短編ログ | ナノ
トカードゥ

リリー、あなたにずっと言ってなかったことがあるの。
わたし、ずっと好きだった。

「ジェームズのことが、好き」

わたしは、ジェームズのことがずっと好きだったの。
あなたは、知らなかったでしょ?
だって、わたしはずっとあなたの味方だったから。

毎朝あなたは、ジェームズからの告白を鬱陶しそうにしてたわね。
授業中や、教室移動の時も、あなたに彼は付きまとっていた。
嫌そうな表情、怒りに震わせる拳、心底呆れたと物語る肩。
わたしは、そんなあなたを、ずっと隣りで見てた。

リリー。
あなたが、ジェームズを嫌っているのは、なにも彼の告白が鬱陶しいからとか、目立ちたがりの傲慢ちきだからという訳だけじゃないことも、わたしは知っている。

幼馴染の彼のことを、あなたはいつも心配していた。
彼の話をするときのリリーも、わたしはずっと隣りで見ていた。

だから、あの時もわたしはあなたの側にいた。
自分から離れていく大切な存在を、なんとかして繋ぎ止めようとして、そして、失敗したあの時も、わたしはあなたの側にいたの。

リリー、あなたはとても賢く、華やかで、優しくて、美しい人。
そして、わたしの友達であり親友であり、姉であり、妹のような存在。

同時に、憎くもあり、羨ましくもあり、そして、それから、それから――

「泣かないで、リリー」

リリー、あなたにずっと言ってなかったことがもう一つあるの。
わたし、ずっと好きだった。

だけど、このことを伝えたら、今の関係が崩れてしまいそうで怖かったの。
やっとここまで気付いてきた関係を自分の手で壊してしまうのは、とても、恐ろしかった。

最初は、なんでも完璧にこなせるジェームズが好きだった。
リリーのことを、彼がどんなに好きだと愛していると叫んでも、あなたは彼の気持ちに答えることはなく、見向きもしていなかった。

そんなあなたを、恨めしくも思ったこともある。
けれど、よくよく考えてみると、わたしはね、リリー。

「リリーのことが好きなジェームズのことが、わたしは好きだったの」

やっと分かった自分の気持ち。
今度は素直になってみようって、わたし思ったの。

リリー、今のあなたが誰を好きか、なんて、あなたとこれまでずっと一緒に過ごしてきたわたしには、手に取るように分かるわ。
あなたの好きな人が、わたしじゃないってことも分かってる。

今のあなたの好きな人は、あのジェームズ。

「そうよね、リリー?」
「……ナマエ、聞いて、私は」

リリー、わたしは――あなたのことを好きなジェームズを見て、彼のことを好きだと錯覚していたようなの。
これって、どういうことか分かる?

「…それはね、つまり」

わたしは、あなたのことが好きだったと言うこと。
あなたへの思いを、ずっとジェームズにすり替えて、勝手にあなたを憎んで、勝手に怖くなって、勝手に、勝手に…

「リリー、急に変なこと言ってごめんね」
「……んじゃない」

「え?」

「別に変なことじゃないわ!」

そんなに必死そうな顔をされると、なんだか居たたまれない気持ちになるんだけど。
そんな目も、眉も、口も、わたしは見たことないよ。

「ナマエ、もっとちゃんと私のことを見て!」
「…え?」

「ナマエは、私のこと全部分かってるつもりの様だけど、何一つとして私のこと分かってないわ!」

目の前がくらくらする。
リリーの顔がどんどん近付いてくる。
あなたのいつもの柔らかな、優しい果実の香りで肺がいっぱいに満たされる。

「ナマエ、私もあなたにずっと言ってなかったことがあるの」

リリーは、わたしの言葉をそっくりそのまま真似をして、そっとくちびるをわたしのものへ重ねる。
なんと言うことなの。

「私は、ずっと、あなたのことが好きだった」
「――り、リリー」

「だけど、あなたはジェームズのことが好きで」
「――知ってたの!?」

「私達、女の子同士だし…まさかミョウジのアイツへの想いが勘違いだったなんて、夢にも思わなくて。ごめんね、言葉がまとまってなくって…わたし、ずっとあなたに自分の気持ちを伝えたかったの。

私、人を好きになるって、どういうことか分からなかったから…その、それも女の子のことを好きになるなんて、思ってもいなかったし…ナマエは普通の男の子が好きな女の子だと思ってたから、私のこの気持ちはあなたの邪魔になるだけだって、ずっと隠してきたの。

でも今日、あなたから大事な話があるって言われたとき、正直ドキッとしたわ…もしかしたら、私の気持ちがバレちゃってて気持ち悪がられてたのかって…でも、違った」

リリー、わたしは、ちゃんと笑えてるかな。
だらしない顔になってるかもしれないけれど、あなたの顔もすごく緩み切った顔になっているから、お互い様よね。

こんなにも近い場所で、あなたの瞳を見つめられる日が来るなんて、まるで夢みたい。
うれしい、すき、だいすき。

「あなたは私と同じ気持ちだった」

私はね、ナマエ
あなたに人目惚れだったのよ

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20131019
title by annetta(http://annetta.hanagasumi.net/)

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