チョロ松のスマホから通知音がしました。ソファーでスマホをいじっていたトド松が
「チョロ松兄さん、なんか通知きてるよー」
と言ったので、大好きなにゃーちゃんの新曲を高音質のヘッドフォンで聴いていた持ち主のチョロ松がラインを開けば、そこには弟の十四松からめずらしくラインが届いていました。野球のアイコンは、先日トド松に設定してもらったらしい十四松の名前をタップして、トーク画面を開くと昨日の夕方『ぼく今日おとまり!』と送ってきた以来、詳しい状況を尋ねるチョロ松のメッセージに既読スルーだった十四松から『ぼくの彼女、オトコ前でした。しかもちゅーがものスゴく上手でした』と書いてあり…
「えっ、何これどういう状況!?」
松野家の六つ子たちの今にはチョロ松の絶叫が木霊しました。
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十四松が彼女の家に遊びに行ったら、風邪でダウンしているその子を発見します。いつもキリッと社会人をしていてカッコいい彼女が、今は普通のオンナノコみたいに目をうるうるさせて、真っ赤な顔をしていたので、彼女の体調のことを気遣う余裕もなく十四松はキスをしてしまいます。
「口んなかあちぃね!名前ちゃんコーフンしてんの?!!」
「いや、ちがうから、ただ風邪引いてるだけだから」
「おれはコーフンしてる!!名前ちゃんの口んなかあっつくて、おれのべろとろけそうだった!」
「そういう報告しなくていいから!」
「おれ、もう一回ちゅーしたい!!」
「だ、だめ!ストップ、ステイ十四松。てか、ほんと風邪でツライので寝かせてください十四松」
「えーーー!!名前ちゃん、おれと寝たいのーーー!!」
「そういう意味深なふうに言うのやめて…あー、熱上がってきた、かも…」
「照れてんの!?かわいい!!おれ、今日ここ泊まってくね!!」
「は?なんでそうなる…話の流れぇ!」
「だって、名前ちゃんおれと寝たいんでしょ?」
「だーー!!ちがう、ちがう、もういーから、」
「えっ!いいのーー!!やったぁあああ!!チョロ松兄さんにライン入れとこ…」
「こら、かってに…はぁ…さけんだら余計にくらくらしてきた…ううっ」
「えっ!なんで名前ちゃん泣いてんのーー!!お、おれ…なんか悪いことした?」
「もーいーです。静かにして、わたしを寝かせて…」
「じゃあ、もう一回ちゅーしよ!」
いつもは大人な対応のできる彼女ですが、風邪の熱のためにたいした対処ができず、十四松にされるがままで、そんな彼女の様子に気を良くした十四松は調子に乗って興奮したのかと尋ねます。一応、ふたりは好き合っているので、好きな人からの突然のキスに興奮しない訳ではありません。しかし、いくら好きな相手からとは言え、風邪を引いていて体も怠い時にそういうことをされるのはちょっと…と思い、彼女は反撃に出ました。
「さいごだから。布団に入ったら静かにじっとするって約束できる?」
「あいあいさー!!」
「こっち。……目ぇ…とじなって…」
十四松に約束を取り付けた彼女は、身体を起こし、十四松の顔を自分に引き寄せます。その時、十四松があまりにも嬉しそうで期待の篭った目をしていたので、そこで彼女の雄イッチがカチッと入ってしまいました。唇が重なると、巧みな彼女の舌遣いに、十四松は翻弄されるがままです。
「…んんっ!?…ふ……っあ…ん……む…んっ!」
「………っ……ん……」
ちゅっとして終わりだと思っていた十四松は、彼女がちゅうちゅうと角度を変えて唇を吸ったり、にゅるりと口内に舌を入れられたのでびっくりしました。十四松の身体中の力はみるみる抜け落ち、息をする暇も与えてはくれない彼女の巧みなキスに、膝はもうガクガク。唇を離してもらえた頃には、十四松の十四松もすっかり元気になっていましたが、キスをする前にした約束があるので続きはおあずけです。
「っぷはぁー!!はぁ、ハァハァ……名前、ちゃん…いまの…っ」
「十四松の口のナカ、あついねぇ…」
「…!!!」
「どう?……コーフン、した?」
十四松は、よだれを垂らしながらぼんやりと彼女を見遣ります。するとそこには、熱に浮かされながらもオトナの余裕というものを漂わせた妖艶な彼女がいたので、さらに元気になりましたが、するりと彼の頬を指の背で撫で布団に倒れた彼女を見て、下半身に集中した熱をどうすることもできずトイレへ逃げ込むしかできないのでありました。もちろん、トイレから帰ってきた十四松は、苦しそうに眠る彼女のベッドに遠慮がちに入ってそのまま寝ます。
次の朝、目が覚めた時、彼女はまだ眠っていて、その寝顔に昨日の妖艶な顔と濃厚なキスのことを思い出して照れて真っ赤になっている十四松は、床に落ちていた自分のスマホを見つけました。そしてチラッと彼女がまだ眠っているのを確認して、アプリをタップしました。弟のトド松から教えてもらった便利なアプリで、サイレント機能のついたカメラアプリです。十四松は息を止めて彼女の寝顔を撮影しました。機能の勝手がまだよく分からなかったので連写してしまいましたが、彼女はスーと小さな寝息を立ててまだ眠っています。
『ぼくの彼女、オトコ前でした。しかもちゅーがものスゴく上手でした』
と開いたままになっていたチョロ松にラインを送り、十四松はカメラで収めた彼女の寝顔を見て
『この子、ぼくの子』
と送ろうとしましたが、画像の添付はまだよく分からなかったので、言葉だけ送ったのでした。
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20160107
20160929加筆修正
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