉しい一松は、廊下に出てから彼女の腕を掴んで歩き出す。
「ちょっと待ってよ、一松!それ、私の頼んだいちごみるく!…ストロー刺すな!飲もうとするなぁ!」
「僕にこのいちごみるくが飲まれたくなかったら、さっさと教室戻るよ」
「ぅえ、あ、うん…そんじゃ、カラ松、その弁当箱部活の時に返してくれたら良いから!そんじゃね」
「あ…あぁ…」

「素で照れやがって…あのクソバカイタ松が!」
「男の嫉妬は醜いよ、チョロ松兄さん。あ、そうだ。ねぇ、チョロ松兄さん。十四松兄さん。ボクたちもちょっと貰いにいこうよ。名前ちゃんの手作り弁当」
「えっ…!」
「ちょっと、なんでアンタも照れてるんだよ!あぁ、もう!これだから童貞は」
「ちょっと、トド松!お前も童貞だからね!」

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20160107
外野もうるさいのである。

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